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皇室への “不敬デマ” を日本国民はなぜ信じるのか…成城大学教授・森暢平氏と不敬発言研究家・高井ホアン氏が語る報道への姿勢

社会・政治 投稿日:2022.04.25 06:00FLASH編集部

皇室への “不敬デマ” を日本国民はなぜ信じるのか…成城大学教授・森暢平氏と不敬発言研究家・高井ホアン氏が語る報道への姿勢

高井氏(左)と森氏

 

森 情報統制がない21世紀でも、皇室は口コミの対象です。昨年8月まで、眞子さんと小室さんについて、今にも破談になるような報道がおもしろおかしく流されていました。

 

 しかし、少なくとも2020(令和2)年11月の段階で、結婚が秒読みであることは、その月の秋篠宮殿下の会見で明白でした。メディアの人たちは当然そのことを知っていたのに、「読売新聞」が2021(令和3)年9月1日に「年内結婚へ」とスクープするまで、どこも報じなかったのです。

 

高井 真相が明らかにされないから、都市伝説や噂が生まれるんですね。「虎ノ門事件」(山口県選出の代議士の息子である難波大助が、1923年、大正12年に当時の裕仁皇太子を狙撃しようと試みた事件)では、「昭和天皇が、難波の許嫁を手籠めにした復讐だった」という噂が、かなりの影響力をもって広まり、永井荷風のようなインテリですら日記に書き残しているほどです。情報が限られていたなかでの噂ではありますが、庶民が大逆犯に同情的な視線を向けていたわけです。この噂は、戦後になっても信じられていた記録があります。

 

森 情報の飢餓状態のなかで、みんないろんな情報を語り出すわけです。昨年、ある大学の先生が「小室さんの周辺には反社会勢力がいて、宮内庁が身体検査をやり直し、間もなく破談になるのは確実」と、私に耳打ちしました。私は反証情報を示したのですが、相手は納得しなかった。そこで破談がなければ私の勝ち、破談すればその先生の勝ちということにして、負けたほうがランチを奢ることにしたんです。もちろん私の勝ちでした。“素人” 相手に悪いなとは思いましたが(笑)。

 

高井 明らかな “不敬デマ” や誹謗中傷を信じる人が、一定数いるのはなぜでしょうか。

 

森 新聞などの “主流派” メディアや宮内庁が否定せず、放置していることもあるでしょう。今の新聞の皇室報道って、過剰な敬語や情報源に対する配慮、有り体に言えば忖度があって、リアルじゃないんですよね。

 

 一方でSNSには、たとえば「東宮御所に紀子さまの親族が住んでいる」とか「悠仁さまが皇族特権で筑波大学附属高校に入学した」とかいう、もっともらしい情報が書き込まれています。紀子さまの要請で、入試制度を変えることなんてあり得ないわけですが、“主流派” メディアは、それを完全に無視しているわけです。

 

高井 私の本を読んで、「まるで戦前のSNSですね」と言う人がいました。当時の「特高月報」は、誰が何を言ってるか、特高警察の力で丸裸にされてしまっているわけですが、現代のヤフーニュースのコメントやSNSのほとんどは匿名じゃないですか。小室さんについて「こんな皇室でいいのだろうか」というような偉ぶったコメントを書き込んでいるのはどういう人たちなのか、気になりますね。

 

森 私も気になっているんです(笑)。そもそも情報というのは常に曖昧なものです。それでも、私たちは安易に真実を求めようとしてしまう。その欲求を解消してくれるような情報に飛びついてしまうのだと思います。

 

高井 小室さんと眞子さんへの報道合戦はまだ続きそうですね。

 

森 小室さんをめぐって、「週刊新潮」はニューヨークでの生活、とくに警備費に最大8億円が支出されるなどと書いています。これは、現地の警備会社に、警備員の費用などの見積もりを依頼し、算出された数字にすぎません。そもそも、眞子さんや小室さんの写真を見れば、警備がついていないのは明らかです。失礼ながら、あまりいい服装をなさっているとも思えません。

 

高井 生活はかなり苦しいはずですよね。

 

森 「アサヒ芸能」などは、「間もなく小室さんのビザが切れ、ウィスコンシン州のロースクールに入り直す」などと書いています。根拠のない流言飛語ですが、小室さんをスケープゴートにしてストレスを発散しようという人たちには、貴重な情報なんです。

 

高井 こういう報道を見ていると、悠仁さまの妃になる人が現われるのかなと思ってしまいます。

 

森 跡継ぎの問題は、陰謀論と結びつきがちです。SNSでは「皇室を断絶させようという反日左翼勢力が、女性・女系天皇を画策している」というようなことが言われています。私たちは、過去の情報統制とは異なる形で、情報に踊らされ、陰謀論を信じてしまうのではないでしょうか。

 

高井 皆、わからない、知らないことを自分に都合のいい話で埋めようとするのですね。

 

森 むしろ “情報の曖昧さ” に耐える力こそ、大切なのではないでしょうか。私たちは、常に白黒つけたがる。どちらが正義で、どちらが悪か。ツイッターを見ると、愛子さま派と悠仁さま派で、毎日罵倒し合っています。皇室の存続可能性にもかかわる異常な事態です。

 

高井 戦前や戦中期は、検閲がありましたが、現代に検閲はありません。ネットが出現し、情報の民主化はさらに進んだはずです。それなのに、その当時と同じ状況が続いているのはヘンですよね。

 

森 フェイクニュースや流言飛語は100年前もあったし、今後も完全になくなることはないでしょう。“主流派” メディアによるニュースも、ネット上の噂も、どちらも信じすぎずに、その情報が生成されるメカニズムを考えてみる。そんな態度こそ、本当の意味でのメディアリテラシーなのではないでしょうか。

 

 人々が不安にさいなまれているとき、陰謀論ははびこるという。飛び交う “不敬デマ” は、現代の日本社会の不安定さを反映しているのかもしれない。

 

もりようへい
1964年生まれ 埼玉県出身 「毎日新聞」の記者として皇室や警視庁を担当後、CNN日本語サイト編集長などを経て現職。「サンデー毎日」で「社会学的 皇室ウォッチング!」を連載中。新刊に『天皇家の恋愛』(中公新書)

 

たかいほあん
1994年生まれ 埼玉県出身 日本人の父とパラグアイ人の母をもつ。2013年、ツイッターに開設した「戦前不敬・反戦発言bot」が人気となり、『戦前不敬発言大全』『戦前反戦発言大全』(ともにパブリブ)を上梓する

 

( 週刊FLASH 2022年5月3日号 )

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