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法テラスの “過剰広告” に弁護士から疑問の声「税金で運営しているのに価格破壊起こすな」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.08.09 16:00 最終更新日:2022.08.09 16:00
「若手の弁護士と話をしていたら、『勉強や業務用の本を買うのを躊躇する』と言われましたよ。司法の専門書は1冊数万円するものもある。はたして、この制度はプラスになっているのか……」
こう嘆くのは、九州で長年活動している中堅弁護士だ。
今、弁護士業界では、とある組織が槍玉にあげられている。それは「法テラス」だ。
「法テラスの正式名称は『日本司法支援センター』です。法務省所管の準独立行政法人で、職員はみなし公務員。税金で運営されるいわば半分 “お役所” です。
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活動内容は、市民への法律に関する情報提供や、弁護士費用の立替、刑事事件における国選弁護人の制度も法テラスが運用しています。
ほとんどの人は、日常生活で弁護士のお世話になることはありませんが、何か起きた際、駆け込み寺のように法テラスに相談すれば弁護士とつながることができるんです」(司法担当記者)
市民にとっては至れり尽くせりの内容だ。さらに、法テラスはそもそも市民から認知されなければ利用してもらえないので、広告にも積極的だ。
「法務大臣の指示として、年間のホームページのページビュー数にも目標値を設定するほど重視しています。最近では、ネットで『弁護士』などと調べた人を中心に表示される『リスティング広告』を実施するなど、民間企業ばりに認知度上昇に力を入れています。
しかも広告の謳い文句は『利用件数440万件以上』『無料でご案内』などキャッチーなものばかりです」(前出・司法担当記者)
だが、法テラスのこうした “広告活動” に疑義を呈する弁護士たちは多い。
「そもそも弁護士による広告が本格的に解禁されたのは2000年から。しかし、弁護士の出す広告は、日弁連が定める広告規程により、広告方法やその文言などが事細かく制限されています。一方、法テラスには、これらの広告規定が適用されないのです。
また、通常の弁護士は個人事業主が多く、かけられる広告費用に限度があります。しかし、法テラスは公的機関ですから、税金も投入されており、広告費も潤沢です。たとえば2020年は約1億8000万円の広告費が計上されています。
これでは、相談者は次々と法テラスを経由して弁護士を選んでしまうでしょう。広告に対する制限に差がつけられ、かつ広告費用のバックボーンがある時点で、フェアネスを前提とする自由競争の土俵に立っていないんです」(前出の弁護士)
だが、法テラスは弁護士を紹介するだけのはず。相談者が法テラスを経由して弁護士を選ぶだけならば何も問題ないのではないか。
「相談者が法テラスを経由して弁護士に依頼をしたとします。すると、法テラスは弁護士費用の立替をおこなうのですが、その際に弁護士に支払われる費用総額は、『代理援助立替基準』にしたがって決められます。
これは、弁護士に非常に不利な基準で、法テラス経由時の弁護士費用総額は、通常相場の半分から3分の1程度なんです。
たとえば、“自己破産” の費用で見ると、法テラスに関係なく弁護士に直接依頼すれば約30万円が相場ですが、法テラス経由だと約12万円です。
特に由々しいのが、“誰かから訴えられた事件(被告側事件)” です。この場合の報酬は、着手金の7割にとどまり、直接依頼を受けた場合ではあり得ない水準なんです。これでは、裁判を頑張っても頑張らなくても報酬がさほど変わらない。
私はそのような不誠実を招来しかねず、『(金額が変わらないから)不誠実にやってるのではないか』との疑義を持たれかねない基準に乗りたくないことので、法テラスとの契約を打ち切りました。法テラス案件に使う時間を、他の重要案件に使いたい。
もしも上記の過剰な広告宣伝に誘導され、依頼人がこぞって法テラス経由で弁護士を利用すると、弁護士は低廉な報酬で稼働することを余儀なくされます」(同前)
弁護士があまりに低い報酬のまま働くことになれば、どうなるのか。2つの “重大な結末” を迎える可能性があるという。
「まずひとつは、一定のスキルをもった弁護士ほど、法テラス経由案件の受任を忌避します。もちろん篤志で法テラスと契約している大御所の先生もおられます。
しかし、一般的には、一定のスキルがつくと法テラス経由の案件を受任しなくなりますし、受任している大御所の先生でも、その多くは自分の事務所の若手に任せています。いずれにせよ、法テラス経由の案件の取り扱いをやめたがっている先生は多いのです。
もうひとつは、法テラスの費用には、弁護士のスキルアップ・研鑽に投資する経費が見積もられていないことです。つまり、法テラス案件ばかりで忙殺されると、スキルアップのための投資がおざなりになり、業務の質が向上しなくなる懸念がある。どのような業界でも、品質向上には投資が必要ですが、それができなくなるということです。
法テラスは一見、弁護士に払う費用を低下させるという面で、短期的には依頼者に福音にみえるかもしれませんが、低廉な報酬基準が弁護士業界を席捲することで、中長期的に見れば、弁護士のスキル向上が阻害されるうえ、弁護士が使い捨てにされてしまいます。
これでは、将来的に弁護士に依頼しようとする方々にとっても、利益になるとは思えません」(同前)
実際、ネット上の “弁護士クラスタ” の間でも疑問の声が多くあがっている。
《法テラスの基準はなんとかならないのか》
《ロースクールに貢ぎ、弁護士会に上納し、法テラスにダンピングされて、弁護士は報酬取り過ぎと世間から言われる》
《法テラス利用による依頼者側のデメリットを強調していくしかない。例えば、収入要件審査の煩雑さ、援助決定までのタイムラグ》
《法テラスの広告宣伝なんかほとんどいらんねん。民業圧迫の極味》
《相談を根こそぎもっていき、価格はダンピング、作業は各弁護士に押し付けだからそら許せん》
「苦しい状況に置かれた人のために、法テラスがあります。その理念に反対する弁護士はほとんどいないでしょう。しかし、その負担をすべて弁護士が背負うのはいかがなものでしょうか」(前出・弁護士)
弁護士に相談するのは、どんなケースであれ人生の一大事。安かろう悪かろうでは困る。法テラスは、怪しげなウェブ広告を出すぐらいなら、その費用を弁護士への適切な報酬として還元してほしいものだけど……。
( SmartFLASH )