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いわき市「秋田犬ブリーダー」殺人事件…逮捕された内縁妻は品評会にも姿を見せず【現地ルポ】

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2023.04.10 16:20 最終更新日:2023.04.10 16:20

いわき市「秋田犬ブリーダー」殺人事件…逮捕された内縁妻は品評会にも姿を見せず【現地ルポ】

根岸三男さんの自宅。1階に根岸さん、2階に容疑者とその実子である娘(35)が住んでいるが、事件後は無人状態

 

 福島県の人たちは、太平洋沿岸に沿って仙台方面に向かう国道6号線を「浜通り」と呼ぶ。これに対して、県の中央を通る国道4号線を「中通り」と称している。

 

 2023年に入り、浜通りを舞台に凶悪事件が続発している。1月、いわき市山田町で77歳の男性が自宅寝室で絞殺された。2月、いわき市勿来町で85歳の女性が鈍器のようなもので殺害され、金品が奪われた。さらに同月、南相馬市原町区で77歳の男性が複数の男らに襲撃されて重傷を負い、現金および貴金属が奪われた。

 

 

 勿来町と南相馬市の被害者は、ともに邸宅を構える資産家であり、いわゆる「ルフィ」が首謀者である広域強盗事件との関連性が疑われた。実際、南相馬市の事件は、指示を受けた闇バイトの男らによる犯行だったことがわかった。

 

 一方、いわき市山田町の殺人事件については、容疑者が逮捕されたことで一区切りがつき、周辺住民の不安は解消された。

 

 福島県いわき南警察署は、3月13日、柳田マサ子容疑者(75)を殺人の疑いで逮捕した。同署発表では、「被疑者は令和5年1月14日午前3時ごろから翌15日午前10時ごろまでの間、いわき市山田町堀ノ内の居宅において根岸三男さん(当時77歳)に対し、両手で頸部を絞め、同人を頸部圧迫による窒息死させて殺害した」とされている。

 

 同警察署の渡辺政喜副署長は、事件発生から逮捕まで2か月かかった理由をこう説明する。

 

「被疑者の供述と実際の状況の整合性をはかるため、裏付け捜査に時間を要しました。たとえば窓ガラスは割られていない、玄関のカギは開けられた状態だった、外部から何者かが侵入した形跡はない、高齢女性で体力もないのに本当にやれるのかどうか……。これらをひとつひとつ調べる必要がありました」

 

 しかし、なぜ容疑者は犯行に及んだのか、もっとも知りたい動機については明らかにしなかった。

 

「本件は今後起訴され、裁判に付されるものと思われるので、詳しい犯行状況や動機については公判に影響するので申し上げられません」(渡辺副署長)

 

 犯行に至った背景について、何か手がかりを得られないか。私は、いわき市山田町の事件現場に向かった。JR常磐線植田駅から北西に約5キロの山間部に広がる集落だ。

 

 根岸三男さんの居宅は2階建て。1階に根岸さん、2階に容疑者とその実子である娘(35)が住んでいる。だが、事件後は無人状態で、窓には白いカーテンが閉められている。

 

 門の入口横には白いワゴン車が止められ、敷地内に人が入れないようになっている。門の右側には鉄製の柵で囲われた犬小屋があり、さらに玄関付近にはチョコレート色の軽乗用車が停まっている。

 

 近隣住民はこう語る。

 

「白いワゴンには旦那が乗っていて、軽四輪は奥さんが運転していた。それから、秋田犬が3匹いたよ。旦那は秋田犬のブローカーみたいなことをしていたが、定職はなくブラブラしていたね。

 

 もっとも、だんなは地元の人じゃないし、20年ほど前によそから移ってきた。だから町内会にも入っておらず、近所付き合いはほとんどなかったね」

 

 現場周辺は水田や山林が広がる農村地帯だが、近年、宅地開発が進み、新住民が移り住んでいる。根岸さんもそのひとりだった。根岸さんは30年ほど前、勿来町のゴルフ場のレストランに調理師として務め、容疑者もキャディーをやっていたことで知り合い、交際を経て同居するようになったとのことだ。

