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「タワマンが限界集落に」不動産の重鎮2人が警鐘鳴らす衝撃の未来「利便性よりも『街プライド』が重要に」

社会・政治 投稿日:2023.08.27 06:00FLASH編集部

「タワマンが限界集落に」不動産の重鎮2人が警鐘鳴らす衝撃の未来「利便性よりも『街プライド』が重要に」

「タワマン銀座」と呼ばれる武蔵小杉(写真・梅基展央)

 

 2023年7月の首都圏の新築マンションの平均価格は、9940万円と1億円に迫った(不動産経済研究所調べ)。すでに庶民には買えない高嶺の花なのに、価格は5カ月連続で上昇中だ。

 

 一方の鉄道各社は、熾烈な沿線住民の獲得競争のなか、駅前開発に余念がない。一見、街は発展を続けているのだが――。

 

 

 そんな「バブル」の先に待つ衝撃の未来を、2人の重鎮が予言する。

 

牧野知弘 都営三田線のホームに立っていると、「海老名行き」の濃紺の車両が入ってきてびっくりします(笑)。2023年、神奈川県が地盤の相鉄と、東急や都営地下鉄など7社局14路線が結ばれ、最後に東京都に入ってきた大手私鉄になりました。

 

河合雅司 相鉄は沿線の魅力や利便性をアピールし、神奈川を走るJRや東急沿線の住民だけでなく、埼玉県や千葉県の住民を獲得することを目指しています。おそらく2030年代の初頭までは、相鉄の戦略どおりに進むと思います。しかし、中長期的には大失敗に終わる可能性があります。

 

牧野 人口が増えていた昭和・平成のビジネスモデルですからね。日本社会全体が完全に高齢化社会にシフトしているのに、相鉄をはじめとした鉄道会社は、キラキラしたショッピングモールを造るなど、伸び盛りの中高生をターゲットにしたかのような競争を続けています。

 

河合 阪急の創業者の小林一三は、郊外に住宅地を開発して住民を大阪市の中心地まで運ぶ一方、土日は逆に移動してもらうよう、宝塚市に遊園地を造るなどしました。これが私鉄経営のモデルとなり、多くの鉄道会社に広がったわけですが、これは世代が絶えず入れ替わり、人口が増えることで成り立つモデルです。

 

牧野 かつて、郊外のニュータウンに暮らしていたモーレツサラリーマンは、寝る時間以外は、ほとんど自宅にいませんでした。一方、代替わりした世代は「こんな不便なところに住みたくない」と、都市部のマンションに移っていますね。

 

河合 いま、価格上昇を続けるタワーマンションも、いまや“オールドタウン”化したニュータウンと同じような未来をたどる可能性があります。

 

牧野 おおいにあるでしょうね。武蔵小杉(神奈川県川崎市)は、不二サッシや東京機械製作所の工場跡地にできた「タワマン銀座」ですが、僕は住む街としては、あまり“いいね”をつけられません。都心へのアクセスは便利ですが……。

 

河合 終身雇用は崩壊しつつあります。かりに転職したら、武蔵小杉が通勤しづらい場所に転じるかもしれません。利便性がいいと思うのは、あくまで購入時の話であって、1億円のローンを組むのは大きなリスクです。

 

牧野 武蔵小杉のタワマンの開発担当者とお会いしたことがありますが、残念ながら「売る」ことが先決で、街の世代交代のことは考えていないようでした。

 

河合 需要がある以上、マンションを1棟建てて、売り切っておしまいというビジネスモデルは成り立つんですよね。

 

牧野 かつて、団地に住む人は「団地族」といわれ、ちょっとしたエリートでした。しかしいまは、団地のことを誰も見向きもしなくなりました。戸建て住宅地の代表的な開発である鳩山ニュータウン(埼玉県鳩山町)は、池袋駅から東武東上線で約1時間かかり、さらにバスに15分ほど乗る必要があるものの、敷地が広く高級感があったため、30代から40代のアッパー層が入居しました。いまでいえばタワマンに住むようなステータスでしたが、鳩山町の高齢化率は2030年には53.6%になるとの予測があります(国立社会保障・人口問題研究所調べ)。

