「車両内で刃物を振り回している人がいる」
6月25日の16時ごろ、JR新宿駅から110番通報があった。現場では非常ボタンが押され、車両から逃げる乗客で一時パニック状態となり、20代と50代の男性が軽傷を負った。
実際には、刃物を持っていた外国籍の料理人と見られる男性が、布のようなものに包んであった包丁を床に落とし、それを目撃した人が驚いて逃げまどううち、誤って情報が伝わったようだ。
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「今回のように逃げようにも逃げられない閉鎖空間で、人が逃避行動を取ろうとすると、より危ない状況になります。たいへんな事故が起きたなと思っています」
こう語るのは、「渋滞学」の第一人者で、東京大学先端科学技術センターの西成活裕教授だ。
「たとえば近くで火事が起きたり、変な人がいるという情報が駆けめぐったりすることで、多くの人がそこから逃げようとほかの人をぎゅうぎゅう押し、将棋倒しのようになってしまうのです。狭い場所に人が殺到して起こるので、非常に危険な群衆事故になる場合があのです」
群衆がパニックを起こして発生した事故で思い出されるのが、2022年10月、韓国のソウル市・梨泰院(イテウォン)で起きた群衆雪崩だ。159人が犠牲となったが、このときも「有名芸能人が来ている」という “デマ情報” に、多くの人が殺到したことが原因のひとつとされた。
「梨泰院の事故は、向かい合った人の流れがぶつかるなどして起きた『群衆雪崩』で、山手線の事故は、乗客が逃避行動を取ったことで起きた『将棋倒し』に該当します」(西成教授、以下同)
梨泰院と山手線の事故はメカニズムが違うが、こうしたパニックに巻き込まれた際、とるべき行動は同じだ。
「まずは、呼吸を確保することです。人は出口や、端のほう、角のほうへ一気に逃げようとします。電車の場合は、ほかの車両に移ろうとして、非常に圧迫した状況になります。
そういった状況になったとき、呼吸を確保するため、両手を顔の横で構える “ボクシングスタイル” を取ること。胸を圧迫されると危険なので、呼吸できる空間を確保することが重要です。
あとは、やはり常に何かがあることを念頭に置き、避難する経路を確認しておくことです。隣の車両ならこう移動するとイメージできていれば、いざとなったときに行動しやすいと思います」
ヨーロッパでは、新幹線のような長距離列車には金属探知機が導入されているが、日本では、2015年に東海道新幹線の車内で放火事件が起きた際に議論されたものの、実現していない。在来線に金属探知機が導入される可能性はさらに低いが、近年では人の異常行動を察知するAIカメラの研究が進んでいる。
「たとえば、突然座るなど、ふつうの行動とは異なる動きをするとAIカメラが察知し、瞬時に警報が届くシステムがあり、外からリアルタイムでモニタリングできます。
電車内にカメラを設置すれば、車内で事件が起きた場合に急停車し、乗客は安全な場所に避難でき、閉鎖空間から脱出することができます。
こうした対策は考えられますが、実際に刃物を振り回す人物が近くに現われたら……あとは運としか言いようがありませんね」
奇しくも6月25日には、京王線車内で映画の悪役「ジョーカー」に扮した男が乗客を刺し、車内に火を放った事件(2022年)、26日には、小田急線車内で3人を包丁で切りつけた事件(2021年)の初公判があった。いざというときのため、避難経路を確保しておくことが必要なようだ。
( SmartFLASH )