社会・政治
相続空き家のゴミ捨てだけで100万円以上…いらない不動産を国に引き渡す「国庫帰属制度」開始でも安心できぬ “負動産” の現実
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2023.04.30 06:00 最終更新日:2023.04.30 06:00
「お客様からの問い合わせは増えました。『国に押しつけられるんでしょう?』という感覚の方が多いようですが、じつは違います。『国に私たちがお金を払って、不動産を引き取っていただく制度なんですよ』とご説明すると、たいへん驚かれる方が多いです」と話すのは、空き家相談を中心に手がける「オハナホーム株式会社」の菊池聖雄氏だ。
4月27日から「相続土地国庫帰属制度」(以下、国庫帰属)がスタートした。一定条件を満たしている相続した土地を国が引き取るというのがざっくりとした概要なのだが……。
【関連記事:ついに「空き家税」導入で「家じまい」どうする…岸田首相も狙っていた「税額4倍」の大増税プラン】
「まず、建物がある土地は更地にする必要があります。細かい土地の要件もありますし、そのうえで、1筆(登記上で独立した1個の土地)ごとに10年分の土地管理費に相当する負担金を国に支払います。
都市計画法の市街化区域、または用途地域に指定されていない地域の宅地や田畑は面積にかかわらず20万円になりますが、それ以外は面積に応じて負担金が算定されます。
それとは別に、申請時には1筆ごとに1万4000円の審査手数料も納める必要があり、審査が通らなくても手数料は返還されません」(菊池氏)
意外にも使いにくい国庫帰属を国が開始した理由は、日本中で所有者不明の土地が増え続けているためだ。
「所有者不明の土地の面積は、国土の約22%。九州よりも広いといわれています。国庫帰属は宅地だけでなく、田畑、森林などの管理されていない “空き地” を防ぐためです。それと同時に日本では今、空き家の増加も問題になっているんです」(同前)
両親の死去などで実家を相続したものの処分に困り、空き家問題を抱えている人も多いが、もし万が一、あなたの両親や親戚に不幸が起こり、これから空き家を相続したときに選べるおもな手段は「引き継ぐ」「売る」「放棄する」の3つだ。
引き継げるほど、立派な家を相続する人は頭を抱える必要はないだろうが、それ以外の2つを選ばざるを得ない人は、なるべく資産をマイナスにせずに処分したいはず。
そんなとき、これから紹介する「5大原則」をまず確認してみてほしい。さらに、実際に「空き家相続」に直面した人々の実体験も参考にしていこう。
都内在住のAさん(50代)は、空き家になった実家を処分した際に「相続空き家の3000万円の特別控除」を利用して、成功を収めた。Aさんが話す。
「実家は千葉県内のベッドタウンにあり、最寄り駅から徒歩5分ほどでした。築45年で土地面積は約185平方メートル、建物は約133平方メートル。相続人は私と弟2人の計3人で、全員すでに自宅を所有していたので、両親が病気がちになったころから、実家は売却しようと決めていました」
売却がスムーズに進んだのは、Aさんの弟が「特別控除」の条件を満たしていることに気づいたからだという。
「それに加えて、弟の同級生が地元で不動産業を営んでいたので、地域の売買情報を詳しく聞けたことも大きかったです。ただ、家の権利証や不動産売買契約書などを探すのに苦労したので、両親が健在のうちに確認しておけばよかったと思っています」
実家は取り壊し、更地にして売却。特別控除もあり、諸費用を差し引いても約1000万円のプラス。一人数百万円の “分け前” になったという。
対照的に、空き家処分で頭を抱えているのが、都内在住のBさん(40代)だ。
「私の母は6人きょうだいの5番めで、母と1番め、2番めは先に亡くなっていました。今回亡くなった伯母は3番めで独身。子供もいません。まだ健在のきょうだい2人と、1番め、2番めの子供5人と私が伯母の相続人になり、計8人で相続しました」
伯母の家をどう処分するかは、相続人8人の意見がまとまらなければならず、高齢の親戚や複雑な人間関係も絡み、ひと筋縄ではいかない。さらに、伯母が隣の家と境界線争いで裁判を起こしていた過去もあったという。
相続空き家は、茨城県北部にある。宅地が約318平方メートル、農地が約250平方メートル、山林が約125平方メートルの合わせて約693平方メートルの土地と、築53年で約74平方メートルの木造平屋だった。
農地は1反あたり15万円で買い取ってもいいと申し出た人物に売却。建物は売却を模索しているというが、売れなかった場合は国庫帰属も視野に入れることになるだろう。
Bさんのケースでかかる費用を、菊池氏に試算してもらった。
「残置物撤去と解体作業が、200万円ですめば御の字。あとは宅地、農地、森林で3筆の扱いになるので、国に収める負担金が約61万7000円、それに審査手数料が3筆で4万2000円かかります。合わせた処分コストは300万円近いかと思います」
Bさんはこう嘆く。
「伯母には『いらない物は捨てるように』と、口酸っぱく言っていました。私も5年前ぐらいまでは片づけに行ったりしていたのですが、それでも家の中は乱雑な有様です。業者の見積もりでは、残置物撤去だけで約100万円はかかるとのことでした」
残置物撤去は、どの相続人も抱える問題だ。補助金を設けている自治体もあるので、費用を減らしたい人は一度調べてみてほしい。前出のAさんもこんな経験をした。
「費用を抑えるために、地元の処理施設に残置物を持ち込みましたが、その自治体の住民票がなかったために受け付けてもらえず、近くに住む親戚の同行で数回運びました。
それでも残置物が多く、結局は業者に頼み、料金は約70万円。『へんに手をつけないほうが楽でしたよ』と業者に言われる始末で……。少しずつでも家の中の不要物を処分しておけばよかったです」
現実を受け入れ、空き家処分を続けるBさんだが「人生設計にない100万円以上の出費は大きいです」と肩を落としていた。親族や自分を守るために、健在時からできる準備は多いはずだ。