 

河合 タワーマンションも、2030年時点ではまだステータスでしょうが、2040年くらいになると、価値観が変わってくると思います。住民が高齢化し、将来は入居者の過半数が高齢者という「限界集落」と同じような状況になる可能性は否定できません。

 

牧野 もちろん、これから伸びそうな街もあります。たとえば千葉県いすみ市は、年間1000人以上が移住しています。移住者のなかには、半分農業をやりながら都心で仕事をしている人たちが多いんです。これは、森永卓郎先生がすすめていらっしゃる「トカイナカ(都会と田舎の中間)」暮らしに近いのかもしれません。同じ価値観を持った人たちが集まると、自然とコミュニティができて、そのなかにいると居心地がいいんですよね。

 

河合 今後は通勤利便性ではなく、「街プライド」が非常に重要になっていくと思います。自分の住む街を愛する住民が多い場所が、価値の高い街になりますね。それは、自治体単位ではなくエリアです。たとえば東京都の吉祥寺、神奈川県の辻堂、京都府の東山などです。これらは「わが街の価値を高めていこう」という住民が多いですよね。

 

牧野 そんな辻堂の駅前にも、タワマンが建設中ですけどね(苦笑)。29階建てで億ションだという話です。私は隣町の鵠沼(くげぬま)在住ですが、このエリアは3世代で暮らしている人たちがたくさんいます。子どもが親の家を出ても、結婚して同じ地域に戻ってくるという世代循環ができています。造られたものではない、自然な街プライドを持つ住民が多いことを実感します。

 

河合 私が新聞記者の駆け出し時代に赴任した山形県山形市は、1990年代中ごろまでは、戦災を免れた古い街並みが広がり、昔ながらの料亭や洋館が残っていたんです。それなのに、いまでは駅前に高層ビルが建てられ、道を拡張した結果、小ぎれいだけどお隣の宮城県仙台市に比べたら明らかに勢いがなく、どこにでもある地方都市の街並みになってしまったんですね。映画のロケに使いたくなる、宝石箱のような街並みを残しておいたほうが、プライドある街になったと思います。

 

牧野 湘南の住民の共通項は湘南の海です。釣りをする人もいればサーフィンする人もいるし、何もしないでぼーっと海を眺めてる人もいる。家を売ろうと考えている人はほとんどいなくて、みんなこの街が「いいじゃん」って思って住んでいる。この緩い“いいね”が、街プライドなのかなと思います。メディアを賑わせる「住みたい街」ランキングは、ひとつのトレンドを形成するための調査と考えるべきで、真逆の発想だと思います。

 

河合 人口減少社会で街が伸び、持続するためには“熱源”となる企業も重要です。国内マーケットが縮んでいくなかで雇用を生み、利益を上げる企業があれば、その地域で仕事や趣味、子育てや老後の人生を充実させることができるでしょう。たとえば、“薬都”の富山県富山市や、眼鏡フレームで圧倒的シェアの福井県鯖江市などは、人口減少社会にあっても、安定的な雇用と、豊かな暮らしを実現する街になると思います。

 

牧野 これからは、「住まい選び」ではなく「街選び」の時代になります。建物のステータスだけに頼り、タワマンに価値を見出す時代ではないと思います。

 

まきのともひろ
不動産プロデューサー。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループ、三井不動産などを経てオラガ総研代表兼全国渡り鳥生活倶楽部代表。著書に『負動産地獄 その相続は重荷です』(文藝春秋)など

 

かわいまさし
作家、ジャーナリスト。産経新聞社論説委員を経て、人口減少対策総合研究所理事長。厚労省ほか政府の有識者会議委員も務める。著書に『未来の年表』(講談社)、『世界100年カレンダー』(朝日新聞出版)など

( 週刊FLASH 2023年9月5日号 )

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