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元通産省官僚からラーメン店主へ「睡眠時間は4~5時間」それでも「向いている」と思う理由

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.06.10 06:00 最終更新日:2024.06.10 06:00

元通産省官僚からラーメン店主へ「睡眠時間は4~5時間」それでも「向いている」と思う理由

スープがなくなる15時には店を閉めるが、営業時間外も仕事量は膨大だ

 

「会社なんか辞めて、生き甲斐を追ってみたい」「自分には天職があるはず」――そんな衝動に従うべきなのか。年収1000万円や安定した将来を捨てた男たちに、「いま、本当に幸せか」を聞いてみた!

 

 開店から約25年。埼玉県新座市にある「ぜんや」は、今でも行列が絶えないラーメン店だ。

 

 店主の飯倉洋孝さんは、元通産省の官僚で、39歳のときに塩ラーメン一本で開店した。

 

「東大法学部だけが優遇される霞が関の環境がイヤで、辞めました。もともと料理が好きだったので、ラーメン屋でもやるかと。とりあえずは調理師免許を取ろうと、デニーズへ就職しました。給料は通産省時代が手取り10万円を超えるぐらいだったのに、デニーズは約30万円と3倍。でも24時間営業で、バラバラのシフトで3交代するのは体がキツくて……。調理師免許を取得して3年で辞め、自動車メーカーの社員食堂へ転職しました。土日休みで安定していましたが、給料は10万円ほど減りましたね」

 

 

 じつはラーメン店を開店するのに必要なのは食品衛生責任者の資格で、調理師免許は必要なかった。

 

「そんなことも知らないぐらい、ラーメン屋を甘く考えていたんです(笑)。ラーメンは醤油、味噌ときてなぜ、塩より先に豚骨なんだろうと。だったら塩にしようと決めたんですが、これがまた考えが甘すぎました。塩は味がそのまま出てしまうため、苦労の連続。非常に難しかったです」

 

 試行錯誤を繰り返し、納得のいくスープが出来上がるまでに数年を費やした。

 

「開店当時は、スープの仕込みを朝の5時ぐらいから始めてたんです。でももう少し煮込んでみようかなとか、どうしても味を追い求めるうちに、どんどん時間が早まって。今では、翌日のは前日の21時ぐらいから仕込み始めます。一段落するのが24時ぐらい。そこから休憩して寝られるときに寝る。朝の仕上げもありますから、睡眠時間は4~5時間ぐらいです」

 

 それでも、ラーメンの行列店に憧れる人もいるだろう。だが、人気店を切り盛りする飯倉さんでさえ、コロナ禍以降の厳しい現実にはため息が出るという。

 

「ラーメン屋の場合、開店の数と閉店の数が同じぐらいで、1年以内に閉店する店が8~9割にのぼるといいます。3年もてば大丈夫だろうと言われていましたが、コロナの影響でそうもいかなくなりました。さらに材料費の値上がりが半端ないんです。たとえばラード。うちは質のいいものを使っていますが、それでも開店当初は一斗缶で5000円ほどでした。それが今では1万8000円です」

 

 個人経営で飲食店をやっていくのは本当に大変だ。それでも新しくオープンするラーメン店は多い。

 

「美味しいのは当たり前で、私が開店したころとはまったく環境が違います。趣味でやるならいいですが、ラーメン屋で食べていくにはよっぽどの覚悟が必要です。営業時間以外の見えない仕事の時間が、とにかく長いんです。50代、60代で始めたい方は大歓迎ですが、体力勝負の仕事でもあります。始めるなら1年でも早く始めることをおすすめします」

 

 飯倉さんが長年、守ってきたことは「自分が食べて美味しいと思うこと」だという。

 

「一生懸命やっていますが、そうじゃなきゃダメですよね。通産省は若いうちは給料は安いですが、続けていれば、今ごろは天下りで何千万円ともらえていたかもしれません。ラーメン屋なんてならなければよかったと思うこともありますよ。いつまで続けられるかわかりませんが、やめると決めたときに、それまでを振り返ってどう思うかでしょうね。それでも私は、人に使われるのが嫌なので、自分でコツコツやってるほうが向いていると思います」

 

 そう笑うと、飯倉さんは今日も多くの人が並んだ店の暖簾をおろした。

( 週刊FLASH 2024年6月18日号 )

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