社会・政治
「あまりにも短絡的」岸田首相「国立公園すべてに高級ホテル」ぶち上げに「日本自然保護協会」が緊急声明「自然はタダで利用できるものではない!」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.08.01 12:30 最終更新日:2024.08.01 17:30
7月19日に開かれた「観光立国推進閣僚会議」で、岸田文雄首相は、全国35カ所の国立公園を世界水準のナショナルパークにするため、「民間活用による魅力向上事業」を実施するよう指示した。簡単に言えば、「高級リゾートホテル」の誘致だ。
「自然公園法」の前身である「国立公園法」の施行100周年を迎える2031年までに進めるというのだが――この方針に、異を唱える自然保護団体がある。1951年の設立以降、長らく自然保護活動に取り組んできた「公益財団法人日本自然保護協会」だ。
7月25日、同協会は理事長名義で、岸田首相と伊藤信太郎環境大臣宛てに「問題が多い」などとした意見書を提出した。同協会の保護チーム室長の若松伸彦氏が、意見書を提出した理由について、こう話す。
「いちばん問題だと思ったのは、『すべての国立公園に』という点です。一部ということであれば、我々も意見書を出しませんでした。たとえば、日光国立公園や富士箱根伊豆国立公園といった、すでにホテルがある場所に新たにリゾートホテルを建てるのであれば、自然環境上の問題は少ないと考えています。
ところが、“すべて” ということになると、これは看過できません。意見書でも触れましたが、特に尾瀬国立公園、南アルプス国立公園、小笠原国立公園などの場所は、そもそも公園内にホテルがありません。
【関連記事:岸田首相の長男・翔太郎氏、ひっそり秘書活動に復帰も…議員会館のコンビニで「唖然」とする買い物】
山小屋はありますが、けっしてリゾートホテルの類ではなく、自然環境に配慮してきちんと運営されています。現状では、いわゆる登山を目的に荷物を持って登られてきた方の宿泊所という形で運営されており、一般観光客向けのホテルはないんです。
いずれにしても、ほとんどの国立公園には大型リゾートホテルはありません。その現状を無視して、すべてを一律に扱うことに問題があります」(以下、若松氏)
国立公園内でも、これまで環境大臣が指定した「集団施設地区」については、宿舎などを建てることが認められている。
「『集団施設地区』については、自然公園法上、問題はありませんし、我々もそこまで危惧はしていません。この地区に高級リゾートホテルが建つことの問題は、そこまで深刻ではないと判断しています。
また、公園の外に建設するなら問題ないですが、公園内となれば、強い問題意識を持っています。特に、先ほどあげた3つの国立公園は、自然環境上、非常に脆弱です。ちょっと環境が崩れただけで、全体に大きな影響を与えます。
リゾートホテルを建設する過程で、それまで保たれていた自然環境が危険に晒される可能性が高いわけです。
もともと国立公園は、自然や生態系の保護というより、景観という概念からスタートしました。ですので、景観という観点からも、国立公園内にホテルが建った場合、影響が生じるはず。国立公園内にホテルを建てるメリットはないと感じています」
若松氏は、リゾートホテルを建てるより先にやるべきことがあると言う。
「政府のやることは、順番が違うと思っています。まず、国立公園内の登山道がかなり荒れていても放置されている状態が散見されます。それを直すことが先でしょう。環境省は予算がないため、そうした部分にお金をかけられないですし、人手も足りていません。
大きな国立公園の管理事務所でも、管理者は4~5人しかいません。南アルプスの場合、南北で130kmもの範囲になります。それだけ広いにもかかわらず、スタッフは数人なので、全然足りていません。海外のナショナルパークの人員に比べると、数分の1から10分の1程度です。
そういった現状なのに、とりあえず『観光客を呼ぶためのホテルを作ればいいや』というのは、あまりにも短絡的です。管理の人員を増やし、登山道などの整備をし、自然環境調査をやったのち、リゾートホテルの誘致を計画するというのなら、まだ理解はできますが……」
そもそも、国立公園は場所によって、それぞれの事情が変わってくる。
「交通アクセスから見て、観光客をたくさん呼べる国立公園もあれば、そうでない国立公園もあります。道路などのインフラと同じように、自然環境の維持も国が担保すべきなのですが、その概念がまったくないと感じています。
自然環境は “タダ” で利用できるものではないのです。こういったことを岸田首相には、ぜひ理解していただきたいと思っています」
岸田首相、伊藤環境相には、自然環境保護に十分配慮した計画を望みたい。
( SmartFLASH )