社会・政治社会・政治

内定もらって「お母さんに確認」Z世代の“異常な”就活、支えているのは親世代の“皮肉”学生は「前時代的」と困惑

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.09.02 06:00 最終更新日:2024.09.02 06:00

内定もらって「お母さんに確認」Z世代の“異常な”就活、支えているのは親世代の“皮肉”学生は「前時代的」と困惑

多くの企業、自治体が保護者向けの就職説明会を開催している。写真は2021年、新潟県庁の保護者説明会(写真・時事通信)

 

「昔から親への確認や、親のための会社説明会などはあったのですが、『オヤカク』という言葉が使われるようになったのは、ここ2、3年です」

 

 と話すのは、人事のプロフェッショナルとして、5社で人事責任者を兼務しているティーブリッジェズカンパニー代表の髙橋実氏だ。

 

「背景は、昔に比べて学生が内定辞退をしやすくなっていること。かつては企業主導だった就職活動が、学生が選ぶ形に変わってきたのです。内定辞退者を減らしたい企業は、親の意思を確認する『オヤカク』をおこなうようになりました。面接などで『親御さんはどう思っていますか?』と質問する企業は少なくありません」(髙橋氏)

 

 

 マイナビ「2023年度 就職活動に対する保護者の意識調査」によると、「オヤカク」を受けたことがある両親は52.4%にのぼるという。人事ジャーナリストの溝上憲文氏はこう話す。

 

「政府は6月1日から選考を開始するよう企業に求めていますが、実際は6月時点で8割以上の学生が内定をもらっています。企業のなかには、その後の内定者懇親会などで承諾書を取るところもあるようです。親に依存する学生が増えているためです」

 

 溝上氏がある精密機器メーカーの人事担当者に取材したところ、こんなケースが実際にあったという。

 

「『内定を出すけど来る?』と聞いたところ『お母さんに確認してから電話します』と答えた学生がいたそうです。親が子どもの会社の説明会を申し込み、二人三脚で就活をする『親子就活』も珍しくありませんからね」

 

 では、オヤカクされた学生はどう思っているのか。現在、地方銀行に勤務する入社1年めのAさんは、「サインと捺印をした紙を取られるのが怖かった」と話す。

 

「最初に内定をいただいた食品商社からは、自分と親のサインと捺印をする内定承諾書を2通、提出するように言われました。この承諾書を出したら逃げられなくなるのかなって、急に怖くなりました。証拠が残る書面を残すのはどうしても嫌で、内定を辞退して承諾書も提出しませんでした」

 

 一方、第一志望だった大手マスコミに内定したにもかかわらず、オヤカクされたことで不信感が募ったBさんはこう憤る。

 

「私はオヤカク自体をまったく知らなかったので、内定承諾書を提示されたときは『えっ? これを書かせるの?』とドン引きしました。マスコミは時代の先端であると思っていたのに、こんな踏み絵みたいな前時代的なことをさせるのかと。成人である本人に決定させるべきことを、わざわざ親にサインをさせて逃げられないように書面を取るなんて、コンプライアンス的に大丈夫なのだろうかと一気に不安が広がりました」

 

 Bさんは、圧迫面接を受けたことにも不信感を持ち、その後に内定を辞退し、大手商社に入社した。

 

「企業は内定辞退を減らしたいのでしょうが、現に私は入社を辞退しましたし、オヤカクなんて誰も得をしないと思うんです。内定承諾書に法的な拘束力がないことは、企業だって百も承知のはずじゃないですか。そんなことより、初任給を1万円上げます、有給を5日増やしますとか、学生に対してわかりやすいアピールをするほうが、よっぽど効果的だと思います」

 

 とはいえ、企業がそうせざるを得ない事情もある。いまの大学生の親は、就職氷河期世代で、自らが苦労してきた。「自分の子どもは安定した企業に入れたい」という一心で、子どもの意思に反して辞退させることがあるという。前出の髙橋氏が実例を挙げる。

 

「BtoBなど、世間的に知名度の低い会社は即、『不安定だ』と見なす親は多いですね。ある学生は、その業界では7割のシェアを誇る超優良企業に内定を得たにもかかわらず、親の反対で辞退に追い込まれました。また、親が自分の時代から情報をアップデートできておらず、IT業界などに『怪しい』、営業などの職種に『キツい』という先入観を持ち、子どもに辞退をすすめることもあるようです」

 

 溝上氏は、ある中小の建設デザイン会社に東京大学工学部の学生が志望してきたときのエピソードを語る。

 

「その会社の役員に、学生は『ゼネコンではなく、自分の想像を掻き立てる仕事ができる御社に入りたい』と熱心に志望動機を話していたそうです。ですが、その数日後に彼から電話があり『母を説得しましたが、どうしても一流企業に行けと泣かれてしまった』と断わってきたそうです」

 

 前出のAさんの第一志望は、生命保険の営業職で、無事内定を勝ち取ったが、親とは口論続きだったと話す。

 

「お母さんからは、『生保の営業なんてノルマに追われてたいへんなんだから』と、ずっと反対されていました。人事の方には懇親会などでそのことを打ち明けていて、『親御さんの不安って何だろう?』と親身に話を聞いてくれていたのですが、結局、自分でもよく考えた結果、辞退することにしました」

 

「就職先すら自分で決められないのか」と、Z世代に違和感を持つ読者は多いだろうが、実際はその親がオヤカクというシステムを支えているのだ。溝上氏はこう語る。

 

「最近、部品や素材メーカーなど、消費者向けではない企業の紹介CMが増えていますが、これは明らかに親対策。企業も本音では、親に依存せず自立した学生を採りたいのでしょうが、オヤカクはやめたくてもやめられないんでしょうね」

 

 企業は必死にオヤカクし、その結果、学生の辞退につながっている。異常な就活はまだまだ続く。

( 週刊FLASH 2024年9月10日号 )

続きを見る

今、あなたにおすすめの記事

社会・政治一覧をもっと見る