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コロナ第9波&薬価改定で「診察したけど薬がなくて治療できない!」国の無策に木下博勝医師も怒り
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2023.09.01 06:00 最終更新日:2023.09.01 06:00
新型コロナウイルスが5類に引き下げられてから4カ月――。日本ではひっそりと“医療崩壊”が起きている……。
「ほしい薬がまったくないんですよ! 患者さんに苦しい思いをさせていると思うと、つらいです」
と憤るのは、女子プロレスラーでタレント・ジャガー横田の夫で、さいたま新都心ジャガークリニック理事長、麻布十番ジャガークリニック院長の木下博勝医師だ。
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「とくに不足しているのが、アスベリンという咳止め薬です。アスベリンは、非麻薬性の薬であるため、副作用が比較的少なく、1歳未満の乳幼児から高齢者まで、幅広い年代の方に処方できる薬です。医薬品の卸売業者からは、原料が不足しているため、そもそも製造できていないと聞いています」
アスベリンがないために、類似の咳止め薬に注文が殺到し、次々と欠品。現在は、漢方薬に頼っているという。
「『麦門冬湯(ばくもんとうとう)』が入荷できているので処方していますが、これも品薄になってきました。このままでは『診察したけど薬は出せない』という、最悪の事態もありえます」(同前)
薬不足の背景にあるのは、新型コロナの第9波だ。
「新型コロナの症状のひとつが咳ですからね。また、完治した後も、後遺症として咳だけ続いたり、気管支喘息が再燃したり、といった患者さんがいます。すでに、冬の第8波から不足気味でしたが、いっこうに改善されません。この薬の需要がこれほど高まっているということは、同じように感染が広がっているというわけで、深刻です」(同前)
これだけであれば、ただの“天災”。だがこの薬不足は、“人災”かもしれない。都内の薬局では、新型コロナ以外の薬も不足しているという。
「血圧を下げるための薬であるニフェジピンや、重度の糖尿病に苦しむ人のためのインスリン製剤も入荷しないときがあり、ひやっとします。わずかな在庫でなんとか調剤していますが、命にかかわる薬ですからね……」(薬剤師)
医薬品卸業者の営業マンは、頭を下げてまわる日々だ。
「薬局と製薬会社の板挟みになって、正直、つらいですよ。担当する薬局からは、ひっきりなしに入荷を催促する電話が入りますが、製薬会社から『出荷停止』と言われたら、どうすることもできません」
コロナ関連以外の薬まで不足している原因は、国による医療費削減の圧力があると語るのは、製薬業界関係者だ。
「そもそも、医療保険が適用される薬の値段は、国が決めるものです。開発費用や効果、類似薬の値段を鑑みて決定されます。病院や薬局では、この薬価をもとに薬代を計算し、保険から受け取るわけです。もちろん、製薬会社が病院側に実際に売る値段は、それ以下です。その差額で病院側は利益を得ます」
薬価は、2年に一度見直されるが、製薬会社や卸売業者が実際に売買している市場の値段などを参考に定められる。
「ほとんどの場合、薬価が低下する、いびつな状態です。2021年度からは一部の薬が1年に1回、価格を改定されることになりました。この結果、そもそも薬価が低く、利益を出しづらいジェネリック医薬品のなかには、作るだけで赤字になる薬がたくさん出てきているんです。一部の薬の生産から撤退する製薬会社も出ています。国は医療費を抑えるためにジェネリック医薬品の使用を推奨しており、現在の薬市場の約8割でジェネリック医薬品が使用されているのに……」(前出・製薬業界関係者)
“赤字商品”が増え、経営基盤の弱った製薬会社では、不正が相次いでいる。
「日医工は2020年に製造工程の不備が指摘され、業務停止命令を受けました。現在、経営再建中ですが、合理化のために578品目の販売を中止しています。その後も数々の製薬会社で不正が発覚し、2021年以降、9社が業務停止命令を受けています。不正をして製造費を下げるか、“赤字商品”を手放すか、という判断を迫られているというわけです。製薬会社を悪者にするのは簡単ですが、この状態では、薬の安定供給はできません」(同前)
木下医師も、国の対応がおかしいと指摘する。
「国がジェネリックを推進するのはいいですが、製薬会社の企業努力だけに頼っているから、コロナ禍といった突発的な問題に対応できないんです。必要な薬を確保できるようなルール作りが必要です。みなさんには、この冬はインフルエンザワクチンを打つことをとくにおすすめします。解熱剤や咳止め薬が手に入らないかもしれませんから……」
無策な政府につける薬はないものか。
取材&文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)