社会・政治
離婚後の共同親権、橋下徹弁護士が「やっと世界標準」と歓迎するも…百害あって一利なしとの声も
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.06.24 16:00 最終更新日:2022.06.24 16:00
6月21日、法務省は、離婚した父母双方を親権者にできる「共同親権」の導入を提案した。
日本では、離婚後、父母いずれかが親権者となる単独親権になっているが、共同親権が導入されれば、父母が離婚しても、親権は結婚中と同じように2人共同で持つことになる。
また、子どもと一緒に暮らして日々の世話をする「監護権」についても、父母双方が監護者になる「離婚後の共同監護」も選択肢として示される。議論の結果は、8月をめどに民法改正の中間試案として取りまとめられる見通しだ。
【関連記事:橋下徹氏、ツイッターのリプ欄が「上海電力」で埋まる…北村晴男弁護士も「きちんと説明せよ」と参戦】
「共同親権」の提案方針が報じられると、元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏は、自身のTwitterでこう歓迎した。
《やっと世界標準になる。共同親権、単独親権の選択制が妥当。家族関係は多様。一手段に限定すべきではない。当該家族関係を基に子供にとって最善の手段を適用すべき》
ネット上でも、《やっとここまできたかと感慨深い》などと歓迎する声が多くあがっている。
だが、「共同親権など百害あって一利なし。女性の相談を多く受けてきた身として、積極的メリットは見出せません」と断言するのは、離婚問題に詳しいあおば法律事務所の橋本智子弁護士だ。
歓迎する声が多かった「共同親権」の問題点を、橋本弁護士に詳しく聞いた。
ーーなぜ、百害あって一利なし、なのでしょうか?
「『共同親権』を導入すべきという主張は要するに、夫婦が別れても、子どもの父母として子育ては共同でしていくことが子どもにとって望ましい、ということですね。一般論としてはその通りです。そしてそれは、今の日本の法律でも十分に可能なのです。
民法766条1項で、《父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、……その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める》とあります。
つまり、離婚に際して子育てをこれからどうやって分担していこうか、ということを、当事者の話し合いで自由に決めることができます。これによって、たとえば週の半分ずつ子どもが父母の家を行ったり来たりするようなことだって、子どもがそれでハッピーならば、可能です。
『親権』がないから子育てに関われない、ということはまったくありません。親権があろうとなかろうと、親であることに変わりはないのですから、離婚後も父母として協力し合える関係ならば、それはどんどんやったらいい。今の法律でそれは十二分にできるんです。その意味で、共同親権は『一利なし』です。
『百害』というのは、こういうことです。
『親権』とは、子どもにまつわる重要な意思決定をしたり、子どもにとって重要な行為を代理したりする『権限』のことですが、これを、離婚後、子どもと一緒に暮らしていない親(別居親)と、子どもと一緒に暮らして実際に子育てをしている親(同居親)とが対等に持つ、ということは、別居親に、同居親に対する拒否権を与えるのに等しいといえます。
たとえば、子どもの進学。子どもが希望する私立に行かせたいと同居親が思っても、別居親がこれに反対すれば、制度上はおそらく、家庭裁判所で決めてもらわないといけないことになるでしょう。しかし、家庭裁判所の手続は通常、短くても何か月もかかりますから、普通はそれでは間に合わない。現実問題として、子どもは希望する進路をあきらめざるを得なくなります。
このとき、父母が離婚後もきちんと話し合いができる関係ならば、話し合いで解決できます。『権限』を共同で持つ必要などありません。話し合って決めればいいのですから。
『権限』といった強いものが必要になるのは、話し合いがうまくいかない、あるいはできないときです。話し合いができないような関係だから離婚するのが普通なわけですから、別居親が同居親と同等の『権限』を持つということは、実質的には拒否権に等しいわけです。
とりわけ父母間の関係がもともと対等でなく、支配・被支配関係がある場合(つまりDVです)には、別居親が無理やりその意思や要求を押し通す強力な後ろ盾にもなりうるでしょう。同居親はその支配・被支配関係から逃げたくて離婚したのに、そのような強力な『権限』を別居親が持つということは、その関係を維持する装置になってしまうのです。
もちろん、同居親が常に子どものために正当な判断をするとは限りません。しかし、そのような場合に別居親がすべきことは、拒否権を行使することではなく、まずはきちんと話し合うことです。その話し合いがうまくいかなければ、家庭裁判所で話し合い、場合によっては親権者変更の手続も考えられるでしょう。
とかく、単独親権制だと非親権者は何の口出しもできなくなるといったことがいわれますが、そんなことはまったくないのです。
ただ、同居親は、離婚のときの協議や裁判手続で、子育ての担い手として適任だということで同居親に選ばれています。そして現実にも、一緒に暮らして日々の世話をしているのですから、子どもの心身の発達状態や性格、そのときどきのニーズや、なにより子どもの意思などを、もっともよく知りうる立場にいます。
それを、別居親が拒否権という強力な権限でもってコントロールすることは、適切ではありません。
このように、父母の離婚後、『共同親権』によって子どもにとって困る場面が増えることは想定される一方で、『共同親権』がないことで、子どもが困ることは想定しにくい。だから、『共同親権』は百害あって一利なしだと言っているのです」
( SmartFLASH )