
ルフィに扮して『ワンピース』の旗を掲げるインドネシアのデモ参加者(写真・共同通信)
激しく燃えさかる警察本部を背景に、次々と投石を繰り返す、数千人に膨れ上がったデモ隊。彼らと対峙する盾を構えた治安維持部隊は、引き金に指をかけている――。
今、開発途上国を中心に、世界各地で反政府運動が活発化している。
「インドネシアでは、8月28日に国会議員の恵まれた待遇への抗議運動の最中、配達業務中だったバイク運転手が警察の装甲車に引き殺されるという事件が起きました。これをきっかけにこれまで溜まっていた反政府感情が民衆の間で爆発。相次ぐ放火や財務大臣の自宅を襲撃するなど、動乱と言えるほどの騒ぎになっています。
同じ東南アジアでは、ネパールでも混乱が起きています。ネット上で広まった政治家の汚職を告発する活動を抑え込むために、政府は9月8日にSNS禁止令を出しました。すると若者が“キレ”たのです。暴徒と化したデモ隊は首都の宮殿や国会議事堂を次々放火。財務大臣は裸にされて川へ投げ込まれました。結局、カドガ・プラサード・シャルマ・オリ首相は辞任。まるで革命ですね」(全国紙記者)
さらに遠く離れたアフリカのマダガスカルでは、停電や断水に抗議する学生たちにより大規模なデモが開催され、警察と衝突。大統領は国外に避難し、軍部まで学生の味方をするという異常事態が発生している。
こうした世界各地の過激な“反政府デモ”では、ある共通した光景が広がっているという。
「大人気漫画『ワンピース』の“海賊旗”が掲げられているんです。主人公・ルフィが率いる海賊団“麦わらの一味”の旗で、黒字に、麦わら帽子を被った白のどくろマークが象徴的です」(同前)
『ワンピース』といえば、尾田栄一郎氏が手がける『週刊少年ジャンプ』(集英社)の代表作。累計発行部数は約6億部と、日本が誇る最強のコンテンツなのは間違いない。だが、なぜ怒れるデモ隊が同旗を使うのか。国際ジャーナリストの山田敏弘氏が解説する。
「そもそもドクロのマークは、18世紀の海賊全盛の時代に、『抵抗する者には容赦せず対応する』といういわば脅しの道具として使われたものです。欧米では“ジョリー・ロジャー”と名前がつけられています。なので『ワンピース』とは関係なく、権力者や既得権益者に対し“対抗してやるぞ”と誇示する意味があるでしょう」
だが、数多ある海賊旗の中でも、あえて“麦わらの一味”が選ばれたのには理由がある。
「私の場合は米国ですが、“MANGA”のある店に行くと必ず見かけるほどの人気作ですからね。東南アジアでは特に若い層を中心に人気です。デモの中心にいるZ世代にとっては、誰もが知っている共通のシンボルというわけでしょう。
また、『ワンピース』に通底するストーリーは、腐敗し圧政を敷く支配者に対し、仲間とともに果敢に立ち向かうというものです。日本のように、裕福で平和な国に暮らす若者にとっては、あくまでもルフィの存在は“ファンタジー”に過ぎません。ただ、今デモに参加している途上国で苦しい思いをしている若者たちは、自分たちの境遇を重ね合わせられるのだと思います。
歴史を振り返ると、文学作品が人々に影響をあたえ、現実の政治を動かすことが多々ありました。日本の漫画が世界で影響力を増した今、文学作品と似たような役割をはたしていると言えるのではないでしょうか」(山田氏)
“クールジャパン”どころか、民衆の闘志に火をつける存在になりつつあるというわけだ。はたして、こうした事態に当の原作者の尾田氏は何を思うのか。
集英社に問い合わせたところ、尾田氏への質問状は多忙を理由に受け付けていないとしたうえで、「作品がどのように受容されるかについてはコメントする立場にありません」と回答した。
「海賊旗を使うのは、一種の同人活動とも言えるでしょうし、大っぴらに禁止も応援もできないでしょうね。ただ、あまりに“反政府”的なイメージがついてしまうと、場合によっては現地の政府から発禁処分を受けるかもしれません。“政治の象徴”にされるのは困るというのが本音ではないでしょうかね」(前出・全国紙記者)
途上国の若者が身を投じる過激な反政府活動は、ルフィなみに命がけの冒険なのは間違いない。
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