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偵察気球で露呈した日本の防空体制の弱さ…空自・元管制員はロシア機を「列島ツアー」と警戒

社会・政治 投稿日:2023.03.14 11:00FLASH編集部

偵察気球で露呈した日本の防空体制の弱さ…空自・元管制員はロシア機を「列島ツアー」と警戒

撃墜された中国偵察気球の残骸を回収(提供:Mc1 Tyler Thompson/Us Navy/Planet Pix/ZUMA Press/アフロ)

 

 2月4日、米戦闘機F-16は、1万8000メートルの高高度上空を飛行中の偵察気球に対し、領空侵犯だとしてミサイルを発射。アメリカ東部海岸のカロライナ州沖で撃墜した。

 

「ミサイルによる偵察気球の撃墜は、中国に対する米国の強烈な意思表示だと私は見ています。というのは、通常のバルカン砲でも撃墜は可能なはずです。それにもかかわらず、米国はミサイル攻撃をおこないました。

 

 

 おそらくこれには、リスクをともなってもかまわないという、米国当局の本気度があったと推測できます。

 

 つまり、バルカン砲なら軽微な破壊ですんだはずですが、ミサイルで撃墜すれば気球はもちろん、搭載されていた機器や装置まで粉々に破壊しかねないので、相手国がどんな情報をどれだけ入手したか、それを解析する手がかりをも失うことになるからです」

 

 航空警戒管制員として航空自衛隊に勤務し、レーダーサイトにおいてわが国領空の防衛に長年従事した清水良明さん(仮名・78)は、このように語る。

 

 米空軍は、2月4日の偵察気球撃墜を契機に、同月10日、11日、12日と相次いで、米国領空の高高度を通過する飛行物体をミサイルで撃墜している。

 

 ただし、これらについては、どこの国のものか、何の目的なのか、いまだ公表していない。10日に撃墜した飛行物体は小型自動車程度の大きさ、11日は小さな円筒形、12日は八角形だと公表しただけである。

 

 米国防省や国家安全保障会議などは、4日に撃墜した飛行物体は、中国が打ち上げた偵察気球であると断定している。それは、偵察気球が中国広東省の海南島から打ち上げられた時点から、常時追跡をおこなっていたからだという。

 

 偵察気球の目的は、太平洋の諸地域に展開する米軍基地の動向や基地周辺の地形、気象条件などの情報収集が狙いだったとしている。

 

 ところが、台湾およびフィリピンの上空を飛行して太平洋上に出た偵察気球は、気流などの影響でとんでもない方角に流され、米国アラスカ州の防空識別圏に侵入し、その後もカナダや北米大陸の高高度を飛行し続けた。

 

 そのため、米空軍は撃墜後の落下物による二次被害を避けるため、カロライナ州沖の海上で撃墜したのだ。

 

 気球を撮影した写真を分析した米当局は、気球には複数のアンテナや通信傍受機器などが搭載されていたことを突き止め、中国側の「気象用である」との主張が偽りだと断定した。

 

「米国は撃墜という強硬手段を選択したことで、中国に対し、領空侵犯はけっして看過しない、軽率な行動を取れば断固たる措置を取るとの警告を発したものと理解できます。

 

 一方、日本でも、2019年11月に鹿児島県、2020年6月に宮城県、2021年9月に青森県の上空で確認されたほか、2022年1月に九州西方沖で、中国の偵察気球らしき物体が目撃されています。

 

 青森県には米軍も共用する三沢基地があり、南西方面には沖縄の米軍基地をはじめ、現在建設が進められている馬毛島や石垣島での新駐屯地など、中国としてはノドから手が出るほど欲しい情報がたくさんあります。

 

 日本では、これまで気球が飛来しただけでは撃墜できないとする意見も根強くありましたが、2月になって無人気球や無人機(ドローン)も撃墜の対象になると判断を変更しました。とはいえ、米国に比べれば危機感が薄いと言わざるをえません」(軍事ライター・岡村青氏)

 

 現在、わが国は北から南まで28カ所にレーダーサイトを設営し、空からの不法侵入に監視の網を張りめぐらせている。中・露による領空接近は恒常的におこなわれており、2021年には領空侵犯も数回確認されている。

 

「彼らの目的は何かといえば、緊急発進(スクランブル)時に交わすレーダーサイトと、パイロットの通信傍受や暗号などの情報収集です。したがって、直接的な軍事面だけでなくインテリジェンスの能力についても、彼らは情報を得ていると考えるべきです。

 

 むろん日本も、同じく相手側の傍受能力を探ってますから、この点では、両者とも情報戦を演じているといえますね」(岡村氏)

 

 前出の清水氏は、空自の警戒管制員として、東海方面や北陸方面のレーダーサイトに勤務し、ロシア機などの日本飛来に監視の目を光らせていた。

 

「私の場合、わが国本土に接近する飛行物体をレーダーで捕捉し、それを識別員に伝達するのが仕事でした。飛行物体は軍用機も民間機も、飛んでくるものはなんでも捕らえるんです。民間機の場合は私たちに対し、事前に飛行ルートが伝えられているので問題ないのですが、困るのは飛行ルートが不明な物体です。

 

 これをレーダーで捕らえ、それを識別員に伝達する。識別員が飛行物体の機種や機数を判断し、国籍不明機であればその後ただちに管制員が警戒指令を発し、スクランブル発進を命じるんです。レーダー補足からスクランブル発進まで約5分ほどです。スクランブルのパイロットも24時間、常時発進できるよう待機しています」

 

 清水氏によると、ロシア機には知られざる飛行ルールがあったという。

 

「私たちはかつて、ロシア機の日本飛来についてこうたとえたものですよ。『またもお出でなすった、東京急行が』ってね。

 

 というのは、ロシア機は沿海州方面を飛び立ったのち、北海道沖上空を通過して太平洋に出て南下し、東京湾沖周辺でUターンしてもとの基地に戻るパターンだったからです。

 

 しかし、最近ではこのたとえも変わって、『日本周遊』とか『列島ツアー』などと呼んでいます。東京止まりでなく、太平洋から日本海に出て日本列島をぐるっと周回しながら、ロシアに戻るパターンに変わったからです」

 

 それはつまり、情報収集するエリアが広がったことをも意味する。こうした中露の露骨な領空への接近は、国家戦略の観点からも看過できない大問題と言わざるを得ない。

( SmartFLASH )

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