社会・政治
参院選2019開幕「あなたの投票」はネットに操られている!
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2019.07.07 06:00 最終更新日:2019.07.07 06:00
フェイスブック、ヤフー、アメブロ、食べログ……ふだん目を通すウェブサービスに、やたら政治家の広告が表示されるのにはカラクリがあった−−。いよいよ始まった2019年夏の参院選を左右する「ネット選挙」の最前線に迫る。
2013年の参院選でネット選挙が解禁されてから6年、いまや選挙の主戦場はサイバー世界で、「ウェブを制するものが勝つ」時代に。
「女子大生買春疑惑」で辞職した米山隆一氏の後任を決める、2018年6月の新潟県知事選で、「それを感じる瞬間があった」と言うのは、選挙プランナーの第一人者である三浦博史氏(68)だ。
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三浦氏は、与党・自民党などが支援する花角英世候補(61)の陣営に入っていた。花角氏が戦いの火花を散らしていたのは、野党が結集して「反原発」「初の女性新潟県知事」を掲げていた池田千賀子候補(58)だった。
「魚沼市で開かれた花角氏の演説会で、地元有力者が『新潟県に女性の知事は必要ないんです』と言ってしまった。1時間後には、その発言が切り取られて編集された動画がネット上にアップされた。
『花角陣営、女性蔑視発言』と、拡散されたものの、すぐにその有力者に謝罪してもらい、その様子を動画でアップして、火消しをおこないました」
結果は、花角氏が僅差で当選した。三浦氏が続ける。
「恣意的に動画を編集されても、事実だからどうしようもない。怪文書とは違うのです。政治家でもない地元有力者の発言が、YouTubeでのネガティブキャンペーンに利用されたのは衝撃的でした」
動画を拡散されて落選した代表例が、故・岡崎トミ子元国家公安委員長だ。2013年の参院選、宮城選挙区の現職で、民主党副代表も務めていた岡崎氏は、序盤は優勢だった。
「そこに挑んだのが、みんなの党所属の和田政宗候補(現・自民党)でした。
2003年の訪韓時に、岡崎氏はソウルの日本大使館前でおこなわれた元従軍慰安婦支持団体のデモに参加していたのです。そのときの画像とともに、『あなたの1票を託せますか?』と有権者に問いかける動画を、和田氏サイドは配信したんです。
これに、岡崎陣営は反論できなかった。結果は、和田氏が約5000票差で当選。岡崎氏はその後、議席を奪還できずに、政界を去りました」(三浦氏)
そして現在、とくに恐るべき威力を見せているのが、フェイスブックだという。
2016年、米国大統領選に出馬したトランプ氏の陣営や、英国のEU離脱派から依頼を受けた選挙コンサルティング会社が、フェイスブック上の8700万人ぶんの個人情報を不正に利用して、対立陣営を貶めるフェイクニュースを拡散。大きな波紋を呼んだ。
ネット選挙に精通する選挙プランナーの松田馨氏(39)は、こう話す。
「SNSのなかでも、政治に興味がある利用者が比較的多いのがフェイスブック。年齢層が高いため、投票率も高いと言われています。居住地を登録する仕組みなので、選挙区の有権者かどうかがわかるのもポイントです」
事情は日本でも同じ。自分の選挙区の有権者だけを狙って広告を打つことは、いまや簡単だ。
「たとえば、選挙区内の20代から40代の既婚者向けには、子育て支援の政策を広告として出す一方、65歳以上に向けては年金政策をアピールする広告を出すように、候補者にアドバイスします。
またフェイスブックなら、どれだけの有権者に広告が届いたのか、『いいね!』の数などではっきりとわかるのも特徴です。さらに、広告予算は自分で設定できるので、1000円からでも出稿できる」(松田氏)
有権者が30万人から40万人ほどの小選挙区の場合、新聞に折込みチラシを1回入れるだけで、100万円以上かかるとされている。たしかに安上がりだ。
そして、さらに効果を上げているというのが、「ネット選挙広告」だ。政治家の顔入りのバナー広告を目にするのは、今では珍しくなくなった。
「都内である議員が駅立ちをしていると、『お前の顔、毎日毎日、鬱陶しいんだよ!』とヤジられたそうです。その議員は、『ネット選挙広告』を多く出していました」(同前)
3年ほど前からは、さらに技術が進んだ。選挙情報サイト・選挙ドットコムが提供する「選挙区ターゲティング」では、ヤフーやアメブロ、食べログなどのサイトを見に来た人のなかから、自分の選挙区の有権者だけを精密に絞り込み、広告を表示させることができる。
選挙ドットコム代表・高畑卓氏はこう語る。
「いわば、『選挙ポスターをネット上に貼りつける』システムです。郵便番号から選挙区を特定する技術と、IPアドレスからアクセス元を解析する技術を合わせ、独自の広告出稿システムで、狙った相手のパソコンやスマホの画面上に、政治家のバナー広告を表示させます。
ちなみに選挙ドットコムには、全候補者の情報を掲載しています。中立の立場なので、各広告を出す媒体の審査も通るのです」
ネット広告に、多くの費用をかける政治家も出てきた。
「前回の2017年衆院選では、私が知っているだけで、100万円以上支出した議員が3、4人はいました。
近畿地方のある選挙区では、小選挙区当選を重ねていた野党候補に対し、圧倒的な量のネット広告を出した与党の候補者が、下馬評を覆して当選。その差は得票率1%ほどの大接戦だったので、ネット広告が勝因とも言われました」(前出・松田氏)
ここまで力を入れている政治家は、まだ少ないという。前出の高畑氏はこう強調する。
「私たちは、全候補者に『選挙区ターゲティング』のサービスを提供しており、使うかどうかは、候補者次第。同じ選挙区で使う候補者が複数出てきたら、広告の枠を公平に案分するようにしています」
今夏の参院選、気づかぬうちに、あなたの投票行動も「誰か」に操られている−−。
(週刊FLASH 2019年7月16日号)