
小泉進次郎防衛相(写真・長谷川 新)
4月12日に都内で開催された自民党大会で、陸上自衛隊中央音楽隊の鶫真衣(つぐみまい)3等陸曹が制服を着て登壇し、国歌を斉唱したことが物議を醸している。
自衛隊法第61条には(政治的行為の制限)として《隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らかの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない》とある。
報道各社は13日、「自衛官が自民党大会で歌唱 政治行為制限の法に抵触か」(共同通信)、「自民党大会で陸上自衛隊員が国歌歌唱 防衛省関係者『軽率では』」(朝日新聞)などと報じた。
X上でも
《自衛隊法第61条に定められた「隊員の政治的行為の制限」には反しないんですかね……》
《モール付きの制服を着用し、来賓のリボンまでつけて、壇上で国歌斉唱。これが自衛官の政治的行為でなかったらなんなのか》
などと問題視する声があがっている。政治担当記者が言う。
「大会の冒頭、国歌斉唱する前に、司会者は鶫さんが音楽大学や音楽大学大学院で声楽を専攻し、2014年に陸上自衛隊で初めてとなる声楽要員として入隊したとし、『2022年より陸上自衛隊中央音楽隊に所属し、陸上自衛隊が誇るソプラノ歌手』などと紹介していました。
小泉進次郎防衛相は、12日、Xで《全国から党員らが結集する自民党にとって重要な場で国歌斉唱の大役を担ってくれたのが、陸上自衛隊の鶫真衣(つぐみ・まい)さん。凛とした君が代が大会場に沁み渡りました。鶫さんをはじめ自衛隊の音楽隊を誇りに思います。》などと投稿し、鶫氏とのツーショットを公開していましたが、後に削除しています。
13日、自民党の鈴木俊一幹事長は、会見で、党大会の企画会社からこの自衛隊員を紹介され、隊員個人に出演を依頼したと説明し、『国歌を歌うことに政治的な意味はなく、特に問題ないと聞いている』と問題にしない旨を話しています」
ただ、自民党内ではさまざまな意見が出ているようだ。自民党ベテラン秘書が言う。
「党内からは『国歌を歌わせたことは問題ではないか。国歌じゃなければ問題なかった』という声や、『制服で出席させたことがマズいのではないか』などという声が出ていますが、『たいした問題ではない』とする意見も少なくないようです。
個人的にはもう少し、党側が慎重に考える必要があったのではないかと感じています。歌手とはいえ、特定の政党の大会に現役の自衛官が出席して国歌を斉唱したわけですから、政治的行為と指摘されても仕方ないように思います。政府の行事ではなく、あくまで自民党の行事ですからね」
陸上自衛隊の元幹部自衛官はこう話す。
「彼女は国歌を歌ってくれとお願いされて歌ったにすぎないでしょうし、それは断れないでしょう。ただし、自民党は個人に依頼したとしてます。自衛官が個人として依頼を受けたのなら、普通は制服では出席しないと思います。
中央音楽隊の制服で出席しているということは、私人としてではなく、半ば公人と見られても仕方がないですし、音楽隊長など上官の許可をもらっているはず。制服で出席するように誰かから指示された可能性もあるでしょう。一個人の判断で制服で出席して国歌斉唱したわけではないでしょうから、3等陸曹を責めるのは酷だと思います。
個人的に残念だと思うのは、小泉防衛相がXを削除したことです。防衛大臣なのですから、事実関係はどうであれ、『責任を持って、私が防衛大臣として出席してもらいました』と言えばすむことだと思います。
政治的行為との指摘が出ているようですが、中央音楽隊は広報活動の一環として捉えただけの話でしょうし、国歌を歌うことは政治的行為にはあたらないと考えます」
さらに続けて、OBとして現役隊員の心中を察する。
「特定の政党の大会という点でもケチをつけられているみたいですが、自民党と政府をわけて考えることも現実的ではないと思いますし、来てくれと言われれば、自衛隊側が断ることは現実的には難しいような気がします。
政府の権限がある人から『来てください』と言われれば、自衛官トップの統合幕僚長でも断りきれないのではないでしょうか」
小泉防衛相は、14日の記者会見で「当該自衛官は職務ではなく私人として、関係者からの依頼を受けて国歌を歌唱したものと聞いています」「国歌を歌唱することが政治的行為に当たらないと、自衛隊法違反にも当たらないと認識しています」などと語った。
また、高市早苗首相も14日、「特定の政党への支援を呼びかけるのではなく、国歌を歌唱した。法律的にも問題はない」と違反には当たらない考えを示した。
この問題では、14日の参議院外交防衛委員会で、野党から “政治的行為” について、追及がなされた。
