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岸田首相、ニューヨークで「新しい資本主義」訴えるも「NISA恒久化だけではお粗末」とエコノミスト
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.09.25 11:00 最終更新日:2022.09.25 11:00
岸田文雄首相は、9月22日、訪問先のニューヨーク証券取引所で講演し、自らの掲げる「新しい資本主義」に基づき、日本へ投資するよう呼びかけた。
そのなかで、時限措置である「NISA(少額投資非課税制度)」の恒久化も訴えた。現状、NISAには「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3種類あるが、これを一本化して無期限で非課税とし、投資枠や限度額も拡大する方向と見られる。
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岸田首相は、5月に訪問したロンドンの金融街シティでも講演し、「眠り続けてきた1000兆円単位の預貯金をたたき起こし、市場を活性化するための仕事をしてもらう」と主張した。はたして、「NISA恒久化」の効果はどれほどなのか、エコノミストの明治大学教授・飯田泰之氏に話を聞いた。
「NISAの恒久化はこれまで何度も議題に上っていますが、税収減につながるということで、財務省や党の税制調査会の反対で頓挫してきました。財務省や税調寄りとみなされることが多かった岸田首相が、ここまで強い姿勢でNISA恒久化を押し出したことは、正直、驚きでした。
個人の資産形成として、預金と投資のバランスが取れるのは望ましいことですし、銀行預金に比べると株式投資はインフレに強いですから、個人レベルで、預金以外に株や投資信託を保有するのは強くおすすめします」
岸田首相は「貯蓄から投資へ」と言うが、なぜ投資が重視されるようになったのか。
「銀行の預貸率(預金に対する貸し出しの比率)が低下したことが理由です。これまでずっと、銀行は企業に貸し付け、企業は投資(工場の新設や研究開発など)をおこなってきました。
しかし、経済停滞が長く続き、銀行によっては融資より国債保有を重視するところが増えた。このため、国は『個人が直接企業に貸し付ける』、つまり投資するよう促しているのです」(飯田氏)
とはいえ、大きな視点で見ると、「貯蓄から投資へ」の方針には疑問も残るという。
「岸田政権は、悪くはないがそれほどたいそうなものでもないという政策が多い。NISA恒久化もその一つです。『新しい資本主義』という大きな看板のもとで出てきたアイデアとしてはお粗末でしょう。
NISA恒久化は、税額控除を増やすことで、単純に中間層の経済活力を向上させようという政策です。現状の非課税限度額は800万円ですから、規模としては明らかにサラリーマンなどに向けたものです。
しかし、株式投資というのは、出資と違って、基本的には既存の株主から別の株主に所有権が移るだけ。日本経済のパイが増えるわけではありません。そもそも、企業の投資意欲が低調なので、生産設備や研究開発などにお金が振り向けられるかどうかわかりません。
簡単にいえば、株や投資信託に投資する人が増えても、日本全体の資産が増えたり、年金が安定して経済的余裕が高まったりするわけではありません。
株式投資で儲かるのは、経済が成長し、企業の配当が上がるからであって、もっと日本全体の経済力アップを目的とした政策をおこなうべきでしょう。
たとえば、現在、世界的にサプライチェーンの組み換えが進み、脱中国の流れが加速しています。だとしたら、生産拠点としての日本のメリットを強く打ち出すためにも、電力の安定供給など地道な経済対策をすべきです。
そのうえで、企業に実物投資してもらい、新たな価値を創造してもらうのが望ましいあり方でしょう」(同)
誰だって、アメリカのように社会変革を起こす会社が次々と生まれ、活気がある国に投資したいと思うだろう。中間層を豊かにするのは重要だが、「新しい資本主義」という大プロジェクトを実現するには、企業に実物投資してもらうことがより重要なのだ。
( SmartFLASH )