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積水ハウスから63億円奪った「地面師のドン」騙しの手口
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2018.03.09 11:00 最終更新日:2018.03.09 11:00
本誌がその男・X氏に話を聞いたのは、2017年9月。東京都港区にある喫茶店でのことだった。
現われたのは、ところどころ白くなった髪をオールバックにして、ひげを蓄えた男性。金縁眼鏡の奥の眼光は鋭く、周囲を警戒するような視線を向けてきた。X氏は、低く、響くような声で話し始めたーー。
創業58年、時価総額1兆円を超える上場企業・積水ハウス株式会社(本社・大阪市)が揺れている。1月24日の取締役会でクーデターが起き、20年近くトップに座った和田勇会長(76・現取締役相談役)が退任させられたのだ。
スクープした日本経済新聞のインタビューに応じた和田氏は、背景に同社が2017年、東京・五反田の旅館の土地にからんで「地面師」に騙された問題があると認めている。
積水ハウスを騙した「地面師集団」の中心人物の一人と目されているのが、本誌が接触したX氏である。年は60代半ば。不動産ブローカーが話す。
「積水ハウスは、昨年4月に五反田の旅館『海喜館』の土地約2000平方メートルの売買契約を締結したが、契約相手の地主は真っ赤な偽者だった。気づいたときには購入代金70億円のうち63億円を支払っていた。首謀者の一人がX。池袋を拠点とする地面師グループのドンだ。過去には町田や、別の五反田の土地をめぐる案件で名前が挙がっている」
記者の目の前でX氏は、自らの関与を否定しながら、地面師の手口について明かした。
「昔は法務局に行って、手書きの登記簿謄本をこっそり抜きとってしまえばよかった。コンピュータ化されたいまは、法務局のサーバーに侵入できるんだ。登記の記述にアンダーラインを1本入れれば、それで登記は過去のものになるからね。
土地の権利書の偽造がいちばん難しい。法務局のハンコが必要だから、昔(偽の権利書に書く日付の時点)使われていたハンコを知らないと作れない。権利書の紙も時代で違うから、古い紙を用意しないといけない。表紙も必要だ。でも、その古い紙を用意できる人間がいるんだよ」
積水ハウスの事件では、女性が地主になりすまし、身分証明用に偽造パスポートを持って交渉に臨んだといわれている。
「地主本人になり代わるには、本人確認の書類が必要だ。偽造パスポートなんてすぐに作れるよ。運転免許証だって作れる。地主役のおばちゃんや、偽の弁護士や司法書士。いろいろコーディネートする人間がいるんだ。でも俺がこの件をやっていたら、いまここにはいない。とんずらしてるよ」
そう話していたX氏は、2017年暮れ、言葉どおり行方をくらました。「いまは海外にいる」(X氏に近い関係者)という。
こうした地面師たちに手玉に取られた積水ハウス。経営陣に責任はないのか、同社広報部に質問状を送ったところ、「昨年9月に公表した通り、取締役全員の減俸処分を行っています」とのことだった。
大会社を揺るがした五反田の土地は、本物の地主の親族に相続され、いまも姿を変えていない。
(週刊FLASH 2018年3月20日号)