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「睡眠時間2時間」石破前首相、総理在任1年で「できたこと」「できなかったこと」独占告白…“高市人気” にも初言及

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記事投稿日:2025.11.14 17:05 最終更新日:2025.11.14 18:28
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
「睡眠時間2時間」石破前首相、総理在任1年で「できたこと」「できなかったこと」独占告白…“高市人気” にも初言及

現在の思いを語った石破茂前首相(写真・長谷川 新)

 

「『日本の貿易黒字を減らせ』『日本車に高関税をかける』。トランプ大統領は、最初から強気の姿勢でした。これに対して、私はこう言いました。『あなたの本当の目的は、アメリカに雇用と所得を取り戻すこと、アメリカの製造業を復活させることでしょう?』と」

 

「石破おろし」の党内抗争の結果、約1年で政権の幕を閉じた石破茂首相(68)。最低賃金の引き上げや高校授業料の無償化など国民生活に直結する分野で一定の成果をあげたものの参院選大敗の余波を受け、高市早苗氏(64)に政権を譲ることになった。

 

 そんな石破氏に「政権でできたこと」「できなかったこと」、そして、日本の行く末について、いま思うことを聞いた(以下、「」は石破氏の発言)。

 

■日本だけが低成長を続けてきた理由

 

 石破政権の最大の成果は、トランプ大統領と折衝して関税率を15%に抑えたことだろう。まずは当時の交渉の舞台裏を振り返った。

 

「日本はアメリカにとって最大級の投資国であり、雇用創出国です。この点、日本はアメリカの雇用と所得の増大に相当寄与できる。

 

 だから私は、強気のトランプ大統領に、『関税より投資、日本もアメリカもお互いに利益を得られるディールを』と提案したのです。結果、関税率を15%に抑えることで決着しました。担当した赤沢亮正大臣(64)がよく頑張ってくれました」

 

 2025年8月、過去最大となる最低賃金の引き上げ目安額を厚労省が発表。それを受け、石破氏は「今後も中小企業・小規模事業者を含め、経営変革の後押しと賃上げ支援のため政策を総動員していく」と宣言した。

 

「いま、最低賃金付近で働いている人は700万人もいます。2010年代に会社の利益はある程度伸びました。しかし、株主に対する配当、経営者に対する報酬が伸びても、一般労働者の賃金は伸びなかった。

 

 会社は株主や経営者のためだけにあるものではありません。日本は長く『コストカット型経済』を続け、企業の利益は増えても、賃金には回りませんでした。

 

 私は、『人に投資することで、国に力がつく』という考えのもと、賃金をアップするために努力した会社には政府として支援をすることにして、全国47都道府県における最低賃金の過去最大幅の引き上げを達成していただくことができました」

 

 小泉・安倍政権以降、自民党がセーフティネットの不十分な自由競争の下で「格差」を生み出したとされる。過渡の実力主義が蔓延したわけだが、この「『新自由主義』にすり寄ってきた」という批判にはどう答えるのか。

 

「新自由主義かどうかには議論の余地があると思いますが、日本で『コストカット型経済』が長く続いたのは事実です。不況で需要が伸びないなか、『賃金は増やせないけれど、雇用は維持するから我慢してね』『下請けの価格は据え置きだけど、関係は切らないから我慢してね』、そして新しい商品やサービスを生むための投資はしないまま、日本だけが低成長を続けてきました。

 

 これに決別するため、石破内閣では賃上げ、設備投資増を実現する環境づくりに政策を集中しました。『付加価値創出型』の経済をつくっていくのは時間がかかりますが、人口減少と高齢化が進むなかで『強い経済』をめざそうと思えば、この高付加価値型こそが解なのです」

 

 石破氏はまた、「付加価値創出型」経済の可能性を地方にこそ見いだしてきた。

 

「日本は、GDPに占める輸出の割合は実は多くなく、むしろ内需型の経済なのです。

 

 ドイツは面積も人口も日本の3分の2でありながら、とうとう日本のGDPを追い越しました。ドイツはあくまで『メイド・イン・ジャーマニー』にこだわって、安売りなんか絶対しない。しかし、日本はむしろ『いいものをより安く』という方向にがんばってしまい、海外で生産したものを安売りしてきました。

 

 付加価値を創出するという点で、重要なのは『地方創生』です。地方の農林水産業、製造業などの中小企業、観光業などのサービス産業、そして若者や高齢者や女性——そのポテンシャルを最大限引き出すことが、『高付加価値型』経済への近道であり、日本経済全体の成長の起爆剤となるのです。

 

 昔のギリシャの哲学者、アリストテレスは言いました。『中間層が没落すると格差は広がり、政治は不安定になる』と。企業とは、株主と経営者だけのものではない。労働者のものであり、地域社会のものでもあるのです」

 

■おにぎり店が2000軒しかない不思議

 

「付加価値」とは、工業製品だけではない。日本が誇る「おいしい農作物」も当てはまる。だが、その代表であるコメの値段は、例年の5キロ2000円前後から4000円前後へ高騰してしまった。日本人がお米を食べられないという、前代未聞の事態となった。

 

 石破氏は「令和の米騒動」対策を契機として、長年続いていた米の減反政策(国が米の生産量を調整する政策)を完全廃止する方向に舵を切った。

 

「私は15年以上前に農水相を拝命していたとき、『減反政策はやめるべき』ということで政策を転換しました。世界中が食糧不足を懸念して増産しているのに、日本だけが農地を減らし、食料自給率は38%のまま。これは国策としておかしいと思います。

 

 たとえば、世界中のハンバーガー店は約4万軒と言われているのに、おにぎり店は2000軒しかありません。でも、ニューヨークのおにぎり店には行列ができています。需要があるのに、日本は本気で米を輸出してこなかったのです。

 

 米価が下がれば買う人は増えます。取り急ぎ備蓄米の放出を繰り返して、米価は3000円台になりましたが、それだけでは足りない。もっと増産して、自信をもって供給すべきです」

 

■「保守」とはなにか

 

 さて、最近、なにかと「保守」という言葉が話題になっている。石破氏は、これについてはどう考えるのか?

