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【独自】日産の心臓部「追浜工場」にささやかれる中国BYDの「買収計画」…下請けはすでにBYD詣でも

日産追浜工場の入り口には、シンボルマークが大きく飾られている。奥の白い建物が工場だ(写真・梅基展央)
「日産の追浜工場閉鎖のニュースはショックですよ。追浜工場といえば、『スカイライン』や『ブルーバード』『フェアレディZ』といった日産を代表する名車を造ってきた基幹工場です。現在は1車種しか造っていませんが、“日産の心臓”といえる工場です」
そう語るのは、ある自動車ディーラーだ。5月13日、日産のイヴァン・エスピノーサ社長は、2025年3月期に7000億円近い最終赤字を計上したことと、国内外で7工場を閉鎖し、2万人規模の人員削減を断行する方針を発表した。
17日、工場削減の計画案に神奈川県横須賀市の日産追浜工場と、子会社・日産車体の湘南工場が含まれることが報じられると、地元には一気に動揺が広がった。
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「じつは追浜工場は、中国の自動車メーカーBYDが購入し、跡地に新たに工場を建設する計画です。来年には発表すると聞いています」
そう話すのは、BYDの関係者だ。BYDは中国・深圳に本社を置く企業で、1994年にバッテリーメーカーとして創業。現在は電気自動車(EV)では、米国のテスラに次いで世界2位のシェアを誇るまでに成長している。2025年中に日本国内の販売店を、100店舗までに拡大する目標を掲げている。前出のBYD関係者が続ける。
「BYDは軽の電気自動車(軽EV)を日本に投入したいと考えています。そのため、日本にも軽EVの生産拠点が必要だと考えているんです」
実際にBYDは4月、「日本市場向けの軽EVを、2026年後半に本格投入する」と発表したばかり。開発や生産の強化のため、日本人向けの人材募集サイトも5月19日に立ち上げていた。
「BYDは数年前から、軽EVの日本での生産拠点を造ることを模索していました。日産の追浜工場があまり稼働していないことに目をつけて、水面下で日産と交渉していたようです。ただ昨年、日産がホンダと合併する話になり、一度は追浜工場はホンダが買うということになりました。しかしその合併も破談になり、再びBYDが追浜工場を買うことになったようです。
日産仕様の追浜工場を、BYD車の製造に特化させるために全面改修する予定です。工場の建設は再来年にも着工して、2028年には量産体制をスタートさせたい意向です」(同前)
BYD中国と取引のある日本企業の営業マンもこう話す。
「BYDが日本に本格進出し、追浜工場を買う意向であることを聞いていました。
それを前提に、弊社では中国国内でBYDとの取引を始めました。いずれBYDが本格的に進出してきたときに、日本で大きな取引に繋がるからです」
だが、ある自動車ジャーナリストは、今回のBYDによる追浜工場の買収計画について疑問があるという。
「そもそも、BYDがどれだけ日本の軽自動車市場で成功できるのかには疑問が残ります。というのも、軽自動車は日本独自の規格で国内の軽自動車市場は成熟していることもあり、対抗するのはそう簡単なことではないと思います。
日本の四輪の年間新車販売台数は440万台ほどで、そのうち軽自動車は160万台ほど。3台に1台以上は軽自動車です。そのユーザーの厳しい目を甘く見ないほうがいい。たとえば、テスラをはじめ海外のEVメーカーの課題でもある急速充電に対するバッテリーの安全性や放熱問題にしても、日本では1台でも発火したら売れなくなるでしょう。
ひょっとしたら、BYDは軽EVを突破口に、別の車種を造る思惑があるのかもしれません。いずれにしても、本気で日本の軽を駆逐する覚悟があるようには思えません。
ただ、職を失った一定数の日産従業員が、そのままBYDに雇われる可能性は否定できないわけですから悪い話ばかりではないのですが、追浜工場買収が現実になるとしたらショックですね……」
日産に追浜工場のBYDへの売却について質問状を送ったところ、「そのような事実はなく、憶測については回答を致しかねます」と返答があった。一方、BYDジャパンにも「追浜工場を買収する意向は事実か」と質問状を送付したところ「噂にはなっているようだが、そんな予定はまったくない」と否定した。
23日、日産が横浜本社の売却を検討していると「日経新聞」で報じられた。日本の自動車産業が転換期を迎えたのは事実だ。