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元ソフトバンク社畜が語る「2人の鬼上司」孫正義が激高して…

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2019.03.10 11:00 最終更新日:2019.03.10 11:00

■最強の鬼上司・孫正義と、料金をめぐり1対1でやり合って

 

 デジ社で鬼上司からゲキヅメされながら業務をしていた時期、須田氏はソフトバンクグループの社運をかけた新事業「Yahoo! BB(以下、BB)」の立ち上げに参画している。

 

 ただでさえ過酷なうえに、さらに上乗せされる仕事量もさることながら、3人めの「鬼上司」に、須田氏は苦しむことになる。その人物こそ、ソフトバンクの皇帝・孫正義氏だ。

 

「初めは、Aさんのサポート役として会議に同席しました。『あの孫さんの会議に出られるなんて!』と興奮すら覚えていましたが、Aさんがデジ社の上場業務を建前に、BBからフェイドアウトしていきます。

 

 じつは裏では、『須田、この事業、いくら孫さんでもうまくいかんぞ。数字がメチャクチャで、ロジックなんてあったもんじゃない。明らかに失敗パターンだ。関わりたくないな』と言っていました。そして僕が、孫さんへの人柱として残されます」

 

 孫氏の鬼上司ぶりは、常人の域を超えていた。

 

「孫さんには、トップとしての強制力がありました。現場社員だけでなく、パートナー企業や業者に対しても『今すぐ持って来い!』という姿勢を徹底されていましたね。

 

 BBは、ノウハウがまったくなかったソフトバンクが、後発で始めた通信事業。業界構図を覆すインパクトが必要でした。それで、『ソフトバンクが通信事業に本格参入! その名もヤフーBB! 通信量ダントツの業界最安値! 100万人初期費用無料!』というキャッチフレーズを打ち出したんです。

 

 これ、すべて孫さんが言い出されたことです。10人ほどのコアメンバーが社長室に集まって、通信規格ADSLの妥当性から、サービスや初期費用の価格、回線工事の段取り、カスタマーセンターの設立まで、毎日長時間に渡って会議を続けました。

 

 現場、とくに技術担当からは、慎重論も唱えられたのですが、一刻も早く事業として成立させたい孫さんは、まったく聞く耳を持ちません。それで、キャッチフレーズにあるような、人の目をひくためのアイデアを、次々と発表されるんです。

 

 孫さんがビジネス脳で思いつかれるインパクト重視の企画は、知識も技術も不足していた実働部隊にとって、ものすごくハードルの高い『無理ゲー』。閉口している現場を横目に、孫さんが社長決済で億単位の投資をバンバン決めていかれます。

 

 焦ったグループ企業の幹部たちは、ソフトバンクの金庫番だった『ソフトバンクファイナンス』のK社長に相談をもちかけ、ブレーキ役を依頼しました。ところが、孫さんとの会談でKさんは、なんとGOを出されてしまったんです」

 

 もう社内には、孫氏の暴走を止めるものは誰もいない状態だった。しかし、あまりにも多くの投資を決めてしまったため、さすがに「取締役会で報告しなければ」という雰囲気になり、須田氏が孫氏の指示を受けて、事業計画書のたたき台を作成した。

 

「とくに料金はもめました。孫さんは『ユーザーの月額料金は2000円を切りたい。1980円にしよう』とおっしゃるんです。当時の競合企業の価格は3000円くらいでした。

 

 それで僕は、『こちらの電気代の変動費などが不確定ですし、リスクが高すぎます。モデムのレンタル料金などを別額にして、通信量の見栄えを2000円以下にはできますが、トータルでは2500円ぐらいにしないと成立しません』と諭しました。

 

 いま思えば、現在の『ワイモバイル』の月額1980円は、この経験からきた、積年の思いなのかもしれませんね(笑)。そうしてなんとかサービス料の月額は上げることができたものの、今度は初期費用で無茶を言われます。

 

『モデムは100万台を無料で配ろう。設置料金も無料だ!』
『社長、そんなことしたら数十億の赤字です』
『お前、さっき月額料金で妥協してやったじゃないか! こっちはワシの意見を使わんかい』
『…………』

 

 資料作りはほぼ一夜漬けで、時間がありませんでしたから、なんとなく『らしい』エクセル資料に仕上げて、役員会に提出しました。

 

 当時の役員は、オリックスの宮内(義彦)社長や、ファーストリテイリングの柳井(正)社長、ソフトバンクファイナンスのKさんといった面々。孫さんの熱意に、なんの障害もなく『OK、OK』で通しました」

 

 孫氏は、トップの強権で全体のゲームメイクをしながら、じつは現場の細かい実務レベルの指示もしていた。

 

「数字の精査をする、実務レベルの会議でのことでした。孫さんが、細かな数字に対していくつも指摘をされました。

 

『このサーバーの電気代、電力会社と交渉して削減できるんじゃないか?』
『NTTの局舎に置くラックだけど、もっと小さいのにしてもいけるんじゃないか? それで賃料削減できるんじゃないか?』
『専用線はもっと安い業者にしよう、ワシが交渉したるわ』

 

 予算には少し余裕をとっておきたかったのですが、孫さんの指示で精査していくと、確かにいい数字になるんです。

 

 そういうときに孫さんは、ニンマリしてこう言います。『ほら、お前らよりオレのほうが数字強いだろ。オレ、経済学部卒だからな(笑)』って。ギャグのほうも、キレ味抜群でしたね」

 

 しかし、そうした孫氏のユーモアにほころんでいられたのもつかの間。須田氏にとって、生涯忘れられない事件が起こる。

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