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「青切符」導入は警察庁の“野望”? 交通ジャーナリストが暴く4月1日スタート「自転車に反則金」の裏側

社会・政治 記事投稿日:2026.03.30 16:00 最終更新日:2026.03.30 16:00

「青切符」導入は警察庁の“野望”? 交通ジャーナリストが暴く4月1日スタート「自転車に反則金」の裏側

通行帯違反(反則金5,000円)自転車レーンがある道路で、歩道の建物側を走行する自転車。自転車レーンがある道路では、自転車は歩道走行は禁止。レーンがない場合でも、自転車は歩道の車道寄りを徐行しなければならないので違反対象になり、反則金は3,000円(写真・保坂駱駝)

 

 今年4月1日、「自転車反則金」がスタートする。自転車の交通事故が多く、迷惑運転が目に余るので、きちんと取り締まることにしました、報道はもっぱらそんなふうだ。

 

 しかし、長年にわたり警察の交通行政をウオッチしてきた私からすると、「自転車に反則金」は、明らかに “悪手” だ。さまざまな混乱を招くだろう。警察庁自身も承知のはず。どういうことか、ご説明しよう。

 

 2001年に、警察庁が情報公開法の対象となった。そのころから私は警察庁へ通って開示請求をしてきた。請求なしで閲覧できる文書は、どんどんコピーした。

 

 軽車両(※荷車やそりなどを含むが、ほぼすべて自転車と思われる。以下、自転車という)の取締まり件数が、1989年分から私の手元にある。1989年は全国で79件。違反別で最多は「乗車積載制限違反」の27件だ。おそらく2人乗りだろう。

 

 2004年まで、だいたい数十件から多くて200件前後、1996年などたった10件だった。同年の自動車、バイク(以下、クルマ等)の取り締まりは約1263万件。自転車の取り締まりは極端に少なかったのである。なぜ?

 

■これまで自転車の違反はほぼ不起訴

 

 そもそも反則金とは何か。

 

 交通違反は本来、万引きや覚醒剤などと同様、犯罪として扱われる。刑事訴訟法に定められた「刑事手続」を経て、処罰すべきか、すべきならどんな処罰が適当か、検察官、裁判官が判断する。

 

 戦後のモータリゼーションとともに交通事故が増え、警察は徹底的に取り締まった。交通違反のために刑事手続がパンクしかけた。そこで、「軽微な(=ほとんどの)違反については、違反者が軽い金銭ペナルティを払うなら、刑事手続へ進ませないことにしよう」となった。その軽い金銭ペナルティが反則金なのである。

 

 たとえば、信号無視は普通車での違反は、9000円の「反則金」を郵便局や銀行で納付すれば終わる。どこへも出頭する必要はない。

 

 1968年7月に反則金の制度が施行されるや、取り締まりは激増した。それまでだいたい400万件台だったが、1975年に1000万件を超えた。1979年から1987年までは1300万件台だった。反則金は任意のペナルティだ。納付せず、刑事手続へ進むこともできる。が、納付率が95%を下回ったことは一度もない。近年は98%台だ。

 

 そんな反則金の制度は「軽車両を除く」とされていた(道路交通法第125条)。

 

 自転車の信号無視には、反則金の納付書は交付されない。必ず刑事手続へ進む。ペナルティは「罰金」だ。罰金は、刑法に定められた刑罰の一

種。罰金前科1犯になり、これは生涯ついてまわる。

 

 自転車は普通車より車体の大きさも重さも速度も格段に劣るのに、ペナルティは重い。明らかに不公平だ。そのため、自転車の違反はほぼすべて不起訴だった。起訴率は1〜2%だという。警察官にとっては事件を検察へ送致(書類送検)しなければならず、手間がかかる。しかしほぼ不起訴になり、取り締まりは徒労に終わる。そんな背景があり、自転車の取り締まりは極端に少なかったのだ。

 

 だが、異変が起こった。2004年に85件だった自転車の取り締まりは、2005年に326件となった。2006年には500件を超え、2008年に1000件を超えた。さらに勢いを増し、2015年になんと1万件を突破、2019年には2万件を、2023年には4万件を突破した!