 

「皇室、歴史、伝統、文化、郷土を大切にする心、あり方やたたずまい——それらが保守であって、イデオロギーではないと私は思っています。

 

 保守とは、じつはリベラルであり、多様性・寛容性をその核とするものです。自分たちだけが正しいということではなく、違う意見にも真摯に耳を傾けていく、そういうたたずまいを保守というのです」

 

 保守とは排外主義ではないと考える石破氏は、戦後80年所感でも「偏狭なナショナリズム、差別や排外主義を許してはなりません」と表明している。そんな石破氏が国防政策で優先させたのは、防衛費のGDP比増額よりも自衛官の処遇改善と防災庁の創設だった。

 

「自衛隊が定数を満たせなくなって、ずいぶん時が経ちます。若い人が集まらないのはなぜなのか。給与がとりわけ低いわけではなく、消防官や警察官と比べて遜色ない。

 

 しかし、50代半ばで定年を迎えてしまい、技術も経験もあるのに、その後の職場が見つかりにくいという実態がありました。政府がそこをフォローし、生涯年収で十分に報われる仕組みを作らなければいけない。

 

 そこで、防衛省だけでなく、国交省、経産省、農水省、文科省など関係省庁をすべて集めて、『自衛官が次の職に移りやすい制度』を議論し、対策を決定する仕組みを作りました。どんなに立派な飛行機や艦船があっても、動かすのは人間です。人がいなければ、国は守れない。

 

 これについては、中谷元元防衛大臣(68)が本当によくやってくれました」

 

 従来、防衛といえば装備ばかり着目されていたが、石破氏は「人」にこそ着目したわけだ。「人」を重視する意味で、石破氏は、続いて防災庁の創設に着手した。

 

「日本は災害大国なのに、防災を専門的に統括する省庁がありません。内閣府に防災担当はいますが、2年おきに国交省、厚労省、防衛省などから担当者が出向し、その経験が蓄積されない。

 

 また、独自に予算の要求ができないので、事前防災ができない。政策の企画立案もできません。

 

 この構造的な欠陥を打破するため、私は東日本大震災以降、防災省(防災庁)が必要だと言い続けてきました。ようやく1年目で道筋がついて、もう後戻りはしないだろうと思っています」

 

■在任中の睡眠時間は2時間

 

 わずか1年ほどの任期で、石破氏が成し遂げたことは数多い。少数与党ながらも法案成立率は98%だった。もちろん、私生活は多忙を極めた。

 

「気持ちが張りつめていると病気にならないのか、休んだことはありませんでしたが、ストレスで目や耳、足などが不調になることはありました。官邸での医療体制は万全なので、そこは安心できましたね」

 

 そんな石破氏の睡眠時間は、なんと平均2時間だったという。

 

「毎日の『首相動静』の欄を埋めるため、通信社がずっと行動を追っています。公邸に入った時間も全マスコミに通知されますから、知り合いの方々は私が公邸に帰ったと思って電話をされるのでしょうね。みなさんとお話をすると、寝るのは深夜2時くらいになってしまう。

 

 国会が動いているときは、翌朝5時に答弁資料を届けてくれます。質疑においては、なるべく資料を読まないように心がけたので、答弁書を頭に入れるようにして、午前6時ぐらいから秘書官たちと答弁の打ち合わせと修正作業をします。

 

 早朝のレクはまだ官邸が開かないので公邸でおこないますから、住まいから歩いて30秒という、仕事場と住まいが一体となったような生活でした」

 

 休む暇もない日々で励みになったものは支援者の言葉だった。

 

「でも、地元に帰りたくても、1回しか帰れなかったので、申し訳なく思っています」

 

■話がわかりづらいと思われたのは反省

 

 石破氏は、高市新総裁の誕生時、「日本を間違えない方向に導いてほしい」「対立分断ではなく必要なのは連帯と寛容」と述べた。

 

 9月、『サンデージャポン』(TBS系)に出演したタレントの藤田ニコル氏は、高市氏の話はわかりやすいが、石破氏の話はわかりにくいと指摘した。世間ではバッグなど高市氏の持ち物が売れ、「推し活」のような現象が生じるとともに、支持率もうなぎ上りとなっている。最後に、この現状をどう見るか聞いた。

 

「いままで政治に無関心と言われていた若い人たちが、興味を持ってくれるのはとてもいいことです。初の女性総理というのも、大きな要素なのだと思います。

 

 政治は言論、ことばの仕事です。私の話がわかりづらいと思われたのだとすれば、反省して改めなければなりません。

 

 ただ、発信する側も国民に理解いただけるよう努力が必要ですが、受ける側も主権者としての自覚が必要だと思います。主権者は、『自分が総理だったらどうするか』ということを考えて、その選択にいちばん近い者を選ぶべきだ、という趣旨のことを哲学者の田中美知太郎先生はおっしゃいました。

 

 SNSを利用したデマの拡散、ボットによるコメント欄荒らしなど、日本においても情報リテラシーが必要な環境になってきました。日本人の持つ洞察力や見抜く力が、主権者としての行動にも求められていると思います」

 

 派手さはないが、その断固たる信念と清冽な矜持こそが、石破茂という政治家を形づくっている。政権を去っても、その志は消えていない。

 

(取材・文/深月ユリア)

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