
参政党の神谷宗幣代表(写真・長谷川 新)
私・根本良輔は2021年ごろから政治活動を続け、「つばさの党」の幹事長時代には逮捕・裁判も経験した(現在も係争中のため、詳しい説明は控える)。
現在台頭している参政党、そして神谷宗幣代表(47)に強い関心を持ったのは、2022年のこと。「反グローバリズム」「反ワクチン」など、つばさの党と似た主張を掲げていた参政党は、票の行方に影響を及ぼす存在だった。
同年夏、私はつばさの党に籍を置きながら、参政党に入党することにした。実態を知るため、あえて “潜入” したのだ。
私が選んだのは、党費月額4000円(当時)の「運営党員」コース。後から聞いた話では、私が入党したとき、党内では「スパイが入ってきたぞ!」と大騒ぎになったという。
ある日、党本部からメールが届いた。内容は「あなたは参政党を批判する動画をアップしている。それを削除せよ」というものだった。無視していたところ、1カ月ほどして除名処分となった。
元参政党員で、現在は無所属で熊本市議を務める筑紫るみ子氏(2024年離党)が語る。
「根本さんの除名処分は、今にして思えば、党内の『言論封殺』の “好材料” になったと思います。その後、党本部に『危機管理部』が設けられ、党や支部に意見を言う党員は “スパイ扱い” されるようになっていったようです」
筑紫氏自身も、「支部の問題点を指摘したところ、支援者から『あなたがスパイ、工作員だと噂になってるよ』と言われました」と証言する。
■「一般党員も支部長になれる」仕組みが裏目に出ていた
私は、自らの “潜入” 体験で参政党に疑念を持った。党員が、政策や党運営に関する決定権を持つ「DIY政党」という理念とは裏腹に、党内に健全な議論の場は存在せず、外部からの検証を拒む組織なのではないかーー。
私が参政党を除名になってから約3年がたち、今年7月末には、つばさの党も離党した。その間、参政党は衆参合わせて18人の国会議員を擁する中堅政党となったが、私の疑念はぬぐえないままだ。
そこで私は、今年初頭より参政党の離党者に取材をおこなうことにした。前出の筑紫氏もその一人で、これまでに取材に応じてくれた離党者は26人(10月1日現在)に上る。
今回は彼らの証言から、参政党、そして神谷代表の正体を探ってみたい。
「党員が民主的に党を運営する、新しい政党ですよ」
2022年の参院選に、参政党から出馬(落選)した藤村晃子氏は、神谷代表からそう勧誘され、入党を決めた。かねて主張してきた動物愛護などの政策を実現するためだ。
参政党は現在、全国に289の支部が設置され、それらは47の都道府県連、北海道・東北・北関東など11のブロックに編成されている。元近畿ブロック長の出原秀昭氏(現在は無所属の大阪府貝塚市議)が、その構造を説明する。
「他党では、支部長や県連会長は、議員が務めるケースがほとんどです。しかし参政党の場合、それらの要職を一般党員が握り、人事や候補者選定の権限を持つことになっているところが特徴です」
出原氏も藤村氏と同様、党員が運営方針を決めていけるという参政党に魅力を感じ、2022年に「大阪維新の会」から転じた。
だが2人はともに、すでに参政党から離れている。いったい何があったのか。
「要職を一般党員が握る、という仕組みが、まったく機能していなかったのです。一般党員は “支部長に成り上がりたい” という野心を隠さず、中央の幹部はその野心を利用する構図。私自身いつの間にか、その中に組み込まれてしまっていたのです」(出原氏)
参政党は2020年の結党以来、多くの功労者が党と袂を分かっている。 “党の顔” でもあった元中部大学特任教授の武田邦彦氏や、歯科医師の吉野敏明氏らも、神谷代表に「党を乗っ取ろうとしている」「情報戦を仕掛けている」と非難され、離党に至った。出原氏は、悔恨の表情で明かす。
■異論を唱えると “維新のスパイ” だとレッテルを貼られた
「神谷代表が立ち上げた政治団体『龍馬プロジェクト』の元幹部で、現在は党本部の要職を務める人物・B氏から、 “分断工作” を指示されました。
私自身は吉野さんの担当で、解決の難しいトラブルを吉野さんに押しつけて、責任を負わせるよう仕向けたことがあります。神谷代表からは『吉野さんの言動をしっかり見ておいてください』と言われていました。異論を唱えると、B氏から “維新のスパイ” だというレッテルを貼られました」
出原氏は、入党から1年半後に参政党を離党。一方の藤村氏も、1年足らずで離党している。藤村氏が語る。
「自民党の改憲案に含まれる『緊急事態条項』に反対するデモの告知をリポストしたことがありました。参政党も同条項に反対しており、問題になるとは思わなかったのですが、支部に呼ばれました」
藤村氏は、神谷代表の秘書や危機管理部副部長に「党の防衛について」という資料を渡された。そこには、「参政党を攻撃又は攻撃する可能性のある団体」として、立憲民主党や創価学会、日本維新の会などが掲載されていた。
「そのリストには自民党の名は書かれておらず、党として表向きは緊急事態条項に反対しておきながら、自民党への忖度があったのかもしれません。秘書たちは『党員は、神谷代表の方針どおりの政策しか発表してはいけない』と言われました。
その後、私が演説する際には、本部から監視役がつけられ、 “言論統制されている” と感じました。私が参加した支部の会議では、SNSで党の批判者を攻撃する方針が議論されていました」