 

 現場警察官にとっては徒労の取り締まりが、自然にこれほど激増するはずがない。警察庁が指示し、現場にノルマ(努力目標)を課したに違いない。いったいなぜ? そこには警察庁の “野望” が関わっている。

 

■取締まり増加の裏にある警察庁の“野望”

 

 話は、1990年へ遡る――。

 

 1990年4月、「読売新聞」の朝刊一面トップに「違法駐車、所有者に課徴金」という大見出しの記事が載った。駐車違反を刑事手続から外し、違反車両の持ち主からペナルティを徴収したいというのだ。

 

 1993年11月、今度は「朝日新聞」に「刑罰やめ高額制裁金」との大きな記事が。駐車違反だけでなく軽微な違反すべてから、課徴金ではなく「行政制裁金」を徴収したい、併せて、ほとんど不起訴となっている軽微な交通事故からも徴収したいというのだ。

 

 1994年10月、再び「読売新聞」に同旨の記事がでかでかと載った。行政制裁金は「世界の車社会のすう勢」とされた。

 

 同年12月には「朝日新聞」が「調査研究費が満額復活」「早ければ1996年度の法制化を目指している」と報じた。

 

 検察官、裁判官の判断をあおぐ道をなくし、警察限りで制裁金(ペナルティ)を徴収しようというのだ。国民に身近な交通違反、事故について警察限りで高額制裁金を徴収できる “巨大な市場” が生まれる。これが、警察庁の “野望” だ。

 

 このころ、いくつかの法律雑誌でも同旨の記事が見られた。警察庁は本気なのだな、そう思えた。しかし、1996年の国会に動きはなく、10年が過ぎ去った。

 

 2006年6月、駐車違反取り締まりの民間委託と「放置違反金」の制度がスタートした。

 

 放置違反金とは、違反者ではなく車両の持ち主から警察限りで徴収する新しいペナルティだ。違反者本人が刑事手続へ進む道も残されたが、8割ほどの違反は放置違反金で決着するようになった。

 

 行政制裁金としては不完全といえるが、違反車両の持ち主の責任を問うのは画期的だ。

 

 さあ、ここからこの制度をほかのすべての違反へ、そして交通事故へも広げるのだな、私は興奮した。しかし動きはなく、7年が過ぎ去った。

 

 2013年、事態は大きく動いた。まずは6月、古屋圭司国家公安委員長が「取り締まられた側も納得できる取り締まりを」と苦言を述べた。

 

 同年8月、委員長の苦言を待っていたかのように警察庁は、速度規制と取り締まりについて有識者との「懇談会」を設置。12月には「提言」を発表した。要するに通学路、生活道路(以下、通学路等)の速度抑止、交通安全を大義名分に、可搬式オービス(※インターネット上ではよく「移動式オービス」と呼ばれる)の導入へ導く提言だった。

 

 新型の取締まり装置を導入するだけなら、大臣に旗を振らせて有識者との懇談会を設け、提言を得る、そんな念入りなことをするはずがない。

 

 なぜ「通学路等の安全」を大義名分としたのか。

 

 固定式のオービスは赤切符の違反(一般道では超過時速30キロ以上、高速道路等では超過時速40キロ以上)のみを取り締まる。通学路等の多くは「ゾーン30」とされ、制限速度は時速30キロだ。可搬式は「通学路等の安全」を大義名分として掲げ、時速59キロまでは見逃す? そんなバカな。オービスの取締まり対象を青切符へ広げるに違いない。

 

 警察庁は2014年に「試行運用」を、2016年に「モデル事業」をおこなった。このとき用いた可搬式は、本邦初登場の外国製だった。従来の国産のものとは比べものにならない超高性能で、これを駐車監視員ならぬ「速度監視員」に持たせ、違反車両の持ち主から放置違反金ならぬ「速度違反金」を徴収するのだな……。

 

 ところが、2016年に突然、国産の可搬式オービスが登場。これを警察庁は、いわゆるゴリ押しをした。だが結果、国産オービスは取り締まりに向かないことが顕わになった。ならば外国製で野望の実現へ向かえばいいのに、あくまで国産に執着し、「見せる取り締まりで速度抑止する」と言いだした。1台1000万円もする国産可搬式オービスにカカシの役割を見出したのだ。

 

 2013年には約205万件、違反別ではトップだった速度取り締まりは、その後減り続けた。2025年は約87万件にまで落ちこんだ。違反別のトップは一時不停止で、約114万件だった。

 

■「 “自転車” で行政制裁金」の思惑

 

 速度違反は駄目だ。そう見切りをつけたのか、2020年に警察庁は、電動キックボードや自転車の交通ルールについて有識者検討会を設けた。2021年4月の中間報告、同年12月の最終報告にこんな部分があった。

 

