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ポーランドがドイツに180兆円の賠償請求「国家予算の3倍」ドイツ人もあきれる
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.09.03 11:00 最終更新日:2022.09.03 11:00
ポーランドの右派与党「法と正義」のカチンスキ党首は、9月1日、第2次大戦中にナチスドイツがおこなった侵略の損害賠償として、約6兆2000億ズロチ(約183兆円)の支払いをドイツに求める方針を発表した。
この日は、ポーランド侵攻から83周年の記念日。カチンスキ党首は、「1939年から1945年のあいだにドイツがポーランドでおこなったすべてに対する補償を求めることを宣言する」と述べた。
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この法外な要求について、あるドイツ市民は一笑に付す。
「ジョークでしょ。ドイツの国家予算はだいたい5000億ユーロ。その3倍だよ。もはや笑える。ポーランドは毎年EUから200億ユーロの援助を受けていて、それにはドイツの支払ったぶんも入っている。ポーランドはこれ以上、何も得られないよ」
今回のポーランドの動きについて、ドイツ政治とEUの専門家である東京大学教授の森井裕一氏が解説する。
「ポーランドのドイツに対する賠償要求は、『法と正義』が政権をとった2015年以降、何度かなされています。
今回のいちばんのポイントは、これまでにあった1人の政治家レベルの発言と違って、専門の委員会をつくり、党として政府を動かしたうえでドイツに賠償を要求しようと、正式度が一段高いものになっていることです。
ドイツ側は、すでに過去に決着している問題で、新たにポーランドに請求権が発生しているわけではないため、議論の対象にはならないという姿勢だと思います。
歴史を振り返れば、1953年、当時の東ドイツに対し、ポーランドはソ連と一体となって賠償の請求権を放棄するという声明を出しています。
次に、1990年のドイツ統一の際に、2プラス4条約というものを結び、ドイツの国際法上の立場を確定しています。これで戦後処理はすべて終わったと、ドイツ自身も国際社会も捉えています。
終わったことについてポーランドから請求されても、ドイツは検討しないということだと思います」
なぜこのタイミングで賠償を求めたのか。
「『法と正義』の国内での立場が悪くなってきた、つまり支持率が下がってきたことがあるのでしょう。来年は選挙もありますし、ここで国民の支持を集めるため、人気取り政策としてドイツを悪者にしようとしていると野党は批判しています。
元首相でEU理事会議長も務めた『市民プラットフォーム』のドナルド・トゥスク党首が、『法と正義』の要求には根拠がないし、内政上のテコにするため賠償を利用しているだけだと指摘するなど、ポーランド国内には反対の声もある。ドイツの立場もそれと同じです」
賠償を正式決定して、ポーランドが国としてドイツに要求することは可能なのだろうか。
「可能ですが、ドイツは従来の立場から譲らないと思います。ほかの国も国際法の一般的な常識からすれば、今回のポーランドの要求は無理筋だと考えるはずです。
ポーランドだけでなく、かつてギリシャがユーロ危機のとき、やはりナチスに対する賠償の話を出してきました。そういうふうに散発的にドイツへの戦争賠償を支持する国や政党が今後も出てくるかもしれませんが、大局的に見て、ドイツを敵に回してポーランド側につくことはあまり考えられません。
いま各国で愛国的な保守派やポピュリズムが台頭してきていますが、それがポーランドの場合は『法と正義』なのです。こうした政党が長く政権を握ると厄介ですね。
ポーランドはロシアのウクライナ侵攻に関して、EUのなかでも突出して難民を多く受け入れたり、ウクライナへの軍事支援をおこなって非常に称賛されていたのですが、このような的外れな要求をして評価を下げると何の得にもなりません」
日韓のあいだでも賠償問題はときどき頭をもたげる。
「日本もドイツと同様、国際法の視点から考えて、戦後処理が終わっていることを再び持ち出されても、過去の合意を引き合いにして取り合うことはないでしょう。つまり、日韓請求権の交渉で結ばれた条約から譲るものはないということです」
前出のドイツ人も、「日本は韓国にもう賠償金は支払う必要はない」とする一方、「ワルシャワでひざまずいて謝った西ドイツのヴィリー・ブラント首相のように、日本も戦争の過ちをきちんと認めないといけない」と語った。
戦争責任の問題についてしばしば比較される両国だが、日本も韓国はじめ近隣諸国とうまくつきあっていくしかない。
( SmartFLASH )