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世の女性をとりこにした「五代友厚」の変人エピソード
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五代友厚が作った明治時代の大阪造幣局
大阪観光大学観光学研究所客員研究員の濱田浩一郎氏が、朝ドラで人気を博した五代友厚の実像を明かす。
まもなく大団円を迎える連続テレビ小説『あさが来た』で、一番人気の登場人物といえば、俳優ディーン・フジオカが演じた五代友厚(1836―1885、薩摩出身の実業家)であろう。
あまりの人気ぶりに、亡くなった後もわざわざ回想シーンが作られたほどだ。
ディーン・フジオカの甘いマスクはもちろんだが、劇中で主人公・あさ(波瑠)に叶わぬ恋心を持ちつつ、時に厳しく時に優しく実業の世界に導いていく様子が、「少女マンガチック」として女性たちのハートを鷲掴みにした。
では、実際、五代様はどのような人物だったのか。あまり知られていないエピソードから人柄を見ていこう。
まず、五代様は、かなり記憶力がよかったらしい。手広く事業を広げていたが、すべての業績を暗記していた。矢野政二『大倉物語』(時事評論社、1928)によれば、決算のおり、5人のスタッフが次々と会社の現状を報告するなか、なんのメモも読まず、すべて適切な指示を与えたという。
一方、同書には、五代様のなかなかの「変人」ぶりも書かれている。座敷で人と会っているときでも、いきなり立ち上がって、庭に向かってそのまま小便をする癖があったらしい。
また、大臣の西郷従道(隆盛の弟)が大阪に来たときなどは、汚い衣服に羽織もかけず、宿屋の軒下から大声で「おーい!おーい!西郷どん」と呼びかけたという。
あの坂本龍馬も他人の家の門柱に小便をすることがあったようだが、五代様もそれに負けず劣らず、人の目を気にしない男だったのだ。
だが、五代様は単なる変人では終わらない。
五代様は、のちに総理大臣にもなる大隈重信(1838―1922)と交流を深め、生前200〜300通もの手紙をやり取りする仲だった。大隈側に残された五代様の手紙には、毎回「例の五カ条は忘れないように」との言葉があった。
五カ条とは、大隈の欠点を指摘し、注意を促すものだった。市島謙吉『随筆春城六種』(早稲田大学出版部、1927)より引用しよう。
1、愚説愚論でも、きちんと最後まで聞いてやれ
2、自分より地位の低い者が自分と同じ意見なら、その人の意見として採用せよ。手柄は部下に譲れ
3、頭にきて大声で怒れば、信望を失う
4、事務上の決断は、部下の話が煮詰まってからせよ
5、自分が嫌っている人とも積極的に交際しろ
若いころの大隈は血気盛んで独断的、人の恨みを買うこともあった。それを心配した五代様が、毎度毎度の手紙に注意を促すコメントをつけたのだ。
「高官となった大隈さんに、誰も欠点を指摘する者はいないだろう」との友情からである。その誠実で友情にあつすぎる人柄は、ドラマの五代様とも重なる。
ちなみに、五代様の亡くなった4年後、大隈重信は爆弾による襲撃を受け、右脚を切断している。天国の五代様もあわてたことだろう。
(著者略歴)
濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)
1983年生まれ、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本史に学ぶリストラ回避術』『現代日本を操った黒幕たち』ほか多数