山口 内閣人事局の発足も一端となって、官僚と政治家の関係は変わったと、よくいわれますよね。
ーー安倍政権が2014年5月に発足させたのが内閣人事局だ。省庁幹部の人事権を首相官邸に集中させたことが、官僚の政治家への過剰な「忖度」を生んだ元凶ともいわれる。
佐藤 昔から審議官以上の人事は政治の了承がないと動かせなかった。ただ、今の官邸は、課長レベルの人事にまで手を突っ込んでくる。
山口 内閣人事局が出来てから「下手なことで無駄死にはしたくない」という意識が、官僚に芽生えたのかもしれません。それが、今回の文書改竄問題の背景にあるのかも。
佐藤 あれは財務省全体の「仕事」でしょ。
山口 改竄した人たちは、個人のためでなく、「省のため」にやったんだと思います。
佐藤 ある外務省OBと会ったら「佐川さんのような事件があったら、外務省なら必ず誰かがマスコミにチクる。財務省は組織の統制が取れている。たいしたもんだ」と妙に感心していましたよ。
山口 国会答弁に誤りがないということは財務省にとってはすごく大事なことなんです。
佐藤 外務省にも、その種の問題はあります。ただし、外務省は文書の改竄はしない。間違えてシュレッダーにかけたことにする。「人間には過ちがあります」。これで逃げきる。あるいは、本当にシュレッダーにかけてしまいます。
ーー官僚への登竜門が国家公務員総合職(I種)試験だが、最近、受験者数は減っている。学生にとって官僚の仕事は魅力を失っているのか。
佐藤 お金の好きな東大生が増えたからですよ。
山口 官僚は給与面でそれほど恵まれていません。待遇面の不満もあるでしょうけど、東大法学部の学生はすごく「流行り」に弱いんです。
私のときは、みんな司法試験を受けましたけど、いまは外資系コンサルが人気。みんなが行きたがるところに行く傾向はあると思います。
ーー対談の締めくくりにあらためて2人に聞いた。不祥事の続発は官僚の劣化を示しているのだろうか。
山口 官僚は優秀です。今は霞が関でしか通用しないローカル・ルールが外の世界にさらされ、組織が動揺しているんだと思います。財務省は家族型組織。私のミスを1年先輩が怒られるみたいなところがあった。でも、日本的な家族型組織の限界かもしれません。
佐藤 日本全体を飛行機にたとえれば、官僚は操縦席にいる。操縦席だけが劣化しているなんてありえません。だって、官僚よりもっと劣化してる奴らがいるじゃないですか。
ーーそれは政治家か? 2人とも否定はしなかった。
さとうまさる
1960年1月18日生まれ 東京都出身 埼玉県立浦和高校卒、同志社大学大学院神学研究科修了。1985年外務省入省。作家。元外務省主任分析官
やまぐちまゆ
1983年7月6日生まれ 北海道出身 国立筑波大学附属高校卒、東京大学法学部卒。2006年財務省入省。ハーバード・ロースクールを卒業。弁護士。最新の著作は『合格習慣55』
(週刊FLASH 2018年6月19日号)