社会・政治
トルコで起きたジャーナリスト失踪事件…日本にも悪影響が
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2018.10.16 06:00 最終更新日:2018.10.16 06:00
サウジアラビア出身でアメリカで活動中のジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏(59歳)が行方不明になって2週間が経つ。10月2日、トルコのイスタンブールにあるサウジアラビアの総領事館を訪れ、トルコ人の婚約者との結婚に必要な書類を受け取るはずであった。
総領事館の外で待っていた婚約者には、「2時間経って、自分が出てこなかったら、トルコ警察に通報するように」と伝言していた。しかし、4時間経っても、カショギ氏は姿を現さなかった。
カショギ氏は『ワシントン・ポスト』紙の著名コラムニストである。しかも、24年間にわたってサウジアラビアの治安当局の最高責任者を務め、イギリスやアメリカで大使を歴任したタルク・ファイサル・アルサウド氏の最側近だった。
アルサウド氏の下で、カショギ氏はアフガニスタン、アルジェリア、スーダンなどで活躍。あのオサマ・ビンラディンとも何度も面会し、対ロシア工作の分野で欧米諸国との連携を果たしてきた「諜報のプロ」である。
サウジ王室とも関係の深いそんな人物が、なぜトルコのサウジ総領事館で行方不明になってしまったのか。
トルコの情報では、「カショギ氏は総領事館内で拘束され、サウジから送り込まれた15人の暗殺部隊によって拷問を受けた後、殺害され、その遺体は切断され搬出された」らしい。トルコ政府は証拠となる音声と映像のデータを握っているという。
実は、カショギ氏の元上司であるアルサウド氏は、サウジ国王との権力争いに巻き込まれ、2015年、公職から追放されている。
これを機にカショギ氏は、国王の後継者とされる若き皇太子への批判を加速させたのである。カショギ氏は『ワシントン・ポスト』紙のコラムだけでなく、サウジが敵対するカタールに拠点を構えるテレビ局「アルジャジーラ」にたびたび出演し、サウジ批判を繰り返した。
カショギ氏曰く「わが祖国は以前から自由が制限されていた。しかし、今ほど厳しいことはなかった」。確かに、新皇太子になってから、有力な王子や大富豪らが汚職名目で次々と監禁され、資産を没収される事件が頻発している。
そうした新皇太子の強権的な動きに反発する勢力が存在する。なにしろ王子の数だけで3000人というお国柄である。彼らがカショギ氏を利用し、欧米メディアを通じて、現政権の転覆を目論んだとの見方も根強い。
業を煮やした皇太子が抹殺を命じたとも言われるが、外国にある総領事館を舞台にした殺人事件となると、国際的な批判は免れようがないだろう。
アメリカではボブ・コーカー上院外交委員長(共和党)が「シャーロック・ホームズがいなくても、犯人は誰の目にも明らかだ」とサウジ非難を強め、サウジに対する経済制裁もちらつかせる。
一方、サウジは関与を否定し、原油減産で対抗する構えも見せている。1バレル100ドルどころか200ドルともなれば、日本でも「石油パニック」が起きかねない。遠い異国の騒ぎと無関心でいるわけにはいかないのだ。(国際政治経済学者・浜田和幸)