テーマパーク「ジャングリア沖縄」で、唇を近づけるB氏(左)とA子さん
「博多のバーでは、私の前で店員さんに『いつA子にプロポーズしようかな』と、のろけていました。『一緒に福岡に住もう』と、物件情報を見せてきたこともあったんです」
こう悲嘆に暮れた様子で話すのは、鹿児島県在住の会社員・A子さん(23)。独身者限定マッチングアプリ「ペアーズ」に登録したばかりの2025年11月、マッチングしたのが30代半ばの男性・B氏だった。
「Bさんのプロフ欄には『福岡在住で一人暮らし』とあり、身長180cm台で、英語と中国語が話せる経営者だと名乗っていました。すぐに写真が送られてきて、優しそうな顔で好印象を抱いたので、熊本で会うことになりました」(A子さん、以下断わりのない「 」は同)
2人は高級すし店で食事をし、バーを2軒はしごした。
「知的でユーモアもあり、時間的にも経済的にも余裕がありそうでした。ただ、初対面なのに『つき合おう』『結婚しよう』と言われ、驚きました」
翌日以降も、B氏は積極的だった。LINEであらためて《付き合ってくれそう? めちゃタイプやねん》と告白。交際が始まった。
「『いつでも会いに行くし、俺といればカネに困ることはない』とも言われました。実際、1週間後には鹿児島に来てくれました。食事の後にBさんが予約したホテルに泊まり、結ばれました」
B氏はA子さんに、自らの略歴をこのように説明していた。〈国立大学を卒業後、大手商社に就職。外資系の “世界で一番のコンサル会社” に転職した後、東大卒の優秀な社員を数十人引き抜いて、自分の会社を興した〉と。
B氏はこのとき、コンサル会社の社名こそ伏せていたが、本名や、ほとんどの経歴を実名で明かしていた。だがその裏で、もっとも重要な事実を隠していたのだ。
まだそのことを知らないA子さんは、B氏と逢瀬を重ねた。
「クリスマスはBさんの仕事で会えなかったんですけど、数日後には、彼が定宿にしているという福岡のグランドハイアットに泊まりました。年末年始は、年が変わる瞬間に《大好き》というメッセージをくれ、とても嬉しかったです」
デートでは、A子さんが暮らす鹿児島のシェラトンにも宿泊。2026年1月18日にA子さんが大阪に出張したときには、B氏も “たまたま” 大阪にいた。梅田のウェスティンホテルに泊まり、翌日はドライブを楽しんだ。
「Bさんとホテルに泊まるときは、日曜にチェックインするのが定番でした。月曜の朝は、Bさんは早起きして、ホテルの部屋でオンライン会議をしていました。参加者にテキパキと指示を出していて、さすが経営者だと思いました」
“企業のトップ” だけあって、食事も高級店が多かった。
「『一日3万円までの食費は、経費で落ちる』と話していました。会計をした後、秘書に送る領収書を撮影した画像を、私に誤送信してきたこともありました。2月1日に鹿児島のシェラトンに宿泊したときは、『経費精算した』と言ったことを覚えています」
だが1月下旬ごろから、A子さんはB氏に違和感を覚えるようになっていた。
「会うたびに体の関係を求められたり、新幹線での移動中に、下半身をさわってきたりすることに、疑問を抱くようになりました。2月10~12日に2人で沖縄旅行したときには、彼が『会社の人にバレたらまずい』と言うので、隠さなければならない関係なのかとショックを受けました」
A子さんは、2月20日にLINEで別れを告げた。B氏からは《やり直したい》と返信があったが、A子さんが話し合いを拒むと一転、既読スルーするようになった。交際は3カ月で終わりを迎えた。
ところが、その後に事態は急変する。B氏は経営者ではなく、 “世界で一番のコンサル会社” 、マッキンゼー・アンド・カンパニーの現役社員であることが判明したのだ。
「交際の顛末を知人に打ち明けたところ、Bさんが勤めていたという大手商社の人に聞いてくれたんです。すると、『彼はマッキンゼーに転職したよ』と。そして、知人が伝手を辿って調べてくれ、Bさんがまだ在籍していること、妻子もいることがわかったんです」
マッキンゼーは、65カ国以上・130以上の都市に拠点を持つ、世界最大級のコンサルティング会社。 “経営者顔負け” の高い報酬で知られる。B氏について、同社関係者が語る。
「Bさんは、大学時代にフィリピン沖地震の海外ボランティアに参加し、英語を習得したと話していました。大阪の関西オフィスに所属し、九州方面の企業を担当しています。今年、部長級にあたるパートナーに昇格しており、年収は5000万円前後でしょう」
のちに7歳の娘がいることが明らかになるB氏に、A子さんはこうメッセージを送った。
《結婚してて私に結婚しようとか言ってきよったん?》
B氏は、《感情的なやり取りを続けても良いことがない》と、対話を拒むばかりだった。
A子さんが、シェラトン鹿児島に領収書の再発行をしてもらうと、宛名は「マッキンゼー」だった。2人がデートで肉体関係を持ったホテル代を、B氏は勤務先に請求したのだろうか。
「2人で通った博多のバーで、Bさんは隠すことなくマッキンゼーの名刺を渡していたようです。ただ、私以前にも複数の女性と来店し、店の人も独身だと思っていたそうです」
B氏からの50万円の和解提案を退けたA子さんは、6月17日、B氏に対して貞操権(性的自己決定権)を侵害したとして、300万円の慰謝料を求めて提訴した。
B氏に取材を申し込むと、代理人弁護士から《コメントできることはございません》と回答があった。
マッキンゼーにもB氏の独身偽装と、勤務先への経費の不正請求の可能性について問い合わせたが、代理人より《従業員のプライベートについて、コメントする立場にない。経費については、非適切な処理をしている事実は確認できなかった》と回答があった。
B氏のような「独身偽装」の深刻さを、札幌弁護士会所属の猪野亨弁護士が解説する。
「相手が、既婚の事実を知れば同意しないとわかっていながら関係を持つのは、貞操権の侵害です。今回のケースのように、別れた後で既婚者だとわかったケースでも、権利侵害に変わりはありません。加害者の責任は重く、民事上の賠償責任はもちろん、刑事罰を科す法整備も必要だと考えます」
6月23日には、30代女性に独身と偽って交際した男性に対し、約470万円の賠償命令が出ている。「独身偽装」に、司法は厳しい目を向け始めているのだ。
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