<長い年月、ひたすら象徴のあるべき姿を求めてここまで歩まれた陛下が、ご高齢となられた今、しばらくの安息の日々をお持ちになれるということに計りしれぬ大きな安らぎを覚え、これを可能にして下さった多くの方々に深く感謝しております。>
10月20日、ご自身の83歳の誕生日に際しての文書で、皇后陛下は退位特例法の成立について、このようにおっしゃった。
「このお言葉は、天皇陛下の譲位に、消極派あるいは慎重派だった人々に対する強烈な否定のお立場の表明でしょう」(皇室研究家・高森明勅氏)
消極派の代表は、ほかならぬ安倍首相だ。譲位をめぐって、かねてより消極的な立場を取っていた。
この日、朝日新聞が1面トップで、政府は天皇陛下の退位日を「平成31年(2019年)3月31日」とし、翌日に改元することで最終調整中だと報じた。
「官邸は当初、平成31年(2019年)元日改元に固執していた。官公庁や民間企業への負担を考えると最も負担が少ないと判断したためだ」(政治部デスク)
政府が元日改元案を検討中であると報じられたのは、2017年1月。特例法議論の真っ只中で、宮内庁は一切打診を受けていなかった。
「安倍首相や菅官房長官は、時代を区切る『元号』というものに対し、自分たちでイニシアティブを取りたい、支配したいと考えているのではないか」(宮内庁関係者)
だが、元日改元案には宮内庁が異例の意思表示をおこなっている。
「1月17日、定例記者会見で西村泰彦次長が『(元日の譲位は)実際にはなかなか難しい』と否定した。両陛下のご意向ではないとしながらも、皇室の行事に対する両陛下の考えの深さを踏まえた発言だと述べた」(皇室担当記者)
西村氏は、2016年9月、“官邸直送人事” で安倍内閣が獅子身中の虫・宮内庁の次長に送り込んだ人物だ。
「安部首相は現職の内閣危機管理監の西村氏を、宮内庁次長に就任させました。象徴天皇を支える宮内庁は、これまで政治的中立が重んじられてきた。現役の官邸の幹部職員を宮内庁に入れるというのは、異例の人事です。
その西村氏が、宮内庁の見解として、元日改元案を否定したのです。たんなるスケジュール上の話でなく、官邸の都合だけで進んでいく議論の進め方が間違っているというメッセージがこめられていたのではないでしょうか」(高森氏)
元日改元案は、皇室行事に多少の知識があれば、ありえない選択肢だ。
「元日は、天皇の最も忙しい日。四方拝が朝5時半からおこなわれるため、4時ごろには準備が始まります。その後、歳旦祭、晴の御膳を経て、国事行為の『新年祝賀の儀』に臨まれます」(皇室ジャーナリスト・山下晋司氏)
さらに、2019年1月には、もうひとつ特別な行事が控えている。
「昭和天皇三十年式年祭です。亡き父の霊を祀るという、今上天皇にとって大切なお祭りが1月7日にあるにもかかわらず、その1週間前に譲位していただくのはあまりに無知。初歩的な知識さえない人間が、陛下にも、宮内庁にも相談せず勝手に検討していたのですから、押し戻されるのは当然」(高森氏)
そして、ついに安倍首相は折れた。
「宮内庁側の意思が想像以上に固いこと、安倍政権の支持率がかつてのように高くないことが軟化の背景。官邸側が皇室に無理をさせているような印象を与えれば、今後の政権運営にマイナスと判断した」(前出・政治部デスク)
だが安倍内閣は当初、2017年9月発表と報じられていた譲位・改元のスケジュールを発表しないまま、解散総選挙に踏み切った。
「今回の朝日新聞のスクープは、皇室の問題を後回しにする安倍首相に、業を煮やした宮内庁サイドからのリークでしょう」(宮内庁関係者)
陛下のご意向を代弁する宮内庁に安倍首相も首を垂れた。
(週刊FLASH 2017年11月7日号)