「自転車の違反に対する刑罰的な責任追及が著しく不十分なものにとどまっている状況を踏まえれば(略)刑罰に代わる少額の違反金を課すなど、非刑罰的な手法も含め、違反の抑止のために実効性のある方法(を検討すべき)……」

 

「刑罰に代わる少額の違反金」とは、ずばり行政制裁金だろう。最低限、自転車の持ち主から徴収する「自転車違反金」だ。1990年代に何度も報道させた “野望” がとうとう自転車で実現へ向かうのだ。

 

 ところが、その報告書が出た12月23日、驚愕の事態が。「自転車違反金見送り」と時事通信が報じたのである。

 

 警察庁が設けた検討会の最終的な報告書を、その発表の当日に警察庁が否定する、前代未聞だ。ほかの省庁の官僚たちは腰を抜かしたろう。

 

 駐車の次は、速度違反で野望へ向かうはずだった。外国製の超高性能な可搬式オービスで、それはスムーズに進むはずだった……。なのに国産の

 

可搬式オービスにどうしても執着する一派が、「自転車が先を越すとは無礼だ」と止めたのか。私が言うのもなんだが、非常に残念だ。

 

■自転車の反則金は問題だらけの悪手

 

 自転車に反則金、これはおおいにトラブルを招くだろう。

 

●本人の特定が困難

 

 まず、違反者の特定をどうするのか。クルマ等なら運転免許証がある。不携帯でも、免許保有者の情報は警察が持っている。生年月日などですぐに特定できる。だが自転車は違う。中高生をはじめ、身分証を携帯しない人は多いはずだ。

 

●なりすまし

 

 自転車に対する青切符は、16歳以上に切られるという。

 

 高校生のなかには、いつものように身勝手な運転をして、取り締まりを受け「チェッ、なんだよ」とムカつく者もいるだろう。友人などになりすましたり、あるいは架空の氏名住所、生年月日などを申告する者も出てくるはず。青切符の署名欄に他人の氏名を書けば「有印私文書偽造罪及び行使罪」になる。これは交通違反よりずっと重い罪だ。

 

●反則金の不納付

 

 前述のとおり、クルマ等の場合の反則金の納付率は、近年は98%台だ。「捕まったらオシマイ。金を払うしかない」という認識が定着しているといえる。

 

 だが、自転車はそうではない。特に高校生は、数千円の反則金がすぐには払えなかったりするだろう。納付率はだいぶん下がるのではないか。

 

●警察、検察、裁判所の負担

 

 反則金の納付がなければ、事件は刑事手続の扱いになる。警察官は違反者を呼び出して調書を取ったり、実況見分を実施したりと、検察官も裁判官も手間がかかる。少年法により、20歳未満の違反は必ず家庭裁判所へ送致される。交通短期保護観察と呼ばれる軽い処分ですますとしても、自転車の違反のせいで新たな負担が生じることになる。

 

 自転車の取り締まりは、こう増えた。

 

 2023年 4万4207件
 2024年 5万1564件
 2025年 6万163件

 

 自転車の違反に反則金、そのスタートを前に、現場警察官に予行演習をさせたのだろう。

 

 じつはこのほかに、違反を現認した際に検挙はしないが、注意を喚起するために交付する「指導警告票」の交付数についてのデータがある。そちらはこうだ。

 

 2023年 133万2052件
 2024年 133万1370件
 2025年 110万1710件

 

 1968年に反則金の制度が誕生する前は、指導警告等の統計があった。指導警告と取り締まりはほぼ同数。指導警告のほうが多い年もあった。

 

 反則金の制度=簡単にペナルティを払わせる制度ができて、指導警告の統計は姿を消した。

 

 自転車の場合、100万件を超える指導警告がすべて、とまではいかなくても、多くの部分が取り締まりに替わるだろう。

 

 かつてクルマ等の取り締まりが1300万件を超えていたころ、反警察感情の高まりが問題になった。

 

「刑事の張り込みとわかっていたが、取締まりにムカついていたので、不審者がいると110番通報してやった。ざまあみろ」などと言う人もいた。

 

 今回もそんなことにならないか、心配だ。

 

 ともあれ、たかが自転車でも重大事故に至ることがある。自転車による「重過失致死罪」「重過失傷害罪」の裁判を私はたくさん傍聴してきた。自転車の運転を甘く考えてはいけない。取り締まりには関係なく、安全でマナーのよい運転を。

 

文・今井亮一(交通ジャーナリスト

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出典元: 週刊FLASH 2026年4月7日号

著者: 『FLASH』編集部

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