社会・政治
世界第2位のスマホメーカー「ファーウェイ」幹部逮捕劇の行方
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2018.12.10 16:00 最終更新日:2018.12.10 16:00
先のG20首脳会議で合意に達していた米中関税戦争の90日間停戦はご破算になりそうだ。
トランプ大統領と習近平国家主席がブエノスアイレスで会談した日、カナダのバンクーバーで中国の通信機器最大手「ファーウェイ(華為技術)」の孟晩舟(モウ・ワンジョウ)副会長が逮捕されたからだ。孟氏は、創業社長の娘である。
【関連記事:ファン・ビンビン「当局に拘束された3つの理由」】
中国政府は猛反発。中国外務省は在北京のカナダ大使を呼び、「逮捕拘束の理由はない。彼女は何も法を犯していない。即刻釈放しなければ、重大な結果をもたらすことになる。その責任はカナダとアメリカにある」と厳重な抗議をおこなった。
カナダのトルドー首相は当初から逃げ腰で、「今回の逮捕に政治的な意図は一切ない。あくまでアメリカからの要請を受けてのこと」の一点張り。実は、アメリカの司法当局が「イラン制裁に違反する取引を主導していた疑いがある」との理由で、8月に逮捕状を用意していたのである。
彼女を中国で逮捕することはできないため、海外で拘束するチャンスをうかがっていたわけだ。カナダとアメリカは犯罪者の相互引き渡し条約を結んでいるため、彼女が夫の暮らすバンクーバーに来る機会を事前に把握し、今回の逮捕劇となった。
現在、バンクーバーの裁判所で審問が行われているが、万が一、アメリカへの引き渡しが決まり、ニューヨークでの裁判となれば、最高で懲役30年に相当する犯罪という。カナダの検察によれば「ファーウェイは、イランとの金融取引を禁じたアメリカの制裁をかいくぐり、関連会社を通じてイランに通信機器類を輸出していながら、無関係だと虚偽の説明を行った。これはアメリカの金融当局を欺く犯罪行為」とのこと。
しかし、カナダも日本のメディアも触れようとしないのは、「アメリカによるイランへの経済制裁は国際法上の根拠がない」という点である。国連憲章に従えば、国連の安全保障理事会のみが経済制裁発動の権利を有する。ところが、イランへの経済制裁は安保理の決議を経ておらず、アメリカ政府の一方的な政策に過ぎない。「アメリカの言う通りにしないのは犯罪だ」と言っているのに等しいわけで、この点から見れば、孟CFOに罪はないということになる。
アメリカのボルトン補佐官は「孟CFOのバンクーバーでの逮捕は事前に承知していた」と発言しており、アメリカとカナダによる政治的な判断から今回の逮捕が実行されたことは明白である。
世界のスマートフォン出荷量で2位のファーウェイは、マイクロソフトやアップルを上回る研究開発費を投入しており、「中国製造2025」の中核企業である。そんな「目の前の脅威」であるファーウェイの創業社長の娘を人質に取ることで、トランプ政権は中国の動きを封じ込める作戦のようだ。
となれば、中国はアメリカ企業の幹部を中国国内で逮捕する対抗手段に出る可能性が高い。当面、米中の経済戦争は加熱することはあっても、沈静化することはないだろう。(国際政治経済学者・浜田和幸)