
2025年5月22日、大臣就任翌日に開かれた衆院本会議で挨拶攻めにあう小泉進次郎農水相(写真・長谷川 新)
5月26日、小泉進次郎農水相は、備蓄米について先着順で販売を開始すると発表した。オンライン説明会には、イオンやイトーヨーカドーなどのスーパーをはじめ、小売業者数百社が参加したという。今後、30万トンの米が「随意契約」で放出されるが、いったいこれはどのような意味があるのかーー。
「5月18日、江藤農水相(当時)が『私は米を買ったことがありません』と発言。すぐに『実際には定期的に購入している』など “言い訳” を連発したものの、時すでに遅し。21日には辞表を提出することになりました。同日、石破茂首相が小泉進次郎元環境相を農水相に任命しました。
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農水省によると、5月5〜11日に全国のスーパーで販売されたコメ5kgあたりの平均価格は4268円。前年同期比で2倍を超える高騰です。国民の不満は大きく、発言1つで批判が殺到するのは当然の状況です」(経済担当記者)
“令和の米騒動” とも称される一連の騒動について、元朝日新聞政治部デスクの鮫島浩氏に見解を聞いた。
「まず前提として、日本の農政は『農林族』が仕切っていて、農林族議員と農水省と農業協同組合(農協)が “鉄のトライアングル” で協力関係にあるんです。
農水省からは農協に天下りし、農協は農林族議員を選挙で応援し、農林族議員は農協が儲かる仕組みを作るというのが、暗黙の了解なんです。農政は独自のムラ社会なんです。
その農林族のトップが、“影の総理” といわれる森山裕幹事長で、ナンバー2が森山氏の最側近である坂本哲志国対委員長。そして、ナンバー3が、今回更迭された江藤拓前農水相なんです。
森山幹事長は鹿児島県、坂本委員長は熊本県、江藤前農相は宮崎県出身で、3人とも南九州なんです。同郷の彼らが農政を仕切っている。3県はいずれも畜産県で、利権も大きいんです」(以下「」内は鮫島氏)
今回の米価の高騰は、農政の失敗によるものだという。
「これまで、米の値段を上げることで農協を儲からせていたんです。農協は農家から米を集めて売っていますから、米価が値崩れすると収益は増えません。それで、米の値段を常に上げるため、減反政策という生産調整をしてきました。
その結果、何が起こったかというと、米が足りなくなっちゃったんですね。いまの米価の高騰は、ひと言で言うと、米が慢性的に足りなくなったんです。つまり、一時的なものではないんです」
米価を下げたいならば、米を増産するか、莫大な量を輸入するしかない。
「いちばんの解決策は米の増産です。ただし、増産すると米価が下がるので、農家の収入も下がってしまいます。ですから、民主党政権のときにやっていたように、米の値段が落ちたら、その差額分を税金で農家に所得補償すればいい。『戸別所得補償制度』というものです。そうすれば、農家は儲かって消費者は米を安く買える。これしかゴールはないですね」
ただ、『戸別所得補償制度』を積極的に導入しないのにはワケがある。
「農協は、米価が下がると手数料が減るから大損なんです。そして、いちばん嫌なのは、政府が直接農家に補助金を払うと、農協の役割がなくなるんです。農協は政府と農家の間に介在して、いわゆる “ピンハネ” で儲けているので、その仕事がなくなると困るわけです。
そうなると、農水官僚は天下りできる場所がなくなるし、農水族議員は選挙で応援してくれる人がいなくなる。つまり、農協を守ることが最優先だから、『戸別所得補償制度』が導入されないんです。実際、民主党政権が崩壊して自民党に政権が戻ったら、すぐに中止になりましたから。
もし進次郎氏がその制度を導入できたら、大改革になるでしょうね。進次郎氏は “改革派” で、本流の森山幹事長とは違う。進次郎氏は2016年に農林部会長になったとき、農協が農作物の販売をほぼ独占している状態を変えようとしたんですが、農林族に阻まれて何もできなかった。今回はリベンジ戦ですね」
農政改革を虎視眈々と狙う進次郎農水相にとって、鍵となるのは「備蓄米」の存在だ。
「江藤元農水相は『備蓄米を投入した』と言ましたが、実際のところ、全然値段は下がっていないじゃないですか。なぜかというと、放出した備蓄米の9割5分を農協が買っているからですよ。そして、農協は買い占めた備蓄米を倉庫に入れて、ほとんど売らなかったんです。だから流通しない。
そんな状況に対して、進次郎氏は就任会見で『備蓄米を無制限で出す』『農協ではなくスーパーに直接売り渡す』と言いました。この2つが実現すれば、大量の備蓄米を直接スーパーに売れて、米価を下げることができるはずです。
いまは参院選前で、米価を何としても下げなければならない。石破首相が国会で『5kg3000円台にする』と言ったのは、そのあたりまでは下げるということで、森山幹事長とも合意していると思います。ただ、参院選が終わったら、また農協が買い戻して価格が戻る可能性はありますが……」
最後に、農水相に進次郎氏が抜擢された理由を聞いた。
「進次郎氏が『森山幹事長から打診された』と発言しているので、順序としては森山幹事長が打診して、石破首相が最終的に判断して任命したということでしょう。つまり、石破首相が森山幹事長と決別して、農政改革しようと進次郎氏を任命したわけではないんです。
森山幹事長としては、側近である江藤氏を解任して、改革派であり “敵” である進次郎氏を、あえて後任に起用したということなんです。
理由は、世間の目くらましです。江藤氏の後任にまた農林族を置いたら、世間の批判は続くでしょう。ここで改革派の進次郎氏を据えれば、世論も変わるだろうと。参院選までごまかすしかないと思っているんです。
ただ、本当に改革されたら自身の身も危ないわけで、その点、進次郎氏を『どうせ大したことはできない』となめているわけです」
したたかな戦略で国民の目をかいくぐろうとしている森山幹事長。進次郎農水相の手腕が試される──。