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『アンナチュラル』の「不自然死究明研究所」が現実に必要な理由

社会・政治 投稿日:2018.02.14 06:00FLASH編集部

『アンナチュラル』の「不自然死究明研究所」が現実に必要な理由

『フィンランドでは異常死の解剖率はほぼ100㌫。血液や胃内容物などは一定期間、冷凍保管される。日本では保管のルールも予算もない』

 

「20年以上前から、現状の制度では犯罪が繰り返されると指摘してきていますが、国は放置したままなんです」

 

 ジャーナリストの柳原三佳氏は語る。実際、最初の事件で適切な検案・解剖がおこなわれず、連続殺人などにつながったケースが驚くほど多い。

 

 検視官らの臨場率(事件性の有無を判断する現場立ち合い率)は全国平均で10年間で11.2%から78.2%と飛躍的に上がったが、解剖率は9.4%から12.7%とほぼ横ばいだ。

 

「老人ホーム睡眠導入剤混入事件では当初、交通事故死として処理されました。臨場の際、睡眠導入剤を飲まされたとは思わなかったんでしょう。臨場が機能していないのです」(同前)

 

 この事件では着衣に付着した血液から睡眠導入剤が検出され、立件できた。だが、最初に解剖や薬物検査がおこなわれていれば、その後の殺人未遂も起こらなかったはずだ。

 

「以前、法医学研究所構想がありましたが、立ち消えになってしまった。国として、捜査機関とは別の機関で、専門家が責任をもって死因究明をおこなう制度を整えるべきです」(同前)

 

 ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)の「不自然死究明研究所」は、現実でも切実に求められているのだ。

 

 以下に【法医学の重大事件10】を掲げるが、もし早期に法医解剖されていれば、防げた事件もあるはずだ。

 

【法医学の重大事件10】

 

(1)保土ケ谷事件

 

 1997年、破損した車中で自営業男性が嘔吐、昏倒。警察は酒に酔っていると放置し、約半日後に死亡した。司法解剖の結果、心筋梗塞だったと説明されたが、遺体に解剖の跡はなかった。遺族は訴訟を起こし、救護義務違反は認められたが、放置と死亡に因果関係はなく、解剖もおこなわれたとの判決だった。

 

(2)福岡スナックママ連続保険金殺人事件

 

 2004年、不倫相手への脅迫容疑で元スナックママ、高橋裕子が逮捕され、取調べの過程で保険金目当てで1994年に2番めの夫を刺殺、2000年に3番めの夫を水死させていたことが発覚。最初の事件は腹に包丁が刺さっていたにもかかわらず司法解剖されず、自殺と処理された。無期懲役で服役中。

 

(3)鳥取連続不審死事件

 

 2009年、元スナックホステスの上田美由紀が詐欺容疑で逮捕され、周辺で6人の男性の不審死が発覚。2009年、司法解剖で睡眠導入剤が検出された2人の殺害罪で起訴された。ほかの4件の事件は不起訴に。日本には臓器や血液を保存しておく制度がなく、本当の死因は不明のままだ。2017年、死刑が確定。

 

(4)パロマ湯沸かし器死亡事故

 

 1985年から20年間、パロマ製ガス湯沸かし器の動作不良が原因の一酸化炭素中毒事故が28件発生、21名が死亡。1996年の東京都港区での死亡者は監察医が一酸化炭素中毒死としたものの、警察は遺族に伝えず、病死として処理。10年後に遺族がそのことを知って訴訟を起こし、事故が発覚した。

 

(5)首都圏連続不審死事件

 

 2009年、婚活サイトで知り合った男性3人を練炭自殺と偽装し、殺害した木嶋佳苗が逮捕、起訴された。最初の事件では司法解剖はおこなわれず、次の事件では司法解剖がおこなわれ睡眠導入剤が検出されたものの、事件性なしと処理された。周辺でほかに3件の不審死もあった。2017年、死刑が確定した。

 

(6)青酸連続不審死事件

 

 2013年、筧千佐子の4番めの夫、勇夫さんが不審死。司法解剖で青酸化合物が検出され、ほかにも元夫、交際相手ら計8人が変死していたことが発覚した。だが、司法解剖はそのうち2人しかおこなわれなかった。3件の殺人罪と1件の強盗殺人未遂罪で起訴され、2017年11月の一審では、死刑が言い渡された。

 

(7)トリカブト保険金殺人事件

 

 1986年5月、石垣島で女性が急死。行政解剖で死因は急性心筋梗塞とされたが、医師が心臓と血液を保存。その後、夫が多額の生命保険をかけていたことが発覚した。保存検体からトリカブト毒が検出され、夫は無期懲役に。前々妻、前妻も心不全などで急死しており、前妻にも保険がかけられていた。

 

(8)中標津町高校生オートバイ変死事件

 

 1999年、道路脇に転落、死亡している高校生が発見された。そばに盗難オートバイがあり、警察は単独交通事故死と判断、司法解剖はおこなわれなかった。だが、軍手、靴、靴下が不自然に脱がされているなど不審な点が多く、遺族は傷害致死事件として告訴したが、認められなかった。

 

(9)時津風部屋力士暴行死事件

 

 2007年6月に時津風部屋の序ノ口力士が稽古中に心肺停止、搬送先の病院で死亡。病院は死因を急性心不全、警察は虚血性心疾患と発表したが、両親が地元の新潟大学医学部で公費承諾解剖を依頼すると、死因は親方がビール瓶で額を殴るなどしたリンチ、暴行によるものと判明した。

 

(10)老人ホーム睡眠導入剤混入事件

 

 2017年、千葉県印西市の老人ホームに勤務する准看護師が殺人未遂容疑で逮捕された。同僚に睡眠導入剤入りのお茶を飲ませ、交通事故を起こさせて殺害しようとした疑いだったが、2月の同僚の交通事故死と処理された事件も彼女の犯行と発覚。この事件でも司法解剖はおこなわれていない。

 

(週刊FLASH 2018年1月30日号)

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