2022年に、武田氏への信頼から参政党に入党し、支部長を務めたT氏(2024年離党)。最初は1000円の党費を払うだけの一般党員だったが、統一地方選などを通じて選対本部長、支部長へと登用された。
「参議院議員会館で、神谷代表から直接支部長に任命されました」
2023年夏、大阪で開催された支部長合宿に参加したT氏は、そこでおこなわれていた内容に衝撃を受けた。
「7人ほどのグループに分けられ、夜中の2時ごろまで『参政党に入った理由』などのディベートや演説を強制されました。グループ全員から拍手されるまで終われない規則で、泣き出す参加者もいました」
強い結束力は、排他性に繋がりがちだ。前出の藤村氏は、2022年末に離党した後、党員からとみられる誹謗中傷の電話やSNSの書き込みが絶えず、知人のもとにも深夜に批判の電話があったという。
■スプレッドシートで「個々訪問」などのノルマを報告
一方で、地域の政治活動を担うはずの支部長職も、実態は無力なものだったという。
大阪第4支部で1年以上支部長を務めた橋口和矢氏が2023年に離党したのは、神谷氏の “独裁気質” や、本部の会計処理への疑念からだ。
「2022年の参院選で提出された政治資金収支報告書や選挙資金収支報告書では、当時の候補者・A氏が『自己資金』の名目で計600万円を計上していました。しかし、同じ日に同額が党本部から支部に移動していました」(橋口氏)
実際は「A氏の自己資金ではなく、虚偽記載となる可能性が高い」と橋口氏は続ける。
「また、A氏は最終的に213万円の余剰金を残しており、その行方はわからず、A氏が利益を得た可能性も否定できません。問題なのは、当時は支部長や支部会計担当者であっても通帳や現金の流れにアクセスできず、本部主導で政治資金や選挙資金がブラックボックス化していたことです」
2023年に東京都大田区議に初当選した伊藤つばさ氏(同年末離党し、現在は無所属)は、党勢拡大の勢いに惹かれ、2022年の参院選前に入党した。
「参政党は『DIY政党』を掲げながら、実際は党本部からのタスクが一方的に降りてくる仕組みでした。候補予定者には(1)街頭演説時間(2)個々訪問(政治団体加入のお願い)の件数(3)ポスティング枚数など、人口規模に応じてノルマが課せられていました。
候補者は、スプレッドシートに活動内容を入力して報告することになっており、選挙の2カ月ほど前に突然、(1)〜(3)のノルマが達成されていなければ公認を取り下げる、と脅されました」
とくに重視されていたのが個々訪問だったが、共働き世帯が多い東京都では実情に合わない。伊藤氏は、支部の理解者の後押しで独自の戦い方を貫いたが、 “本部の言いなり” にならざるを得ない候補者も多かった。
「その地域で効果の薄い活動に時間を取られたため、落選した人もいたのではないかと思います。現場の実情を無視した指示が横行していました」
こうした異論を認めない仕組みによって、ほかにも多くの党員が一方的に除名処分を受けてきた。だがその一方で、その人事権は、きわめて恣意的に運用されていることもわかった。
2024年の衆院選で、参政党から立候補する予定だった太田勝規氏のケースだ。太田氏はもともとYouTubeで党を応援する動画をアップするなど、自らが熱心な支持者だった。
「『安倍晋三元首相襲撃事件』の真相についての動画をアップしたところ、そのことを理由に国政選挙の公認を外されたのです。その処分には納得できなかったものの、本部の方針であれば仕方がありません。
しかしその後、一転して地方選の出馬を打診されました。神谷氏の都合次第で、平気で手のひらを返してくる。一貫性のない党運営を目の当たりにした思いでした」
■参政党の支持層は、「高市自民」に吸収されていく
ここまで、私が取材した党員たちの証言を紹介してきた。それぞれ、参政党側の見解を党本部に問い合わせたが、期日までに回答はなかった。
なお、2023年に神谷代表の元秘書の女性が自死するという痛ましい出来事があったが、SNSなどでは、私が “電凸” するなど、執拗に追い詰めたからだというデマが散見される。だが、私が電話したのは別の秘書であり、それもたった一度のこと。自宅に押しかけたという噂まであるが、こうした事実はいっさい存在しない。
この問題はたんなる私個人の名誉の問題ではなく、デマを流布する党の体質を象徴する出来事だと考えている。
高市早苗新総裁のもと、保守色を強める自民党と参政党は、安全保障や憲法改正といった争点で、重なる主張が少なくない。神谷代表は自民党に取り入ろうと画策するだろうが、自民党が本格的に保守層を取り込みにかかれば、離党者が相次ぐ参政党は独自性を打ち出せず、求心力低下に拍車がかかるだろう。
参政党が一定の躍進を遂げたことは事実だ。「子育て世代の味方」「グローバリズムへの疑問」といったわかりやすいスローガン、SNSやYouTubeを駆使した戦略は、既存政党に不信感を持つ層に響いた。だが、その実態は「新しい政治」を標榜しながらも、古い体質の再生産にすぎない。
言っていることとやっていることがまったく違う政党に税金が投入されていることへの憤り――。それこそが、私が参政党について取材活動を続ける最大の動機となっている。
取材/文・根本良輔(政治活動家)