社会・政治
「普通の運動を恐喝・強要と」無罪勝ち取った「関西生コン事件」労組執行委員長が明かす恐るべき“組合つぶし”の実態

インタビューに応じた「全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部」の現執行委員長、湯川裕司氏(写真・馬詰雅浩)
2月26日、京都地裁はある判決を言い渡した。京都府内の生コンクリート製造会社がつくる、協同組合に対しての恐喝事件だ。
罪に問われていたのは、全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(通称・関生)の前執行委員長・武健一氏と、現執行委員長の湯川裕司氏の2人。2人は2013年から2014年にかけ、関生の組合員7人が在籍していた会社が解散することをめぐり、協同組合に解決金の支払いを要求して生コンの出荷を妨害したり、協同組合から1億5000万円を脅し取ったりしたなどとして、4つの事件で恐喝罪や強要未遂に問われ、起訴されていた。
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求刑は懲役10年。だが、京都地裁は「労働問題の解決を求めておこなったストライキで、大人数での阻止や威圧的な言動をしたとは認められない」として、無罪判決を言い渡した。
「私たちは、労組として普通の組合運動をやっていただけです。それが恐喝や強要といわれ、逮捕されました。何も暴力的な行為なんかやっていないのに、捕まる。これは戦後まれにみる“組合つぶし”ですよ」
そう語るのは、無罪を勝ち取った張本人の湯川氏だ。3月19日、湯川氏は関生が入る大阪市内の事務所で、壮絶な組合つぶしの実態について語った。
じつは湯川氏は、京都だけではなく、滋賀、和歌山などでの計8事件で逮捕、勾留されている。勾留日数はじつに644日にもわたった。彼だけではなく、2018年7月以降、関生の組合員は18の事件に問われ、81人もの逮捕者を出していた。いわゆる「関西生コン事件」といわれるものだ。そのいずれもが、組合運動を展開したことが、恐喝や威力業務妨害、強要の罪に問われていた。
「私たちは、ミキサー車の運転手が中心の組合です。非正規が多く、運転手が個人で加盟できる組合で、いわゆる産業別労働組合(産別労組)です。なので、生コン業者の集まりである協同組合や個々の生コン業者に、賃金アップや、職場環境の改善を求める運動をやってきました。
ミキサー車の運転手なんて、生コンを発注する大手のゼネコンや商社からすると、吹けば飛ぶような存在なんです。なので、運転手たちの権利を守るためには組合活動が必要なんです。
ところが、生コン業者からすると、労働運動をおこなう我々は非常に煙たい存在なのでしょう。それにいまは、普通に組合運動をやるところが少なくなったので、我々の運動が目立っていました。そこで生コン業者は、関西各府県の警察と一緒になって、関生をつぶそうという画策したのだと思います」(湯川氏・以下同)
何としても関生の組合員を逮捕する、という警察の動きは、露骨だったという。
「たとえば滋賀県警は、私を逮捕する1年も前から、私の周辺や、公私にわたって私と仲のいい業者に『何でもいいから被害届を出せ。そうしないとあなたを逮捕することになる』といった、脅しともとれることを言い続けてきました。その業者たちは、その都度、私に連絡してきて『警察が被害届を出せと言ってくる。ひどいなあ』と言っていました。何としても私を逮捕に持ち込みたかったようです。
しかも私は滋賀で逮捕、勾留され、1年後にやっと保釈許可が下りたのですが、それと同時に、京都府警に逮捕されました。まさに、関西の警察が連携して、私を自由にさせないようにしていたのです」
湯川氏以外の組合員の逮捕も壮絶だ。
「組合員が、自分の子どもを保育園に入れないといけないので、職場に就労証明書を申請しました。すると会社は、もうすぐ廃業するから証明書は発行しないと言ってきたのです。でも、行政は証明書を出しなさいと言っているので、現時点で会社があるなら証明書を出してほしいと言ったら、それが強要未遂だと逮捕されてしまいました。こんなことがまかり通っていたのです」
もともと関生は、1965年に結成された個人加盟の組合。以来、一貫して組合運動を続けてきた。一時は闘争の激しさを指摘されることもあった。
「私たちは、団結権、団体交渉権、団体行動権という労働三権に基づいて運動しているだけですが、過激派の左翼がついているとか、極左暴力集団だといわれることもありました。しかし、今回の判決にも出ているとおり、私たちは何も暴力的なことなどやっていません。むしろ生コン業者のほうが、なかにはヤクザを使って脅してくるようなことがありました。それに対して、我々は組合運動をやってきたのです。相手側がネガティブキャンペーンを張って、『関生は恐ろしい集団だ』と勝手に宣伝していましたが、今回の判決で、その嘘が明らかになったのです」
いま、“組合つぶし”が働く背景には何があるのか。湯川氏はこう話す。
「関西は、いままでの歴史でもかつてないほど“生コンバブル”なんです。生コン業界は信じられないほど儲かっています。しかし、そんなときに我々、関生が組合活動をしたら、労働者にもっと高い賃金を払わないといけなくなります。そんなことは、業界としてはしたくない。この際もう、つぶしてしまおうと思ったのではないでしょうか」
一連の「関西生コン事件」は、『労組と弾圧』という題名で、テレビドキュメンタリーになり、第61回ギャラクシー賞選奨を受賞した。このほど、劇場版も上映されている。
しかし、事件は終わりを迎えたわけではない。現在までのところ、逮捕された81人のうち、無罪判決が出ているのは19人でしかない。
「警察は、警察が描いたシナリオを認めた組合員は、すぐに保釈しました。この事件の間に、組合員は10分の1に減りました。それでも、私たちはやめるわけにはいきません」
湯川氏は無罪判決を受けたものの、検察はその後、控訴しており、裁判は大阪高裁に移る。決して他人ごとではない、労働問題。彼らの戦いはまだ、続いていくのだ。