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「河野大臣は北欧に学べ」マイナ保険証利用率わずか5%「政府への不信」が低迷の原因、専門家が指摘

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.04.13 11:00 最終更新日:2024.04.13 11:00

「河野大臣は北欧に学べ」マイナ保険証利用率わずか5%「政府への不信」が低迷の原因、専門家が指摘

マイナンバーのトラブルに対処する「総点検本部」本部長を務める河野太郎デジタル相

 

 厚生労働省は4月9日、マイナンバー保険証の普及を促すため、チラシを配布するなどして利用者を増やした医療機関に対し、最大で20万円を支給する方針を表明。これに対し、「またもバラまき行政か」といった批判の声が渦を巻いている。法政大学大学院政策科学研究所の白鳥浩所長も、「まるで馬の鼻先に人参をぶら下げるようだ」と苦笑する。

 

「カードリーダーなどシステム導入に費用がかかりますし、一定の効果は認められるでしょう。マイナンバーカードの発行自体、最大2万ポイントを付与することで普及を図ったので順調でした。しかし、やはり金まみれのやり方に変わりはない。一方で取得した個人情報の漏洩など、トラブルが続いています」

 

 マイナカードの申請者数(累計)は、4月時点の総務省統計によると、全国で1億30万4830人と、全人口の約8割だ。だが、マイナ保険証は約57%の普及率だ。それも2023年、マイナンバーの誤登録での個人情報漏洩が各県で相次いだからだろう。とくに多かった宮崎県(2344件)、長崎県(1989件)、高知県(114件)、静岡県(100件)、鳥取市(485件)は12月6日、個人情報保護委員会から行政指導も受けている。

 

 

 9日には、3月のマイナ保険証利用率が5.47%と発表もされた。2023年12月の4.29%まで8ヶ月連続で下がっていたが、今年1月に4.6%と下げ止まり、2月は4.99%と微増を重ねてはいる。ただ、白鳥氏も指摘する通り、「ずっと横ばいのまま」だ。その理由は、マイナ保険証への「不信感が一向に払拭されないため」と説く。

 

「民主主義国家である以上、民意を大前提にすべきところを、紙の保険証も12月1日以降発行しないと、一方的に決めてしまう。ところが、反対の声が多く上がると、資格確認書を出す方針に変え、それも有効期間の上限を1年としていたのを、5年にまで延長させた。マイナに不安を感じるのも、そんなどっちつかずの政府への不信感からなんです」

 

 2023年12月、河野太郎デジタル相は、紙を廃止しマイナ保険証に一本化するとの閣議決定後、「医療機関などでマイナ保険証が利用できなかった場合には、厚生労働省から事実関係を確認します」と、あたかも密告を奨励するかの呼びかけをX上でし、毎度おなじみの大炎上を起こした。

 

 マイナンバーをめぐるトラブルが続出し、政府の「総点検本部」本部長に指名されながら、その中間報告を取りまとめる直前の2023年7月、河野大臣はデジタル先進国の北欧や一部中東を外遊。自民党幹部も懸念を示す事態を招いた。デジタル庁の公式サイトを確認すると、各国の担当相と活発な意見交換をし、多くの収穫もあったのだろうが、「国民にそれが十分伝わったようには思えない」と白鳥氏。

 

「河野さんは自分が理解できれば、周りもいずれ追いつくと、どんどん物事を進めてしまう。しかし、デジタル・デバイドは世代差だけでなく、地域差や経済格差からも起こるんです。医師にはサラリーマンのような引退はありませんが、高齢化が進む一方の日本社会で、年配の医師も増えている。マイナ保険証をきっかけに、廃業を決めた医院も多いと聞きます」

 

 全国保険医団体連合会によれば、現行の健康保険証が廃止されるまでに「閉院・廃院する」との理由で、オンライン資格確認システムの導入猶予の届け出を国に出した医療機関数は、約1000件に上るとされる。過疎地域を中心に全国で医療従事者の高齢化が進むなか、厚労省は5月から7月までを〈マイナ保険証利用促進集中取組月間〉と定め、「利用促進に全力を上げて取り組む」のだという。

 

 厚労省元医系技官で医療法人社団DEN理事長の宮田俊男医師は、経営する東京のクリニックがマイナ保険証関連でNHKの取材を受けたと語る。

 

「もう半年前ですが、スタッフが半日ほどクリニックの様子を撮影し、40人~50人の来院者のうち、マイナ保険証を使ったのはたった1人でした。診療後にインタビューもしてるんですが、持っているのに忘れたとか、中には財布に入れていた人もいた。みんな慣れていないし、不安なんですね」

 

 宮田氏は「紙の保険証を残しておいてもよかったのに」といった、厚労省の官僚のぼやきも耳にしている。

 

「しかし、岸田政権はDXに思い切り舵を切ってますからね。6月から診療報酬改定があり、『医療DX推進体制整備加算』が設けられ、80円ほどプラスされるんです。医療機関からすれば、それもモチベーションにはなる。支援金が下りても、設備投資に相当かかっているので、いくらか埋め合わせができるぐらいでしょうか」

 

 一方、宮田氏によると、患者側にもマイナ保険証利用のメリットはある。通院歴や処方薬などの情報が併せて紐づくので、救急搬送の際などに即座にそれらが把握できる。

 

「助かるのは医療側だけではないんです。本人が同意さえすれば、過去の特定健診結果や薬の服用歴も医師・薬剤師等と共有できる。ということは、複数の医院にかかる患者への重複投薬なども避けられ、いっそう安心して治療を受けられるはずです。厚労省も患者の健康情報をデジタルで一元化するPHR(Personal Health Record)を奨励していますが、その必要性をしっかり伝えられていません」

 

 デジタルへの移行には、自治体へのマンパワーの補充など、サポート体制を整える必要もある。いたずらに先走るだけでなく、国民みんなが納得の行く医療DXを目指すべきだろう。白鳥氏は河野大臣の一連の拙速をたしなめる。

 

「河野さんが北欧から学ぶべきは、政府への信頼ではないでしょうか? 北欧では国民が政府を信頼しているので、高い税率も許されている。信頼なきところに、政策の支持はありません」

 

 現在のマイナ保険証の低迷は、国民の信頼を得ぬまま、政府の独り善がりが招いた、自業自得の事態なのだ。

 

文・鈴木隆祐

( SmartFLASH )

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