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ウクライナ「戦場ジャーナリスト」たちのギャラ事情「フジテレビの『1本50万円』が最高額」に見る日本メディアの“劣化”

社会・政治 投稿日:2023.04.19 23:10FLASH編集部

ウクライナ「戦場ジャーナリスト」たちのギャラ事情「フジテレビの『1本50万円』が最高額」に見る日本メディアの“劣化”

イラク戦争では、多くのメディアが戦地に集まった

 

 瓦礫まみれの町、泥でぬかるんだ塹壕。そして鳴り響く砲撃音――。

 

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、1年2カ月。テレビをはじめ各メディアでは、毎日のように戦地の悲惨な現状が報じられてきた。こうした報道のなかには、「ブチャの虐殺」など、国際世論を大きく動かし、戦争全体の趨勢に影響を与えたものもある。これらの情報を届けているのは、現地取材をおこなう戦場ジャーナリストたちだ。

 

 

「ウクライナへの軍事侵攻には、海外メディアを含め多くの記者が現地入りしています。戦場ですので、もちろん非常に危険です。ドキュメンタリー作家として知られる米国のブレント・ルノー氏は、ロシア軍による砲撃中に死亡しましたし、朝日新聞のカメラマンも、首都キーウへのミサイル攻撃によって負傷したことが報じられています。まさに命がけなんです」(戦場ジャーナリスト)

 

 日本では、大手テレビ局や新聞社の記者は会社員ということもあり、危険な戦場取材がおこなえないことも多い。そのため、湾岸戦争やイラク戦争、アフガニスタンなどの戦場取材には、危険地帯の取材に習熟するフリーの戦場ジャーナリストたちが活躍してきた。

 

 バラエティ番組にも出演する渡部陽一氏などのほかにも、アフガニスタンやイラク戦争の取材で高く評価され、2012年にシリアでの取材中に銃撃されて亡くなった山本美香氏、チェチェン紛争に従軍した常岡浩介氏など、著名な日本人戦場ジャーナリストは数多い。

 

「イラク戦争の際には、バグダッドを中心に数十人の戦場ジャーナリストが、入れ替わり立ち替わり現地取材に入っていました。あらかじめ特定の社から渡航費や滞在費などの取材費を提供されて“専属”で派遣されていた人も多く、そうなると、ギャラも含めると100万円以上の金額を受けとることはザラ。

 

 撮れ高によっては、1週間で1000万円を稼ぐカメラマンすらいたほどです。私も、2週間ほどの滞在で100万円ほどの“利益”が出ました。もちろん、命がけではありますが、それほど行く価値があったのです。

 

 当時はイラク現地と国際電話がなかなか通じなかったため、衛星携帯電話を準備していったジャーナリストもいましたが、これは通信料が信じられないほどかかりました。あるジャーナリストは、テレビ局から提供された衛星携帯電話を、日本にいる恋人との通話に使いまくって、1000万円近い通信料が発生して、その支払いで大モメにモメた、なんて笑い話もありました。でも、そんな話が出るくらい、十分なギャラや取材費が大手マスコミから出ていたということです」(同前)

 

 ところが、今回のウクライナ戦争では、戦場ジャーナリストたちへの“ギャラ”が危険に見合わないほど安くなっているという。

 

「取材費を確保しなければ何もできませんから、ジャーナリストたちはお互いの“ギャラ事情”に敏感ですよ。今回、もっとも高く映像を買ってくれたのは、フジテレビのある報道番組で、至近距離で爆発が起きているような迫力ある場面をとらえた映像に、50万円のギャラを出してくれたと、我々の間で情報が流れています。

 

 ただ、それ以外のテレビ局では、イラク戦争のころとは比べものにならないほどの低いギャラしか出してくれません。戦争報道に力を入れる『報道ステーション』(テレビ朝日系)などは『納得できるギャラを出してくれる』と聞きますが、そんな番組はごくわずか。最前線に行くとなると、コーディネーターや通訳の手配など、さまざまな経費がかかりますから、まったく元が取れません。現地にいる日本人戦場ジャーナリストは、みんな赤字覚悟で苦労しています」(同前)

 

 この状況を受け、大手マスコミから取材費を確保するという、これまでの戦場ジャーナリストの取材スタイルが、大きく変わりつつあるという。

 

「今回、カメラマンの児玉浩宜(ひろのり)氏や、オランダを拠点に活動するジャーナリストの村山祐介氏、フォトジャーナリストの小原一真氏など、多くの戦場ジャーナリストが、自分のサイトで寄付を募るなどして、ウクライナ入りしています。取材の趣旨に賛同してくれるサポーターの方がいれば、安定した取材が可能ですし、大手メディアでは写真や映像を買い取ってもらえないような、地味な市井の人々の様子を取材することもできます」(同前)

 

 別の戦場カメラマンが言う。

 

「テレビ局はいまや、現地のウクライナ人がSNSに上げた動画を引用するばかりです。ロシアとの情報戦が激化するなかで、戦地の真の姿を知るためには、ジャーナリストがしっかり現地で取材するしかない。それを赤字覚悟の“善意”だけにまかせるのは、非常に問題でしょう。

 

 金銭的な厳しさから、引退を表明するジャーナリストも出ています。米国のCNNがウクライナでの積極的な取材で名をあげる一方、日本のメディアが劣化し続けるのを見るのは、心苦しい限りです」

 

 このままでは、日本から戦場ジャーナリストが消える日も遠くない。

( SmartFLASH )

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