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「ゴミじゃねえ、使うんだ」ゴミ屋敷問題、全国に5200超で年々増加…住人の“生き方”に関わり行政も手が出せず

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.09.11 19:50 最終更新日:2024.09.11 19:52

「ゴミじゃねえ、使うんだ」ゴミ屋敷問題、全国に5200超で年々増加…住人の“生き方”に関わり行政も手が出せず

茨城県土浦市にあるゴミ屋敷。塀の高さまでゴミが積み上げられている

 

 ゴミ屋敷に接近した途端、グワァ~ンとやぶ蚊の大群に襲われ、顔や首、腕を刺されて赤く膨れ上がった。虫よけのスプレーを用意していたが、こんなもの気休めにもならない。

 

 茨城県土浦市街より2キロほど離れた水田が広がる集落に、いわゆる「ゴミ屋敷」がある。瓦葺の平屋建て住宅で、この地域特有の在来工法で建てられた家屋は、いかにもがっちりした趣きがある。

 

 それにもかかわらず雑草に覆われ、樹木も伸び放題。おまけにゴミの山。ゴミは敷地内はおろか、塀からもはみ出して県道にまで散乱し、車両通行の妨げにもなっているのだ。

 

 

「今はもう諦めてます。全然聞く耳を持たないし、片づけようともしないから……きっと、片づけられない人なのよね、あーゆー人って……」

 

 近くに住む女性はこう言って顔をしかめるが、ゴミが発する腐敗臭や害虫は、周辺住民の不快指数を高める元凶にもなっている。しかしこのようなゴミ屋敷は、全国的に増加傾向にあるようだ。

 

 環境省は、2022年度に実態調査をおこなった結果、全国で5224カ所のゴミ屋敷を把握した。これをもとに、総務省は人口10万人以上の市および特別区の30市区におけるゴミ屋敷181カ所を選び、実態について2022年10月から2024年8月にかけて調査。その結果をこのほど発表した。

 

 それによると、周辺地域に及ぼす影響として火災発生の恐れ103事例、悪臭の発生94事例、害虫等の発生86事例、汚水の発生10事例、不法投棄の誘発8事例などが明らかになった。

 

 同報告書は撤去に関する市区の指導についても、「居住者の理解が得られない」が約8割、「居住者が解決を望んでいない」が約6割あると述べ、行政が介入することの難しさをにじませている。土浦市のゴミ屋敷も、どうやらこれにあてはまるようだ。

 

 当該のゴミ屋敷は自転車、ゴムタイヤ、ポリ容器、木製の戸棚などが完全に道路側にはみ出している。敷地内には家電製品、家具類、生活用品、玩具、台所用品、衣料、食器、スーツケース、こうもり傘、婦人用靴、あるいは小物類を入れたスーパーの白いポリ袋……などなど、あらゆるものが積み上がっている。

 

 室内も同じようにゴミが散乱しているに違いない。窓際にまで白いポリ袋がびっしり重なっている様子が、外からもよく見えるからだ。

 

 玄関もゴミに占拠されている。だからか、ごみ屋敷の住人は室内に入るためにゴミの間をカニのように横向きで進むありさま。まさに、ゴミの中に家が埋められた状態なのだ。よくこれほどまで溜められるものだと呆れるが、しかし当人はいたって平然。むしろ、驚くこちらを怪訝に思う様子で度肝を抜かれる。なぜゴミの中で生活するのか話を聞いてみると……

 

「ゴミじゃねーよ、使うから置いとくんだ」

 

「はみ出してるもんは少しずつ片づけてるし、邪魔なんかしてねーべぇ」

 

「そっちこっちからくれる人がいっからもらってるだけだ」

 

 住人男性はこのように言い、ゴミであることを否定する。ゴミでないとすれば、では有価物かと重ねて質問したが、これには返事がなかった。前述した総務省の調査報告書によると、「ゴミを有価物と主張するケースも3割ほどある」と伝えている。事実この“逃げ口上”を使い、行政指導を繰り返し受けながらも、産業廃棄物を長年放置状態にしている悪質業者もいる。

 

 しかし、こうもゴミを溜めこむ理由とはなんなのか。遺品・家財等の整理専門業者は、次のように解説する

 

「たとえば、幼少時代が貧困で自由に物が買えなかった、物を捨てるのに抵抗がある。物に囲まれてることで孤独感が癒やされ、安心を得る。あるいは買い物依存症だったり……さまざまですね。また、こういった人は人との接触も避ける傾向があります」

 

 こうしてみると、ゴミ屋敷の住人とはいわば「断捨離できない症候群」と言えなくもない。しかし、前出の調査報告書が指摘するように、ゴミ屋敷は周辺住民の生活環境にも影響を及ぼしている。「ゴキブリ、ネズミ、やぶ蚊などの害虫が湧き、スズメバチも巣を作るので危険です」と、前出の専門業者は言う。

 

 ではこのようなゴミ屋敷に対し、土浦市当局はどのように対応しているのか。

 

「当人が語るには、かれこれ14、5年前からゴミの持ち込みが始まり、人からもらったものを集めているうちに徐々に溜まってしまったとのことです。市側としても道路にはみ出したごみについては、職員を派遣して処理していますが対応には限界がありますね」(環境衛生課)

 

 土浦市の場合、環境対策や空き家対策に関する条例はあるものの「ゴミ屋敷」に特化した条例はない。したがって、ゴミは一般家庭から排出される生活ゴミと同じく、一般廃棄物処理法による扱いになる。だが「有価物」と言われると処理は困難になる。

 

「したがって市としてはこのまま放置できないので、本人ないし親族に了解を得たうえで撤去の方向で検討しているところです」(環境衛生課)

 

 気になるのは、その場合に生じる撤去費用だ。

 

「それは市側が負担することになります」(環境衛生課)とのことだが、はたして大型トラック何台分に相当するか、あまりに膨大なゴミで見当もつかない。総務省も、ゴミ屋敷に有効な手立てがない現状を憂慮している。そのため、今後は市区町村の環境部局にとどまらず、福祉部局や社会福祉協議会などとの連携も重要だとしている。

 

 ゴミ屋敷問題は環境面だけでなく「貧困、孤立、認知症とも関係するので、さまざまなケアも必要だと思いますね」と、前出の専門業者はアドバイスする。しかし、ゴミ屋敷問題は当事者の生き方にも関わるところが解決を難しくしているようだ。

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