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「50代にリスキリングはいらない!」森永卓郎氏が断言、今の仕事で「会社にしがみつくべきワケ」と岸田政権の思惑を解説

社会・政治 投稿日:2024.01.13 06:00FLASH編集部

「50代にリスキリングはいらない!」森永卓郎氏が断言、今の仕事で「会社にしがみつくべきワケ」と岸田政権の思惑を解説

リスキリングを重視する経済同友会の新浪剛史代表は「45歳定年制」論者(写真・共同通信)

 

 2023年12月22日に決まった2024年度予算案で、岸田政権が計2000億円を投じ、特に力を入れているのが、「リスキリング」支援の拡充だ。

 

 リスキリングとは、ビジネスの変化や革新に対応するため、新たな知識やスキルを習得すること(パソナHPより)。大分県内の量販店に勤める三谷さん(54・仮名)は、かつて2度のリスキリング講習(公共職業訓練)を受けたことがあるという。

 

「当時勤めていた印刷会社が激務で、資格を取ってよりよい環境で働きたいと考え、第二種電気工事士の講習を受けることにしたんです。でも、途中で別業界の仕事が見つかり、やる気がなくなって……。講習後の資格試験には落ちてしまいました」

 

 

 その後、三谷さんは介護職員初任者研修に挑戦した。

 

「今度は無事に資格を取得し、知的障害者の介護施設に就職したんですが、『適性がない』と、3カ月で解雇されたのです。“人生逆転”はかなわず、毎月7、8万円の給付金を半年間もらっていたのに、なんの成果も出せませんでした」

 

 そう反省する三谷さんだが、岸田政権は今回、デジタル・グリーンなどの成長分野に未経験の高齢者を受け入れた場合、事業主に最大90万円を支給するという。

 

「冷静に考えたら、今までほとんどパソコンを使えなかった中高年が、半年勉強したくらいで、IT技術者になれるはずがないわけですよ」

 

 そう憤るのは、経済アナリストの森永卓郎氏(66)だ。

 

「リスキリングは、中高年の雇用に対する企業の責任放棄です。これまで、日本は終身雇用のなかで、企業が中高年に職業能力の転換教育をしてきました。それが今回、中高年を切りたい会社側に、政府がお墨つきを与えたんです」

 

 会社から放り出されても、中高年向けの求人は、高度な技能が不要な非正規社員の募集が大半だ。

 

「だから、いちばんいいのはミスをせずに“休まず・遅れず・働かず”で、会社にしがみつくことです。中高年が根本から職種を変えることなんかできるはずがないのに、あたかもできるかのようにメディアが宣伝してるんです」

 

 その名も「NIKKEIリスキリング」というメディアを持つ日本経済新聞は、2023年8月に「リスキリング時代」という特集を連載し、2024年度予算案も「個人の学び直し支援拡充」と評価している。だが、経済評論家の鈴木貴博氏(61)は、全国民が学び直すべきだという風潮に懐疑的だ。

 

「企業が社員に、専門性の違う技術を身につけさせるには、30代がタイムリミットでしょう。50代に『リスキリングできないと会社に残れない』と言っても、頑張っても身につかず、“地獄”になってしまいかねません」

 

 鈴木氏は、42歳のときに米国公認会計士試験に挑戦した。当時、本業としていた経営戦略コンサルタントと近い分野だったが、資格取得には苦労したという。

 

「最終的には合格したものの、20代で別の資格を取ったときと比べて、学習能力が低下していることに愕然としました。コンサルと会計士は、たとえば監査プロセスでも、アプローチの仕方がまったく異なります。近い領域だったぶん、それまで身につけた思考をいったん捨てる『アンラーニング』に苦労しました」

 

 リスキリングで成功するのはほんのひと握りだ。

 

「役職定年になれば、たいてい人財価値や、給与は大きく下がります。私の友人で、メガバンクの支店長まで勤め上げ、資格を取って税理士事務所に転職した男がいますが、私の周囲では数少ない成功事例です。彼は新しいことを勉強し、新規の顧客を自分で取ってくる能力が並外れているから、それができたのだと思います。多くの人にとっては、そこで高望みをしたり、資格取得を目指すなどの無理は、したりしないほうがいいと思います」

 

 なぜなら、政府の意気込みとは裏腹に、会社が50代以降のサラリーマンに求めるリスキリングは、それほど高いものではないからだ。

 

「若い世代が当たり前にできているスマホなどの活用スキルをきちんと身につけて、これまで部下にやらせていたことを、自分で調べて解決できるようになれば十分ではないでしょうか。2022年から高校の必修科目になった『情報I』の教科書を専門書店で買うのもいいかもしれません」

 

 2015年、野村総合研究所と英オックスフォード大学が発表した共同研究結果は、世間に衝撃を与えた。

 

 2025~2035年には、日本の労働人口の約49%が就いている職業が、人工知能やロボットが進化し、代替することが可能だという推計結果が得られたというのだ。

 

 だが、焦って新たなスキルを習得する必要はない。

 

『お金の賢い減らし方』(光文社新書)が9刷とヒット中の経済コラムニスト・大江英樹氏は、新卒で入社した証券会社を定年退職し、一度は再雇用に応じて働き始めた。しかし、「つまらないから」と半年で辞め、起業した経験を持つ。

 

「サラリーマンは、『自分には特別な能力はない』と考えている人が多いでしょう。しかし現実には、ひとつの部署で10年も仕事を続けていれば、世間から見ると十分にその道のプロです。私は50代を通して、『確定拠出年金』の仕事をしていました。すぐに収益が上がる部署ではなく、“窓際族”だったといっていいでしょう。しかしその10年間が、定年後の資産運用についての執筆や講演をおこなうという、現在の仕事に繋がっているわけです」

 

 では、これまで培ったスキルを生かせるのなら、リスキリングは不要なのか。

 

「まったく必要ないとは言い切れません。定年後に始めたい仕事があって、そのために身につけておくべきスキルがあれば、やるべきです。私の場合は、サラリーマン時代にはまったくわからなかった帳簿上のお金の動きを把握するスキルが身につきました。しかしそれは、自分がやりたいことのために必要なことで、嫌々ではなく楽しんで習得したものです」

 

 一方、好きでもないスキルを無理に磨く必要はない。

 

「私は証券会社に入社して以来、長らく地方支店で個人営業の仕事をしてきましたが、あまり好きな仕事ではありませんでした。そのため起業した当初は、営業はエージェントにまかせていました。その後はダイレクトに依頼が来ることが増え、現在も営業はせずに済んでいます」

 

 やりたくない資格やデジタル技術の取得――。そんなリスキリングは、50代にはいらないのだ。

 

※大江英樹氏は、1月1日にご逝去されました。ご冥福をお祈りします。

( 週刊FLASH 2024年1月23日号 )

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