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『朝生』出演で田原総一朗氏に唖然「去り際の美学を!」【泉房穂の「ケンカは勝つ!」第13回】

社会・政治 投稿日:2023.08.11 06:00FLASH編集部

『朝生』出演で田原総一朗氏に唖然「去り際の美学を!」【泉房穂の「ケンカは勝つ!」第13回】

至るところに資料が積まれ、勉強家であることを雄弁に物語る書斎。しかし希代のジャーナリストも、年には勝てないのかもしれない

 

「えっ、田原さんってこんな人やったん!?」

 

 それが、7月28日深夜『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)に出演した率直な感想です。

 

 じつは私は、かつて『朝生』のスタッフでした。番組は1987年にスタート。その翌年に、最初に就職したNHKから、テレビ朝日の『朝生』の番組担当に移ったんです。

 

 

 三十数年前は、経済は右肩上がりで給料もどんどん上がった時代。当時は『朝生』のテーマも防衛、外交など国家レベルのものが多かった。「原発」や「天皇制」といった、タブーとされたテーマにも挑戦しました。

 

 でも今は、経済が停滞し、給料も上がらず、みんな疲弊している。国民の関心は「子育て」や「介護」など身近な問題に移っている。メディアはそうしたニーズにシフトできていないんやないか。司会の田原総一朗さんも、パネリストとして番組に参加した学者やコメンテーターの方々も、時代の変化に追いついていないんやないか。

 

 かつて『朝生』は、スタッフの私にとっても、ワクワクドキドキする番組でした。当時20代の私には、田原さんは光り輝く存在。鋭い分析力と時代を切り開く覚悟があり、その使命感に燃えておられたと思います。

 

 おそらく三十数年たった今も、ご本人の思いは変わっていないのかもしれませんが、今回、田原さんの変貌ぶりには愕然としました。

 

 田原さんは最先端のテーマに関心をお持ちだったはずなのに、喫緊の課題である「少子化」について、驚くような発言をなさった。とくに「少子化は女性や若者の問題」と、何度も言われたことに唖然。番組中でも反論しましたが、少子化は女性だけでなく、育児分担などを含めて男性にも関わる。そして若者だけの問題でもない。

 

 しかし、田原さんにはそのあたりの認識がまったくないように見えたから、思わず名指しで反論したんです。「少子化は、田原さんを含む経団連のお年を召された頭の固い方々の発想の転換(の問題)やと思う」と。

 

 もっと残念だったのは、田原さんのジャーナリストとしてのスタンスがまったく変わってしまったこと。かつての田原さんはけっして権力に迎合するような方やなかった。

 

 ところが、今回は「総理と会った」とか「経団連の役員から声をかけられた」とか、そんなことばかりおっしゃる。「えっ、こんな人やったの?」と耳を疑いました。

 

 ご本人はいまだに、「自分は批判精神を持ち続けている」と思っているのかもしれませんが、その姿勢は感じ取れなかった。それが残念やなと。

 

『朝生』のスタッフ時代に印象に残ったテーマはふたつ。

 

 ひとつは「原発の是非を問う」。当時、タブーだった原発問題を日本のマスコミで初めて取り上げ、原発推進派と反対派に分かれて対決した。あのとき、私は「フロアディレクター」として番組の進行役で、「10秒前、9、8、7…」と放送開始のカウントダウンをしながら、「いよいよ原発を生でやるのか」と、興奮して震えていました。

 

 もうひとつのテーマは「天皇制」。ソウルオリンピックがあった1988年に、「オリンピックと日本人」というタイトルで討論しました。じつはこのとき、生放送で初めて左翼と右翼が一堂に会して「天皇制」の是非を問うたんです。

 

 あのときは、右翼がスタジオに抗議に来るんじゃないかと、スタッフも戦々恐々としていました。それを防ぐ意味でも、番組には右翼の大物に出演してもらいました。

 

 当初から、「天皇制」を議論する予定でしたが、局の上層部のOKが出なかった。そこで「オリンピックと日本人」というタイトルにしたわけですが、天皇制の議論が始まると、出演していた経済学者の栗本慎一郎さんが「聞いていない」と怒って帰ってしまった。そういう緊張感のなかで番組は放送されていた。

 

 当時の『朝生』は熱気があったし、番組での議論によって政策が変わるぐらいの力を持っていました。一方で、当時は「深夜だから誰も見ていない。かめへんから。やってまえ」みたいな空気もあった。おもしろい時代でした。

 

 今回、番組には、財務省出身の学者が出演していて、彼らの発言にもズレを感じた。少子化を語るには、国民一人ひとりの生活実感でものを考える必要がある。でも、元官僚の先生方は「そもそも日本経済は…」と、マクロ的な難しいことばかり言う。

 

『朝生』に続いて、8月6日には『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)にも初めて出演しました。

 

 2003年にスタートしたこの番組も、『朝生』と同じ討論番組で、当初は、まだ政治家になる前の橋下徹くんが “本音トーク” で相手をバッサバッサと斬っていく姿が印象的でした。しかし、今回出演して感じたのは橋下くんも “大人になったな” ということです。

 

 子育て支援の所得制限をめぐり、橋下くんは賛成派で、私は撤廃派。年収800万、900万円でも、生活がしんどい層はいる。所得制限はなくさなあかんのです。

 

 大阪府の吉村洋文知事は、明石市の例を見て一気に所得制限撤廃に舵を切った。でも、橋下くんは相変わらず所得制限をすべきだと発言していた。時代状況や国民の意識の変化についてこれていないように感じました。

 

 番組には、元横浜市長の中田宏さんも出演していたが、維新や自民を渡り歩いていることもあってか、立ち位置がよくわからんかった。

 

 かつて勢いがあった政治家2人が、いつの間にかタレントのコメンテーターのようになってしまった。出演者は総じて小物化し、発言が無難になった。権力にすり寄る人が多くなった気がします。

 

 田原さんは元気のあるころのテレビの象徴やったが、さすがに89歳。今でも敬意は持っていますが、「去り際の美学」という言葉もあるように思う。

( 週刊FLASH 2023年8月22日・29日合併号 )

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