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望月衣塑子&森ゆうこ「政治部にジャーナリズムはできない」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2018.01.24 06:00 最終更新日:2018.01.24 10:06

望月衣塑子&森ゆうこ「政治部にジャーナリズムはできない」

 

 東京新聞社会部記者の望月衣塑子と、自由党の参議院議員・森ゆうこがは初対談。ジャーナリズムと野党の存在意義を問い直す。

森 望月さんは、加計問題で菅義偉官房長官を鋭く、諦めずに追及することで、あなたにとってみれば予想外の注目を浴びてしまったと思いますけど、正直なところどうでした?

 

望月 そうですね。ネガティブな攻撃を受けたり、逆に応援してくれる人が増えたり、取材する側のはずが、取材されることも多くなったりで、加計問題前後では私を取り巻く環境が大きく変わったなと思いますね。

 

森 菅さんが嫌な顔すると、記者クラブのほかの記者たちは難しい顔しない?

 

望月 いつもにらんでくるテレビ局の記者が一時期いました。どことは言いませんけど。その局は、加計学園の騒動が起こったときに、「第二の森友問題になりそうだから加計やります」とある記者が潜入取材をしようとしたら、政治部が「そんなことやったらまた政治部の仕事が危なくなるから手を突っ込むな」って横やりを入れてきたそうです。それってジャーナリズムとしておかしいですよね。

 

森 テレビを見ているだけだと、そこまで露骨なことってあまり感じないけどね。

 

望月 報道としてはきっちり取り上げようと思っているからやるんですけど、テレビの政治部はやはり権力にかなりベッタリのように見えます。だから、ある社では、記者経由なのか、社長と安倍さんとの会食をセッティングするように打診があったりするようですよ。ただ、そこはお断りしているみたいですけどね。トップ同士が会食を繰り返すと現場で批判もできなくなるからって。

 

森 政治部というのは、ジャーナリズムができないのかな。

 

望月 いまの記者クラブ制度では、なかなか難しいのかなと思います。権力に引き寄せられてしまうというか。森さんが与党だったころは、メディアに対してどう思っていましたか。

 

森 当然、一番情報を持っているのは権力者側。記者とすれば情報がほしいわけです。そうすると、組織も人も権力にすり寄ってしまうと思いますよ。一番顕著なのが司法記者クラブね。絶対検察のいいようにしか書かない。

 

望月 クラブにいると、やっぱりこれ以上突っ込むのはやめようっていう気持ちが出てくるんでしょうね。司法クラブだったらここまで、官邸記者会ならここまでみたいな線引きが、そこにずっといればわかってくるのかもしれない。でも、それは内輪だけのルールで、国民は知らないし、私だって政治部じゃないから知らなかったっていうだけですよ。

 

森 知らないからできた?

 

望月 そう思います。

 

森 政治部のルールを知っちゃったら、権力監視ができないのかしら?

 

望月 そこはわからないですね。ジャーナリストの故・筑紫哲也さんは朝日新聞の政治部記者でした。次女の筑紫ゆうなさんからお聞きしたんですが、彼は歴代の首相とも仲が良くて、小泉純一郎元総理とも首相になる前からかなり仲が良かったそうなんですね。

 

 でも、小泉さんが首相に就いたときに、「あなたが首相に就いたことで、僕はいままであなたを応援していたけれども、これからは1人の権力者として対峙していきますよ」という手紙をしたためて送っていたらしいんです。それって結構すごいことだなと思います。だって、もしかしたら首相とのホットラインが作れて、この国の今後の流れが事前にわかるし、情報もいくらでも取れるわけですよ。

 

 いまの著名なジャーナリストの大半は、官邸とのパイプの太さを競っている感じですよね。情報力としては、権力者とつながっていたほうが政治部としてもいいはずなんです。でも、筑紫さんは政治と一体化したらいけないのだと肝に銘じていたんですね。そういうことってなかなかできないですよね。

 

森 それはすごいね。権力とメディアは一定の緊張感が絶対に必要。たとえ、親友同士だとしても、距離感をもって対峙しないと国民が不幸になってしまいますよ。

 

望月 そうですね。もしくは、渡邉恒雄読売新聞主筆みたいにどんな政治家に対しても、自分の思いとか信念をきっちり言えるくらいに力を持つか。もしかしたらそれが政治記者として目指すべき到達点かもしれませんね。

 

 いずれにしても、政治家の言いなりにならない、政治が間違っていたら間違っているって言えないといけないですよね。自分が総理を使ってこの国を変えていくんだという気概を持つとかね。

 

 でも、いまの政治部はとにかく政治家に気に入られようと、伝書鳩のような役割になってしまっていると感じます。やっぱり気に入られて食い込んでいるというのは、一時的には重宝がられるけど、最終的にいいように使われるだけの気がしてしまいます。もし政治部記者なら、政治家ときっちり対峙して、おかしいことはおかしいと言えないといけない。

 

 それができないから、菅さんが官房長官会見で「問題ない」と言ったら、記事も「問題ない」となるし、質問も続いていかないんです。会見では菅さんのその一言で静かになってしまいますから。菅さん自身、政治部の記者はこの程度だと見くびっている面もあるのではと思えてしまう。

 

森 政治家も追及が緩いメディアに対しては、飴をあげる一方、どこかで軽く見ちゃうよね。

 

望月 国民も権力におもねるメディアなんて望んでないと思います。もちろん、反対のための反対は良くないですが、メディアの権力監視っていう機能は、弱めてはいけないんです。でも、それができないくらい政治部は批判がしづらくなっているのかもしれません。逆に政治家、特に官邸が強くなっている。

 

森 権力におもねるほうが簡単だからね。長い物には巻かれろって言いますから。

 

望月 長いものに巻かれていたほうが、記者は精神的に楽だろうなとは思いますね。政権側にいれば危ないこともないし、おいしい情報も手に入るから。それこそ、反権力だ、権力監視だって頑張っちゃうと、捜査機関を使って調べられたりしますから(笑)。

 

 でも、そうなったら、その人は御用ジャーナリストですよね。それが政治を取材する者の宿命だとすれば悲しいです。本来は違う方向を目指して記者になっているはずなのに。

 

森 やっぱりジャーナリズムを忘れていくんだろうな。

 

望月 そうそう。初心をなくしてしまうんですね。もちろん、政治部記者が皆そうだとは全く思っていませんが。

 以上、望月衣塑子氏、森ゆうこ氏の新刊『追及力 権力の暴走を食い止める』(光文社新書)より引用しました。国家レベルの不正が疑われる森友・加計問題で、政府への厳しい質疑が注目を集める新聞記者と野党議員による緊急対談です。

 

●『追及力』詳細はこちら

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