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なんで他社の車両が走ってる? 大手鉄道会社が「中古車両」を譲渡する裏事情…ローカル鉄道へのサポート込み支援で継続収入も

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.10.29 11:00 最終更新日:2024.10.29 11:00

なんで他社の車両が走ってる? 大手鉄道会社が「中古車両」を譲渡する裏事情…ローカル鉄道へのサポート込み支援で継続収入も

近江鉄道に譲渡された西武2000系電車(写真提供・平賀匡氏)

 

 昨今の鉄道業界は、訪日観光客(インバウンド)の増加で、コロナ禍のころよりは回復傾向にあるものの、依然として苦境が続いている。

 

 燃料費の高騰や老朽化、沿線人口の減少・利用客減にともなう旅客運輸収入の落ち込み、さらには激甚災害の復旧費……。これらを補うため、各社が不動産開発に加え、金融事業など非鉄道部門に参入する動きも顕著となっている。

 

 とはいえ、「地域の足」を担う公共交通機関としての役割は、鉄道会社が根幹に据えるところ。厳しい懐事情のなかで赤字を穴埋めし、路線を維持する方策として注目されているのが、鉄道会社間での「中古車両」の譲渡だ。

 

 

 10月19日、「黄色い電車」として有名な西武2000系電車が、近江鉄道に譲渡されるため旅立った。そのやや複雑な経緯を、鉄道ジャーナリストの平賀匡氏に聞いた。

 

「西武鉄道では2030年度までにすべての車両を省エネタイプの電車に切り替える計画で、新車と並行して中古の『サステナ車両』の導入準備を進めています。

 

 新車の導入には高額な投資が必要ですし、車両製造工場ではJR各社や他の大手私鉄、それに海外の車両も製作しているため、西武鉄道1社だけの車両を短期間に生産することができません。

 

 そのため、西武鉄道で運用可能な中古の省エネ車両を探したところ、大幅なリニューアルで余剰車両となった小田急8000形電車なら、大きな改造をすることなく、国分寺線で使用できることが判明。

 

 そこで、小田急から6両編成7本が西武に譲渡されることになりました」(平賀氏・以下同)

 

 この流れで取り替えられることになったのが、前述の西武2000系電車だ。

 

「滋賀県の近江鉄道は西武グループの一員ということもあり、以前より、西武鉄道から断続的に中古車両を譲ってもらってきました。

 

 しかし、現在走っている車両で最も古いものは製造から60年以上が経過し、老朽化が顕著となってきたため、滋賀県や沿線自治体の補助金も活用して取り替えることに。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが、2両でも走行できる2000系電車です。いままでは西武鉄道で役割を終えると廃車解体されてきましたが、今回初めて2両編成2本、計4両が幸運にも第2の人生を得ることになりました。

 

 今回の事例は『捨てる神あれば拾う神あり』とも言えます。特に2両編成は、編成短縮のための大きな改造工事をする必要がなく、保安装置の変更のみで走行可能なため、乗客数の少ない地方私鉄にとって、救世主の車両になると考えられます」

 

 中古車両を「サステナ車両」と名づけ、省エネ化を加速させている西武鉄道だが、最新車両を自前で用意できない背景には路線網の広さも影響しているという。

 

「西武鉄道ではもともと省エネ車両の比率が低く、今回、中古車を譲ってもらうことになった小田急や東急と比較して、大きな差があるんです。

 

 運賃収入の多い池袋線や新宿線といった主要路線には新車の導入が可能でも、ほかに高架化などの事業も並行しておこなっているため、支線で使用する車両にまで高額の投資ができないという事情があります。

 

 また、運賃収入の少ない支線では、列車運行のための経費を少しでも節減したい。新車を導入した場合、高価な車両の製作費用が減価償却(電車は13年)まで毎年の運行経費に計上されることを考えると、少しでも抑えるために安価なサステナ車両の導入が最適と言えるでしょう」

 

 このような中古車両の譲渡は、大手私鉄間では珍しい。一方、人口が減少し、経営状況の厳しい地方のローカル鉄道では、他社から譲受した車両に代替することが必要不可欠になりつつある。

 

「地方私鉄でも、愛媛県の伊予鉄道のように比較的経営の安定しているところなら新車導入が可能かもしれません。しかし、1両2億円以上する新車を購入することは、多くの地方私鉄では非常に難しい話となります。

 

 さらに、中型車両しか入線できない地方私鉄は数多く存在しますが、最近ではそのような中型車両の中古車を調達すること自体、難しくなっている現状があります。

 

 そこで、老朽化した車両を何とか代替するため、長野県のアルピコ交通(旧:松本電鉄)は、東武鉄道が東京メトロ日比谷線直通から栃木県内の支線へ車両を転用した際に、余剰となった運転室の無い中間車を譲り受けました。

 

 そのままでは使用できないため、運転室を設置したり、走行機器を大幅に交換したりすることが必要で、高額な改造費用がかかりました。そのため、大幅な改造工事には都道府県や各市町村などの自治体の補助金頼りになるのが現実だといえます。

 

 また、千葉県の銚子電鉄を例にあげると、南海2200系電車のように製造から50年以上経った車両は寿命が近いため、通常では譲受することはありえません。

 

 しかし、地方私鉄のなかでも特に零細な会社では、改造費用が高額になると車両の導入自体が難しいものとなるため、あまり手をかけず短いスパンで取り替えることによって、トータルの費用を抑えるところもあります」

 

 車両を「譲る」側にとっては、なにかメリットがあるのだろうか。

 

「廃車となった車両は、自社で再利用する部品を取り外した後、車両基地でスクラップにするか、トラックで運べる大きさに切断して金属スクラップ工場へ運び、解体されます。その過程で、廃棄物をリサイクル利用するために資源別に分別する必要があります。

 

 しかし、廃車となっても他社の規格に合致した車両であれば、分別作業が不要となるほか、金属スクラップにする以上の金額で売却できるのが大きなメリットです。

 

 京王電鉄系の京王重機整備、東急電鉄系の東横車輛電設など、譲渡側の鉄道会社のグループ会社には整備専門の会社もあり、中古車両の導入から日常の車両整備までおこなっているため、運行開始後にサポート込みでの支援を継続することで、継続的な収入が期待できます。

 

 ただ、車両数を満たすために、1社だけではなく複数の会社からの譲受となるケースもあり、その場合は運転や日常整備の習熟に手間と時間がかかることになります。

 

 また、地方私鉄に最適な車両が見つからないこともあり、車両が擦らないように駅のホームを削る、信号機を移設するといった工事が必要となるケースも発生するのは致しかたない点でしょう」

 

 譲渡され、地方私鉄で新たな活躍の機会を与えられた中古車両について、鉄道ファンの胸中はいかに。

 

「一時期、長野県の3私鉄(上田電鉄・長野電鉄・アルピコ交通)には東急からの中古車が集結したことがあって、鉄道ファンだけではなく60~70代の登山者の方からも、『学生時代を思い出した』という声がよく聞かれたものです。

 

 千葉県のいすみ鉄道や新潟県のえちごトキめき鉄道では旧国鉄時代の車両を走らせているため、週末となれば撮り鉄や乗り鉄などの鉄道ファンの姿が多く見られます。

 

 経営の厳しい地方私鉄や第三セクター鉄道では、あえて元の鉄道会社の塗装に戻すことで、鉄道ファンの集客を図っているところもあります」

 

 まだ走れる中古車両を鉄道会社間で循環させ、有効活用するシステムをいちばん喜んでいるのは鉄道ファンなのかもしれない。

( SmartFLASH )

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