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石破茂氏と太田光が語るウクライナ侵攻「日本社会では『プーチンのことも理解しろ』と言いにくい」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.03.30 06:00 最終更新日:2022.03.30 06:00

石破茂氏と太田光が語るウクライナ侵攻「日本社会では『プーチンのことも理解しろ』と言いにくい」

 

 ロシアウクライナ侵攻直後から、この男の知見が自民党内で注目を集めている。防衛庁長官、防衛大臣を計3年近く務めた石破茂氏(65)だ。これまで、たびたび石破氏と議論を交わしてきた「爆笑問題」の太田光(56)が、あらためて石破氏に “本当の安全保障” を問う。

 

太田 ウクライナ侵攻での、今の日本政府の対応を見ていて、「そうじゃないだろ」という思いがあるでしょう?

 

 

石破 外交や安全保障は政府の担当者にしかわからないことが多いので、どうしても評論家みたいになってしまいますが、「今回のロシアの行動は日本がもっとも強く非難すべき」と思っています。

 

 日本と中立条約がありながら、1945年にソビエト連邦はそれを一方的に破棄して攻め込んできた。今なおソ連の後継国であるロシアが北方領土を不法占拠している。ウクライナと同じことを日本はやられてきた。

 

 それにプーチン大統領の “核の脅し” を非難できるのも、唯一の被爆国である日本じゃないですか。だからこそ、日本は欧米に追随するだけでなく、今までの主張の正当性を世界中に訴える機会だと私は思います。

 

太田 プーチンが核をちらつかせる一方で、バイデン米大統領はNATO加盟国が攻撃を受けない限り、軍事介入しないと表明している。それは今、ロシア、米国ともに相手への「核抑止力」が効いているということですよね?

 

石破 そうですね。

 

太田 バイデンとプーチンは言ってみれば「核抑止力、効いているよね」という探り合いをしている。そのなかでずっとウクライナのゼレンスキー大統領は、NATOには「加盟したい」「軍事介入してくれ」と言い、ロシアには「対話しよう」と呼びかけて、どちらにも無視されている。

 

 俺はウクライナが核抑止力のいちばんの被害者だと思うんです。核抑止力で守られてきた世界秩序が、それゆえに戦争を終結できないという自己矛盾にここにきて陥っている。だから今一度、安全保障を検証するべきだと思うんです。

 

石破 賛成です。ウクライナは核兵器を手放したからこうなったと思っているでしょう。

 

太田 ゼレンスキーもそう思っているでしょうね。「約束したじゃないか」と。

 

石破 ウクライナは1994年の「ブダペスト覚書」で、核不拡散条約への加盟と引き換えに、米国、ロシア、英国から安全保障が約束されました。でも、こんなことになった。

 

 私は、人間の心がきれいならば平和が来るとは思いません。勢力均衡が保たれることで、戦争が起こらないのだと思います。それが崩れかけている。北朝鮮も「核を放棄したらまずい」と思っているはずです。

 

 そして日本は「核抑止力とは何か」ということを突き詰めて考えてこなかった。「非核三原則」を唱えているだけでは、平和は維持できない。むしろ「持たず、作らず」を維持しながら、「持ち込ませず」については議論をするべきだ、と私は思うんです。

 

太田 議論はしてもいい、と。

 

石破 議論はすべきですよ。国民的大議論をして、いずれ結論を出さないといけない。

 

太田 そうですね。いずれ結論を出さないといけない。

 

石破 ロシアにとっては、NATOの拡大はやはり恐怖だったんだと思います。

 

太田 そりゃそうですよ。

 

石破 「キューバ危機」は米国のフロリダ州のすぐ先にあるキューバにソ連が核ミサイルを置いたらどうなるんだ、ということだった。その立場が逆になった。ロシアにとってはNATO拡大で、すぐ近くに米国の核ミサイルが来るぞ、という話なんですよ。

 

 だから、米国内でも「NATO拡大はほどほどがいい」「ロシアを追い詰めると、何をするかわからないよ」という議論が相当にあったなか、現実に戦争が起きたわけです。

 

太田 俺はやっぱり、この戦争の和平は米国にしかできないと思う。米国としたら、ロシアが中国と手を組むのは嫌でしょう。だから絶対に、最後は自分たちが音頭を取って、和平を仕切りたいはずなんです。

 

石破 そこで、どうやってロシアの顔を立てるのか?

