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ヒグマの胃から人間が!頭が切り離された胴体発見で囁かれる「別の個体」がいた可能性
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2023.05.18 22:07 最終更新日:2023.06.06 18:41
5月14日、北海道幌加内町の朱鞠内湖(しゅまりないこ)で釣りをしていた男性1名が消息を絶った。早朝、釣りのため船で渡してもらい、数時間後に迎えに行ったところ、男性の姿は消えていた。男性を捜索していたハンターらは、釣り人用の胴長靴をくわえたヒグマを目撃することになる──。
翌日、現場付近で射殺されたヒグマの胃袋から、人間のものらしき肉片や骨片が発見。近くには人の頭部や損傷が激しい胴体部分が散乱していた。男性はこのヒグマに襲われたとみて間違いないだろう。北海道でのクマによる死亡事故は、2021年11月、夕張で起きて以来だ。
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日本国内に棲息する野生生物のうち、もっとも巨大なクマがヒグマだ。本州・四国に棲息するツキノワグマは体重が40~100キロ、体長は1~1.3メートル。北海道にのみ棲息するヒグマは100~200キロ、体長は2メートル前後にもなる。熊害による死亡事故も、ツキノワグマよりヒグマのほうが多い。
過去に捕獲されたヒグマのうち、最大のものは500キロ、体長は2.43メートル。1980年に捕獲され、「北海太郎」と名付けられた巨熊の剥製は、苫前町の郷土資料館に展示されている。
明治期以来の開拓の歴史を紐解くと、道内各地でヒグマに襲われた人の話がたびたび出てくる。吉村昭の実録小説『熊嵐』で知られる、国内で最多の7名が死亡した「三毛別(さんけべつ)ヒグマ事件」がその最たるもの。個体も巨大で、体重340キロ、体長2.7メートルもあったという。
現場となった開拓村・三毛別は、上記の資料館のある苫前町のはずれ。現地の慰霊碑には「食べ物を供えないで下さい」との注意書きもある。付近の樹木には鋭い爪痕も確認できる。
一方、今回の朱鞠内湖で射殺されたヒグマは、体重150キロ、体長1.5メートルほど。ヒグマとしてはやや小さい部類に入るが、丸腰で出合ってしまえばひとたまりもない。
では、クマに襲われたらどうすればいいのか。筆者は研究者やクマ撃ち猟師にたびたび質問を重ねたが、決定的な対処法がないのが実情だ。
「頭や首など、急所を防御し致命傷を避けよ」とはよくいわれることだが、なにしろ力の差は歴然としているので、守りに徹したとて、強引に引き剥がされてしまうことはある。誤解を恐れずにいえば、ヒグマに襲われたら「運を天に任せる」しかないのだ。
ただし、「クマに襲われないためにはどうするか?」には、いくつかのセオリーがある。
クマはもともと、臆病で警戒心の強い生き物で、人間を捕食対象とみなしているわけではない。従って、クマのほうから人間を探して捕らえようとすることはない。出合ってしまうのは、ほとんどが偶然。人間もそうだが、クマだって突然のことにビックリしている。
急な動きを見ると、クマはパニックになって襲いかかってくることがある。背を向けて走って逃げるのは最悪の選択。クマの足は人間より早いし、逃げるものを本能的に追いかけたり、捕食対象と勘違いしたりするという説もある。
向きあった状態で、沈着冷静に上着を持ち上げて広げたり、なるべくこちらを大きく見せる。あるいは大声を出したり、大きな音を立ててみたりする。これらにより、「相手のほうが大きくて強い」と思って、立ち去ってもらう。絶対確実とは言いがたいが、最善の策ではある。
大きな音を出すのは、そもそもクマに出合う確率を下げるためにも有効だ。
時期としては、春先が危険だ。クマが冬眠から目覚めて活動し始めるこの時期は、ちょうど山菜のシーズンでもある。実際、北海道では、春先に旬を迎えるアイヌネギ(ギョウジャニンニク)など、山菜を採りに山に入って落命する事故が後を絶たない。
そして、生まれたばかりの子グマを連れた母グマは、子を守るために神経質になっているので特に要注意だ。「子グマがいたら親グマも近くにいると思え」と、肝に銘じておきたい。
そもそも、クマの棲息域にむやみに足を踏み入れないのがベスト。今回、釣り人が亡くなった朱鞠内湖北東の「ナマコ沢」でも、事前に別の釣り人が、クマの足跡を見つけていた。被害者が狙っていたのは、幻の魚・イトウ。あえて危険を犯してでも狙いたかったのかもしれないが……。
ところで、今回の遺体には不思議な点がひとつある。頭と胴体が、切り離された状態で見つかったことだ。
先に触れたように、射殺されたヒグマは1.5メートルほどと、やや小さい。はたしてこの一頭だけで、わずか1日半ほどの間に、首と胴体を切り離すことが可能なのか。別のクマがいた可能性もあながち否定できないと述べる人もいる。
クマは、仕留めた獲物の一部を隠しておき、あとで再び食べに戻ってくることもある。被害者の胴体は、草木を載せられた状態で見つかった。仮に別のヒグマがいて、その個体が獲物を隠した “主犯” だとしたら──。再び「現場」に顔を出す可能性は、ゼロとはいえない。
文・風来堂
編集プロダクション。編著『日本クマ事件簿』(三才ブックス)では、明治以降に日本で起きた熊害死亡事故の実例を多数収録。クマ撃ち猟師やクマ研究者へのインタビューも掲載している
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