社会・政治
【三重豪雨】水没地下駐車場から脱出した奇跡のジムニーは「異常ゼロ」愛車は “泥の中” との嘆きも…補償の行方を徹底取材

水没した地下駐から生き残った “奇跡のジムニー”
「当日は雨のことなんか気にしてなかったんですよ。でも、来店するお客さんがみんなびしょ濡れだったので、自分の車はどうなっているんだろうと思ったんです。そしたら、“時すでに遅し” でした」
こう語るのは、三重県内の飲食店に勤務するAさんだ。9月12日、三重県四日市市付近には、記録的な大雨がふった。
「この日は22時までに、1時間におよそ120ミリの猛烈な雨が降ったとみられます。災害が発生する危険が迫っているとして、気象庁は『記録的短時間大雨情報』を発令しました。実際、市内では床上浸水約200件、床下浸水約3100件が把握されています」(社会部記者)
とくに甚大な被害を受けたのが、駅前にある地下駐車場「くすの木パーキング」だ。地下1階と2階に500台ほどの車を停めることができる巨大駐車場だが、完全に水没してしまい、当日駐車してあった約270台の車すべてが “水浸し” になってしまった。冒頭のA子さんもその一人だ。
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「私が行ったのは23時前でした。駐車場に近づくにつれ、生臭さがツンと鼻にきました。そして、地下1階が膝くらいまで水没していて、頭が真っ白になりました。私の愛車であるラパンは地下2階に停めていましたから。結局、今も駐車場は封鎖されているのでどうなったかわかりません。繁華街も近いので、ベンツやフェラーリ、ポルシェなど高級車もたくさん停まっていました。全部廃車かと思うと恐ろしいですね」
一方、水没した地下駐車場から奇跡的に脱出を果たした車もある。2024年にジムニーXCを購入したという50代男性のB氏だ。B氏のドライブレコーダーには、濁流のなかを突き進むジムニーの姿がおさめられている。水はタイヤの上まで来ており、“走る” というより “漕ぐ” という表現が似合うほどだ。
「立ち寄った飲食店で雨がすごいと教えてもらい、地下1階に停めていた愛車に駆けつけたんですよ。22時30分ごろのことでした。数分遅れていればだめだったと思います。壊れたのか、緊急時だからなのか、ゲートも開いていたので、とにかく上に向かって進めばなんとかなると思い、発進しました。乗り込むときに、車内に水が入るほどの水位でしたね。
発進時に、水で浮かび上がった隣の車が流れてきて、左側後部タイヤ上に少し傷ができてしまいました。ただ、興奮状態だったためか、ジムニーを信じていたためかわかりませんが、恐怖感はありませんでした」
脱出まで約1分半。世界的にも評価されるオフロード性能をいかんなく発揮したジムニーは、無事に水中から脱出した。
「地上に上がっても、道路そのものが冠水していて驚きました。帰宅後に点検を受けましたが、現状では駆動系、電子機器にもまったく異常がないそうですよ。傷も直す予定はないので、被害額は点検費用の数千円で済みました」(B氏)
一部報道によると、同駐車場の管理会社は、当日2人しか職員がおらず、止水板を用意する間もなく避難したと説明しているという。大雨用の排水ポンプも機能せず、結果的に、ほぼすべての車が水没することになった。Aさんはこう憤る。
「すぐ近くにあるショッピングセンターの地下駐車場では、豪雨になった瞬間シャッターを閉めたことで、被害はゼロだったそうです。構造の違いがあるとはいえ、この駐車場だってもっとできたことがあるんじゃないかと思っていします。
私は車両保険に入っていますが、限度額は80万円。130万円で買ったのですし、車本体を渡さないと振り込みできないと言われて困っています。また、周辺のレンタカーに予約が殺到してパンク状態。移動手段がそもそもないと嘆く “水没仲間” もいますよ」(Aさん)
Aさんのように任意の車両保険に加入していた人はまだマシ。自賠責保険にのみ加入していた場合、同保険は交通事故等の人身傷害のみが対象となっているため、補償はゼロだ。残るは、駐車場の管理会社に損害賠償を求めるしかないがーー。
「今年の9月には静岡空港の駐車場も大雨のせいで水没しました。似たケースですが、運営会社は『天変地異や不可抗力による損害については、免責事項となっております』として、補償を一切拒否していますね」(前出・社会部記者)
はたして、泣き寝入りしかないのだろうか。匠総合法律事務所の秋野卓生弁護士が解説する。
「管理会社に対して損害賠償を請求できる可能性もありますよ。重要なポイントは2つあります。まず、“警報” が発令されていたかどうかです。発令されていたのであれば、管理会社は危険を予見できた可能性があります。仮に被害を予見できていたのにもかかわらず、たとえば止水板を設置しなかったなどの過失があった場合は、賠償責任が発生する可能性があるでしょう。
もう一点重要なポイントは、その駐車場の利用規約に、大雨とか台風による被害は損害賠償が免責されるとの “免責条項” が記載されているかどうかです。
免責条項の記載がなければ、管理会社が責任を問われる可能性が高くなりますし、もし免責条項の記載があれば、“免責してもいいと評価できるか” が論点となります。
過去にマンションの地下駐車場で水没事故が発生し、争いになったことがあります。そのケースでは、駐車場に設置された貯水槽が雨水によって満水の “警報” が鳴ったにもかかわらず、管理業者の出動が遅れた結果、車が水没したとという内容でした。結果的に、裁判所は管理業者の責任を認め、被害者への補償が言い渡されました」
前述のとおり、当時は「記録的短時間大雨情報」が発令されていた。となれば、被害者救済の道もあるというわけだ。実際、本誌が管理会社に今後の補償について尋ねたところ、
「お車の被害補償については検討させていただいております。所有者の方については、お名前と写真、番号をお教えいただければ、折り返しご連絡します」
と “太っ腹” な回答があった。
「裁判になれば、不利かもしれないと考えているのでしょうね。ただ、補償の範囲をどうするのかなど、まだまだ全貌は見えていない状況のようです。現地では代わりのレンタカーの利用料金について補償を求めたところ、補償を約束されたという人もいれば、そうでない人もいる状況だそう。まだまだ社内でも方針が定まっていないのではないでしょうか」(前出・記者)
多くの人は愛車を失ったわけだから、“水に流す” わけにはいかないだろう。