 

「いわき市内のレストランにも勤めていて、職場を転々としていたようです。事件当時、被害者は無職でした」(渡辺副署長)

 

 近隣住民との交流は少ないながらも、根岸さんの印象は悪くなかったようだ。60代の主婦は、根岸さんの気さくな人柄をこのように語る。

 

「私は夕方ごろ、田んぼ道をウォーキングすることを習慣にしていて、ときどき自転車に乗って犬の散歩をしている根岸さんとバッタリ出会ったりするんです。

 

 そんなときは、立ち止まっておしゃべりをします。あれはいつだったかしら、根岸さんがワンちゃんの頭をなでながら嬉しそうに、『今度でかい賞をもらったんで、俺も頑張らなくちゃ』と言っていたのを覚えています」

 

 根岸さんが犬の散歩で乗っていたママチャリも、今は乗る人を喪い、庭先に放置されたままだ。

 

 根岸さんは愛犬家で、秋田犬のブリーダーであることは業界で有名だ。公益社団法人秋田犬保存会・福島県支部長の江川勝行さんはこう語る。

 

「コロナ禍で3年ほど開いていませんが、それまでは毎年秋ごろ、秋田犬の品評会をおこない、彼も参加していましたよ。会場のセッティングや見学に来たお客さんを案内したりして、気さくな人でしたね。けれど、来るのはいつも彼だけで、奥さんの姿は一度も見たことがなかったですね」

 

 秋田犬は生後4カ月で成犬になり、売買価格は、買い手と売り手の交渉によって決まるという。根岸さんの場合、ブリーダーとはいえ頭数も少なく、収入を得るほどではなかったようだ。それでも秋田犬の飼育歴は長く、無類の愛犬家であったことは確かだ。

 

「根岸さんは2017年9月、秋田犬保存会での40年の功績を称えられ、表彰状を授与されました。表彰されるのは毎年10名前後で、全国の会員のなかから選ばれるため、よほどのキャリアがなければ選ばれません」(秋田犬保存会の本部担当者)

 

 根岸さんが自転車で愛犬の散歩中、近所の主婦に自慢げに話した「でかい賞」とはこのことだったのだ。

 

 一方、容疑者に対する近隣住民の感想はほとんどなく、影の薄い女性だったようだ。

 

「庭先にいるのを見かけたときは、『おはよう』『こんにちは』程度のあいさつはするけれど、それ以上のことはなかったですね」(現場近くに住む70代主婦)

 

 容疑者は、1階の畳敷きの部屋で就寝中の根岸さんに馬乗りになり、両手に体重をかけて根岸さんの首を締め、窒息させて殺害したとされている。遺体の頭や顔面には擦り傷があり、血が滲んでいたことから、根岸さんは抵抗したと見られている。

 

 根岸さんの姿を最後に見たのは娘で、1月14日午前3時ごろ、根岸さんが手洗いに立ったときだった。翌15日の午前9時30分ごろ、1階の部屋に入った容疑者が布団の上で仰向けに倒れている根岸さんを発見し、110番通報。この後、救急隊員が駆け付け、根岸さんの死亡を確認した。

 

 最後の目撃から死亡確定まで、約30時間の空白がある。したがって、犯行はこの間、娘の外出中におこなわれたと推測されるが、「この点についても裁判にかかわるので発表はしておりません」と、渡辺副署長。

 

 だが、気になるのはこの空白の時間、容疑者はどのような気持ちで過ごしていたのかということだ。無論、これらも事件の核心部分に相当し、裁判に影響するため明らかにされていないが、30年も連れ添っただけに、さまざまな思いが胸に去来したに違いない。

 

 素手で首を絞めて殺害したということから、容疑者はよほど深い怨恨を抱いていたに違いない。実際、ひとつ屋根の下に住みながら、食事も別々に取るほど2人の関係は冷え切っていたようだ。

 

 30年連れ添った内縁の妻は、なぜ殺害に及んだのか。疑問は深まるばかりだが、まずは捜査の進展を待ちたい。

 

取材・文/岡村青

( SmartFLASH )

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