社会・政治
【旧統一教会「韓鶴子総裁」逮捕の余波】鈴木エイト氏「日本でも強硬派と穏健派の争いが」解散命令確定の後押しにも

逮捕された韓鶴子容疑者(写真・共同通信)
9月23日、韓国の特別検察は、政治資金法違反容疑で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁を逮捕、ソウル拘置所の独房に収監した。
「韓容疑者は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の妻・金建希(キム・ゴンヒ)氏にシャネルのバッグ2点とダイヤモンドのネックレスなど総額8000万ウォン(約850万円)相当の賄賂を渡し、見返りに教団の事業などに便宜を図ってもらっていたと報じられています。韓容疑者は真っ向から否定しています」(事件担当記者)
旧統一教会といえば、2022年7月、山上哲也被告が起こした安倍晋三元首相の銃撃事件を機に日本国内で一気に注目が集まった存在だ。信者への高額献金、政治家との癒着など次々とその “暗部” が明らかとなり、現在は文部科学省が請求した東京地裁の解散命令に対し、教団側が抗告して争っている状況だ。
【関連記事:韓国「新大統領」誕生で注目される“ファーストレディ”の親日度「普通のおばちゃん」評も世論次第では”手ごわい存在”に】
長年、旧統一教会の問題を追及してきたジャーナリストの鈴木エイト氏はこう指摘する。
「韓容疑者は、信者に聖母という意味の “ホーリーマザー・ハン” と呼ばせており、教団にとっては唯一無二の絶対的な存在です。教祖は教団の創設者である文鮮明氏xでしたが、2012年に亡くなって2年後、独自に『独生女】という信仰を立てました。亡き夫より自らを上位に置く教義で、完全に独裁体制を敷いたのです。そのトップが逮捕されたわけですから、信者の間ではとてつもない衝撃が走っています」(鈴木エイト氏、以下同)
すでに教団内では、組織に “ヒビ” が入りつつある。
「本部では、逮捕直後から権力闘争が表面化しています。かねてより教団本部では、2人の有力幹部が指導権をめぐって競り合ってきました。
ひとりは、ユン・ヨンホ。かつての教団幹部で、組織運営に大きな影響を持っていましたが、同じく贈賄容疑などですでに逮捕・起訴されています。
もうひとりは、チョン・ウォンジュ。韓容疑者の側近の一人とされ、直近まで事実上のナンバー2として教団本部の実務を取り仕切っていました。両者の間では、2015年以降、ナンバー2の座をめぐる継続的な権力闘争が続いており、一時はユン氏が実権を握っていましたが、2023年ごろから内部告発などにより失脚し、以降はチョン氏が教団運営の主導権を掌握してきました。
しかし、総裁の逮捕を受け、チョン氏も韓国当局から取り調べを受けました。韓容疑者の指示によりナンバー2の役職を解かれる措置が取られましたが、実際にはチョン氏自身の意向です。その後もチョン氏は、自身に近い3名を教団中枢に送り込むなどして影響力を維持。さらには、逮捕後にも新たに『プロジェクトチーム』を立ち上げるなど、教団運営の主導を続けようとする動きが見られました。
こうしたチョン氏の継続的な主導権行使に対し、信者の間では『韓容疑者に罪をきせることで罪を免れたのではないか』と責任を問う声も出ています」
混乱する教団内では、“血のつながり” を重視するようになっているという。
「教団創始者・文鮮明氏の直系親族である、亡くなった長男の後妻と、やはり亡くなった次男の妻が韓容疑者に面会して、チョン氏の主導体制を牽制。結果的にチョン氏は、一定の政治的後退を余儀なくされたとみられます。
2025年4月には長男の息子2名が後継者として公式に公表されています。2人は現在、信者の前に立って『誠のお母様(韓容疑者)のために祈りましょう』と呼びかけるなど、精神的な求心力の確保を図っています。しかし、実務的な権限はまだ持っていないとされ、教団運営の実質的な主導権は、直系女性陣が掌握しつつあります」
トップが捕まり、教団内で抗争が発生するーー。これは日本支部でも起こりうることだ。
「日本支部は、韓国本部の指示に従う上下関係で成り立っており、自主的に方針を決定するような組織ではありません。逆に言えば、韓国本部での権力構造の変化が、そのまま日本支部の方針や人事に影響を与えるので、韓国で実権を握っていたチョン・ウォンジュに近い日本の幹部は、冷遇される可能性もあるでしょう。
日本支部のなかには、被害者にきちんと謝罪し、献金の仕組みを見直して、まともな宗教団体に変わるべきだという穏健派も一部に存在しています。現時点では、韓国に献金を続け、解散命令にも徹底抗戦する強硬派が主流ですが、この体制で求心力が弱まれば、穏健派が台頭し、“浄化” されていく可能性もあるでしょう。
そもそも、日本支部の霊感商法・高額献金・韓国への送金などの問題は、韓国本部の指示に基づいていたとされており、今回の逮捕によって、そうした行為が教団全体の構造的な問題だったことが、より明確になってきました。とくに、送金が韓国の汚職や工作資金に使われていたとすれば、解散命令の根拠として、新たな証拠が提出される可能性もあります。控訴審でも、解散命令が認められる見通しは非常に高くなっていますね」
韓国でも日本でも、明らかに弱体化しつつある旧統一教会だが、今後は米国で “復活” する可能性もある。
「旧統一教会の後継争いに敗れた7男・文亨進(ムン・ヒョンジン)氏は、2015年、アメリカのペンシルベニア州で『サンクチュアリ教会』を設立しました。自由と自衛を重視し、ライフル銃を携えた合同結婚式を実施するなど、独自の教義と武装思想で活動中です。文鮮明氏の教えを純粋に守ると主張し、母である韓容疑者を『教義を歪めた』として批判しています。全米ライフル協会(NRA)や保守派とも親密で、2021年の連邦議会襲撃事件の際は、現地にいたことでも話題となりました。トランプ大統領の息子をイベントに招待するなど、共和党保守層と関係を構築するなど勢いがありますね。
“本家” の混乱を受け、信者や資金が米国に流れる可能性は十分にあります。日本においても、信者の勧誘や政治活動への関与など、新たな影響拡大の動きに注意が必要でしょう」
崩壊と混乱の時代が始まるようだーー。