「立憲民主党の田島麻衣子議員は『党大会というのは、党の最高意思決定機関だ。これが政治的行為ではない、政治目的ではないというのはおかしい』などと質しました。
これに対し、小泉防衛相は自衛隊法が規定する “政治的目的” について、自衛隊法施行令第86条3号に規定されている『特定の政党その他の政治団体を支持し、またはこれに反対すること』であると示し、自衛隊法違反にはあたらない、と答えていました」(前出の記者)
陸上自衛隊トップの荒井正芳陸上幕僚長は、14日の記者会見で陸上自衛隊内の判断について、こう述べた。
「出演依頼を受けた当該自衛官から所属部隊を通じて陸上幕僚監部および内部部局の担当部署に対し、私的に歌唱することについて事前に相談がありました。
そのうえで担当部署間において、自衛隊法第61条に基づく政治的行為の制限との関係について事務的に確認をおこなったところです。
その結果、国歌を歌唱することは自衛隊法に定める政治的行為にあたるものではなく、今回の件が自衛隊法違反にあたるものではないと確認した旨報告を受けたところであります」
この会見では、制服で出席したことについても焦点があてられた。
「荒井陸幕長は、演奏服装について『自衛官服装規則第13条の2において、陸上幕僚長が演奏のために特に必要があると認めて指示するときに着用することができる旨を規定をされております。今回の国歌の歌唱については私人としての行為であり、私の指示を受けたものではありません』としたうえで、『法令上、職務外において演奏服装の着用が禁止されているわけでもありませんし、私的な場面で演奏服装を着用した事実をもって規則違反と評価されるものではないという認識です』と、規則違反にはならないという見解を示しています」(前出の記者)
しかし、「私人として」や「私的に」という説明には違和感が残る。前出の政治担当記者が言う。
「自民党の北村経夫参院議員は、自身のSNSに、《今回の自民党党大会、実は「自衛官による国歌斉唱」が史上初めて実現しました!》などと投稿し、党大会に鶫3等陸曹だけでなく、陸上自衛隊中央音楽隊副隊長が出席していたことを示す3人のショットを公開しています。『私人として』また『私的に』と言うのなら、なぜ上官も出席していたのでしょうか」
本誌が関係各所に見解を求めたところ、陸上自衛隊の広報担当者からは「現時点でコメントできません」と回答があった。
また、小泉防衛相の事務所に質問を送ると、
「当該自衛官は、職務ではなく、私人として、関係者からの依頼を受けて、国歌を歌唱したものと承知しています。また、お尋ねの政治的行為の制限との関係については、自衛隊法第61条第1項において、隊員の政治的行為の制限について定められていますが、国歌を歌唱することが政治的行為に当たるものではなく、今回の件は、自衛隊法違反に当たらないと認識しています」
と回答。小泉防衛相がXに投稿した鶫氏とのツーショットを削除した理由については
「ご指摘については、投稿後、念のために事実関係等を確認する観点から、一旦、その投稿を取り消すこととしたものです」
と回答した。
防衛省報道室には、見解のほか「国歌を歌った経緯、また、中央音楽隊副隊長が出席していたこと」などについて、問い合わせた。これについて防衛省報道室は、自衛隊法に抵触するという指摘については以下のように、小泉事務所とほぼ同じ回答をした。
「当該自衛官は、職務ではなく、私人として、イベント会社からの依頼を受けて、国歌を歌唱したものと承知しています。また、お尋ねの政治的行為の制限との関係については、自衛隊法第61条第1項において、隊員の政治的行為の制限について定められていますが、国歌を歌唱することが政治的行為に当たるものでもなく、今回の件は、自衛隊法違反に当たらないと認識しています」
また、国歌を歌唱したことについては「イベント会社の依頼は、国歌の歌唱であったと聞いています」と回答。中央音楽隊副隊長の出席については「副隊長については、私人として同席したと聞いています」と答えた。
さらに、自民党本部には「国歌を歌うよう依頼したのは誰か」「党大会を担当した企画会社は、(株)自由企画社(1973年に自民党直属の広告代理店として発足し、自民党の機関紙誌の広告取扱業務などを担当)なのか」について質問した。
広報担当者は「依頼者は大会の演出等を担当した企画会社です。なお、個別の企業名についてはお答えしておりませんのでご理解ください」と回答した。
政権を長期にわたり運営してきた自民党といえど、今回の自衛隊への対応については疑問を呼んでしまったようだ。
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