 

太田 プーチンはずっと「俺の話を聞いてくれ」と言っていたじゃないですか。論文まで出してね。これを言うと「プーチン擁護か」とか言われるけど、ロシア人にとって、キエフとクリミアは歴史的にも重要なエリアですよ。そこをNATOに獲られる焦り、緊迫感があるわけじゃないですか。

 

石破 そうでしょうね。

 

太田 俺はバイデンがその緊迫感をあまりにも理解しようとしなさすぎた、と思うんです。それとも無視したのか。

 

石破 太田さんが言ったことはまさにロシア側の主張なんですよ。停戦に向かうためには、ロシアの言い分も呑んだ落としどころを探さねばならない。

 

 今年2月にフランスとドイツが仲介した「ミンスク合意」(ドンバス地域でのロシアとウクライナの停戦協定)がひとつの落としどころだったと思うんです。でも、ゼレンスキーはそれを蹴った(項目の修正を求めた)わけです。

 

太田 日本社会でも、「プーチンのことも理解しろ」とテレビで言うと「向こう側につくのか」と言われるし、「ゼレンスキーはミンスク合意の約束を守らなかった」というのさえ非常に言いにくい。「ああ、戦前の日本もこんな感じだったのか」と思いますけど。

 

石破 こういう感じで対米開戦になったんでしょうかね。

 

太田 やっぱり、なんでも言える空気がないと危ないですよね。俺も、また炎上するのは嫌だし(笑)。

 

石破 私だって嫌だよ(笑)。

 

太田 本当に、米国はプーチンを肯定するではないにしても、少なくとも理解しようとしなかったんじゃないか、と俺には見えてしまう。

 

石破 米国は今回、「唯我独尊」的な態度が強くうかがえますよね。でも、戦争を終わらせるためには、ロシアの顔も立てなくちゃいけない。

 

太田 日本は、そういうことを米国にアプローチできないんですか?

 

石破 日本が言っても、一蹴されるでしょう。

 

太田 俺、『月光仮面』の原作者の川内康範さんの自伝を読んだときに「なるほど」と思ったことがあって。米国で絶対正義の『スーパーマン』が流行っていたけど、日本ではヒーローになり得ないと思ったそうなんです。

 

 なぜかといえば、日本は戦前と戦後で「正義」が180度変わった国だから、日本のヒーローは “正義の隣” にいる人じゃないとダメだ、と。それで作ったのが『月光仮面』。だから、「正義の味方」と名乗るんです。

 

石破 あ〜なるほど! 「俺が正義だ」じゃないわけだ。

 

太田 そうなんです。米国の隣にいる戦後の日本というのがまさにそうで、つねに “正義の味方”。だから、米国の “絶対正義” をチェックして疑うという役割が日本には課せられていると思うんです。

 

石破 米国は唯我独尊だし、ときどき勘違いもする国だから、日本が「それはおかしいんじゃないの?」と言えることはとても大事なことだと思います。進言したら米国は怒るかもしれない。

 

 でも、そうしたら、「アジア太平洋戦略が成り立たないよ」と言えばいい。へつらっているだけ、と思われたら、どこにも信用されないと私は思います。

 

太田 だから、まさに岸田(文雄)総理が米国にそういう提言をするべきだと思うけど、できますかね?

 

石破 期待したいですね。

 

太田 岸田さんに石破さんがそれを提言してみては?

 

石破 話してみますかね。

 

太田 「聞く力」を持っているはずだから(笑)。

 

石破 そうですね(笑)。

 

いしばしげる
1957年2月4日生まれ 鳥取県出身 1986年の衆議院議員総選挙で初当選。2007年の福田康夫内閣で防衛相に。以降、農水相、内閣府特命担当相(地方創生、国家戦略特別区域)を歴任。自民党内では幹事長、政調会長を歴任した。自民党総裁選は2008年、2012年、2018年、2020年と4度出馬し、いずれも敗れた

 

おおたひかり
1965年5月13日生まれ 埼玉県出身 日大芸術学部中退後の1988年に田中裕二と「爆笑問題」を結成。『サンデー・ジャポン』(TBS系)、『太田光のつぶやき英語』(NHK Eテレ)などに出演。著書に『芸人人語』(朝日新聞出版)、『憲法九条の「損」と「得」』(中沢新一氏との共著、扶桑社)などがある

 

( 週刊FLASH 2022年4月12日号 )

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