
亡くなった彩咲陽さん
川崎市川崎区の住宅で岡﨑彩咲陽さん(20)の遺体が発見された事件で、死体遺棄容疑で逮捕された元交際相手の白井秀征容疑者(27)。5月6日現在白井容疑者は、死体を遺棄していたことの他に、岡﨑さんが失踪した昨年12月20日の数日前にストーカー行為を繰り返していたことも認めている。
事件が急展開を迎えたのは5月1日未明のことだった。川崎大師駅近くの白井容疑者の自宅に神奈川県警が家宅捜索に入り、自宅の床下から白骨化した遺体が発見されたのだ。
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神奈川県警は、これまで白井容疑者に対し、3月25日までに7回事情聴取し、自宅を3回確認したとしている。それでも岡﨑さんの足取りをつかむことができなかった。だが、今回県警は、ストーカー規制法に基づいて家宅捜索を行った結果遺体を発見した。
長らく事件は膠着状態だった。5月になっていきなり事態が動き出したのは、なぜだったのか。岡崎さんの親族がこう語る。
「これまでは、何を言っても警察は動いてくれませんでした。
彩咲陽は、白井から身を隠すため祖母の家で寝泊まりしていた。その祖母の家のガラスが割られて、彩咲陽が行方不明になっても警察は事件性がないといって捜査してくれませんでした。それ以前にも、白井がストーカーを繰り返していることを警察に訴えてきました。それでも警察は何もしてくれない。そこで、飛松さんを知っている人がいたので、その人を介して飛松さんに相談したのです。1カ月ほど前のことでした」
飛松さんとは、警察ジャーナリストの飛松五男氏(80)。兵庫県警の元警察官で、現在は行政書士や探偵業を行い、様々な犯罪被害者の相談も受けている。飛松氏がこれまでの経緯を明かした。
「4月6日に知人から、電話で今回の件について相談されました。それで9日に岡﨑さんの父親から連絡があり、10日に私が川崎に行って親族の皆さんに会いました。
父親には、『この件は単に行方不明者の捜索を依頼するのではなく、特異行方不明者に指定してもらわないといけない。そうしたら、ひとつの警察署での捜索ではなく、神奈川県警本部長の指揮のもとで捜索されることになる』『それほど事件性のある案件だから、そのことを(親族が被害届を出した)臨港署に言いなさい』と伝えました」
「特異行方不明者」とは、殺人や誘拐、自殺などの犯罪を含め、生命に危険が生じている恐れがある行方不明者のことだ。警察の捜索活動においても、一般家出などと比べて優先的に捜索される場合が多いという。飛松氏が続ける。
「10日に父親が臨港署に行ったとき、特異行方不明者に指定してほしいと要望しました。その時、臨港署の担当刑事は、私がこの件に関係していることを知って驚いたようです。それから態度を一変させ、父親にこれまでのことを謝って、『今から捜査しますから』と言ったのです」
一方で飛松氏は、知り合いのテレビ局関係者にこの事件について話をしていた。
「テレビ局の関係者は、警察関係者に行方不明者の事案があるのか聞いたようです。そうすると、『確かに行方不明者はいるが事件性はない』と答えたといいます。ただ、警察はマスコミが察知して動き出したことに危機感を覚えたようです。きちんと捜査をしなければ、警察の事件対応の疑問点が明らかになり、大変なことになると思ったのではないでしょうか」
じつは飛松氏が話を聞く前まで、彩咲陽さんの親族らは迷宮入りを覚悟していたという。飛松氏が続ける。
「10日に親族の皆さんと話をしたとき、彼らは『迷宮入りを覚悟している』と言っていました。私も、『状況からして、彩咲陽さんは生きていないだろう』と率直に伝えました。12月20日に彩咲陽さんが行方不明になったとき、白井容疑者は彼女を誘拐、拉致して監禁しただろうと。
父親は泣いていましたよ。彩咲陽には不憫な思いをさせたと言ってね。生きていることに一縷の望みを持っていたけれど、私は『覚悟を決めるしかない』と言ったのです。結果、その通りになっていました」
さらに飛松氏は、親族に会った後の4月23日、自身も父親らとともに自ら臨港署に出向いていた。
「私は臨港警察署と戦うつもりはないと、ちゃんと特異行方不明者として捜査してほしいと言って、16項目の捜査事項を書いた要望書を手渡しました。内容は、とにかく基本に則って捜査してほしいといったものです。
今回警察の動きが鈍かったのは、被害者が被害届を提出したり取り下げたりしていた経緯から、単なる痴情のもつれだと警察が誤認したからだと思います。しかし、窓ガラスが割られた現場の様子から見ても、事件性があるのは間違いない。基本的な捜査が全くできておらず、ずさんな状態が続いていた。要望書を出したことなどから、警察も事態の重さを受け止め、捜査が動き出したのだと思います」
飛松氏と親族の強い要請を受けて、1週間後に臨港署は白井容疑者の自宅を家宅捜索した。その結果、床下から彩咲陽さんの遺体が発見されたのだ。
親族から飛松氏への相談がなければ、今も彩咲陽さんは見つかっていなかったかもしれない――。