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JAL機「奇跡の脱出」を生んだ “育成主義”…コロナ禍の経営危機でも研修時間3.5倍に「能力は必ず進歩する!」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.01.08 06:00 最終更新日:2024.01.08 06:00

JAL機「奇跡の脱出」を生んだ “育成主義”…コロナ禍の経営危機でも研修時間3.5倍に「能力は必ず進歩する!」

脱出時の乗客の様子。乗客の子供が「早く開けてください」などと叫び、機内は混乱に包まれていたという(写真・共同通信)

 

 1月4日の大発会。日本航空(JAL)株は、昨年末終値比0.8%高の終値となった。この上昇の要因は、2日の羽田空港での事故だ。JALと海上保安庁の航空機が衝突、炎上した事故で、JAL機の乗員乗客379人が無事に避難した。世界中で “奇跡” と称されているこの脱出劇は、いかにして生まれたのか――。

 

 奇跡の要因を「CAらが夢に出てくるほど頭に叩き込んだ『STS五項目』の徹底」と語るのは、航空評論家の秀島一生氏だ。秀島氏の言う「STS五項目」とは、離着陸の際の必須確認事項のことだ。(1)衝撃防止の体勢、(2)乗客のパニックコントロール、(3)脱出可否の判断、(4)脱出経路の調整、(5)脱出の誘導からなる。

 

 

「『STS』とは、サイレント・サーティ・セカンズ―不測の事態に備える『沈黙の30秒』という意味です。この間に、脱出経路や手順を的確に判断する。今回の脱出は、そうした日ごろから意識していた基本がうまくいったからでしょう」

 

 実際、複数の航空評論家が「JALの訓練の質は非常に高い」と口を揃える。JAL元パイロットの杉江弘氏は「緊急脱出に関する訓練と施設は、JALが飛び抜けている」と太鼓判を押す。

 

「JALの場合、パイロットとCAは、年に一度の厳しい訓練を受けないと、搭乗できないという規定になっています。訓練施設には、CAがもたもたしていると怒鳴る『鬼教官』がたくさんいて、指導が厳しいことで有名です(笑)。

 

 施設内には巨大な屋内プールがあり、海上着水を想定し、救命いかだを出して飛行機から避難する訓練をするんです。私が知っている限り、海外でもプールまで造っている航空会社はありませんよ」

 

 一方、「社員の意識が一変したのは2016年」と話すのは、別の元パイロットだ。2016年2月、新千歳空港で札幌発福岡行き便がエンジントラブルで発煙。乗客は全員無事だったが、荷物を手に脱出するなど、重大事故の兆候が多数あった。

 

「この事故を機に、CAがグランドスタッフなどに緊急脱出の手順について説明する訓練が始まりました。社員が乗客になる場合もあるわけで、事故に遭遇した際、率先して模範的行動を取れるようにすることが狙いです。

 

 具体的には、飛行機の客室を再現した屋内で『落ち着いて! 荷物を持たないで!』など緊急時の声の掛け方や、実際の飛行機の高さに設置された脱出シューターを滑る、などです」

 

 また、JALの30代現役CAは近年、よりリアルな訓練がおこなわれているという。

 

「地震発生時や、空港内で不審物が見つかった状況などをリアルに再現した訓練がおこなわれています。昨年末には、慶応大学と協力し、地震学者監修のもと、乗客が搭乗した状態で地震に見舞われて離陸できなかった、という想定で避難訓練をおこないました。慶大生が乗客を演じ、CAや空港職員は適切に対応するという内容でした」

 

 かつては赤字を垂れ流し、「親方日の丸」とも揶揄されたJAL。2010年に経営破綻後、稲森和夫氏が会長に就任し、再建を果たし、社員の行動指針「JALフィロソフィ」が確立されたが、そのなかには「能力は必ず進歩する」という “育成主義” が掲げられている。実際、JALの人材育成を、人事ジャーナリストの溝上憲文氏はこう評価する。

 

「JALは、人材育成にお金と時間をかける会社になったんです。顕著なのは、社員一人あたりの研修費用。一般企業では、一人あたり平均3万円といわれますが、2018年度のJALは約47万円なんです」

 

 しかし、コロナ禍でJALは経営難に陥る。2020年度、研修費は約11万円まで下がり、出航本数が減ったCAは、次々と他社に出向した。

 

「しかし、それでもJALは “育成主義” を変えませんでした。2018年には研修時間が約71時間だったのが、コロナ禍の2022年には約260時間にまで増えたのです。経営が厳しいときに、研修にお金はかけられないが時間はたっぷりかけていた。CAが家電量販店のノジマに出向した際、『接客態度が素晴らしい』と、お客さんから店にお礼の手紙が届いたといいますよ」(同前)

 

 今回の事故では、脱出時に機内アナウンスやCAとパイロットが連絡できなかったため、CAがメガホンを手に肉声で案内したと報じられている。厳しい訓練を経て、非常事態に臨機応変に対応したCAだが、そのポテンシャルは、コロナ禍での出向時にも見受けられていた。航空アナリスト・鳥海高太朗氏が語る。

 

「出向先のコールセンターを取材しましたが『CAはマニュアルを意識しつつ、相手に応じてベストな提案ができる』といって、喜んでいましたよ。『日々イレギュラーな注文を受けている機内での経験が生きているからだろう』と話していました。まさに、“接客のプロ” だと」

 

 破綻企業から、人材育成に注力する優良企業に――。「奇跡の脱出劇」は、再建された社風から生み出されたものだった。

( 週刊FLASH 2024年1月23日号 )

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