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オバマ大統領の広島演説でわかった「核なき世界」の非実現度

社会・政治 投稿日:2016.05.27 21:28FLASH編集部

オバマ大統領の広島演説でわかった「核なき世界」の非実現度

大阪観光大学観光学研究所客員研究員の濱田浩一郎氏が、オバマ大統領の広島訪問と「核なき世界」の演説について考える。

 


 

 「世界大戦は広島・長崎で残虐的な終わりを迎えた。空に上がったキノコ雲のイメージは人類の矛盾を突きつける。われわれは歴史を真っ向から見据え、広島・長崎を人類の道義的な目覚めとすべきだ」

 

 アメリカのオバマ大統領が、伊勢志摩サミット終了後の5月27日、安倍首相とともに、被爆地・広島を訪問した。わずか10分ちょっとだが原爆資料館の展示を見学し、その後、やや長めの演説をおこなった。

 

 原爆投下は、女性や子供をはじめとした一般市民をドロドロに溶かし、残虐に殺害した明確な戦争犯罪であるが、これに対する謝罪はなかった。

 

 アメリカ側は、当初から「広島には、原爆投下を謝罪するために訪問するのではない」と強調していた。米国内に根強くある「原爆投下は戦争を早く終わらせるために正しかった」との声に配慮した形である。

 

 私自身は、アメリカが戦勝国であるという理由だけで「免罪」されている状況には違和感を覚えており、原爆投下を謝罪することもなく「核なき世界」が実現するはずもないと思っているが、そうした感情論は抜きにして、別な観点から今回の広島訪問を考えてみたい。

 

 原爆の問題を考えるうえで、キーポイントになるのが、広島平和記念公園にある原爆死没者慰霊碑の碑文だ。慰霊碑は、この地に眠る人々の霊を雨露から守りたいという気持ちから、埴輪(はにわ)の家型に設計されている。

 

 そして、そこには「安らかに眠って下さい。過ちは繰返しませぬから」と書かれている。被爆者である雑賀忠義(元広島大教授)が考えた文章だ。

 

 この文言には「主語があいまいだ。碑文は原爆投下の責任を明らかにしていない」「原爆を投下したのは米国であるから、文章を変えるべきだ」との批判が、今に至るまで寄せられている。

 

 たしかに、過ちを犯した「主語」があいまいで、日本人が日本人に謝罪しているようにも読める。実際、東京裁判で日本側の被告を全員無罪にしたインドのパール判事は、この碑文を知ったとき、「原爆を落としたのは日本人ではない。落としたアメリカ人の手は、まだ清められていない」と憤ったエピソードもある。

 

 ちなみに、碑文の英訳は「Let all the souls here rest in peace ; For we shall not repeat the evil」だそうで、主語は“We”(われわれは)となっている。これは「世界市民である人類全体」を意味するというのが通説だ。

 

「世界のみんなが反省している」という碑文は、アメリカの責任を隠蔽したが、そのおかげで「従軍慰安婦」問題のような後ろ向きの論争を引き起こさなかったといえるかもしれない。

 

 ひるがえって、謝罪をしないことを前提としたオバマ大統領の演説も、はるか昔の石投げに始まり、人類の歴史を戦争と文明という壮大な話にしてしまったことで、いったい何を言っているのかよくわからないものになってしまった。

 

 こちらも主語は「われわれ」という「世界みんな」であり、核兵器廃絶を訴えたいのはわかるが、結果的に建前論に終始した。

 

 オバマ大統領は、就任当初の2009年、プラハで「核兵器なき世界」を目指すと宣言した。「核兵器を使った唯一の核保有国として、米国には行動する道義的責任がある」と述べており、このときは、明らかに自分が頑張るという強い意志があった。

 

 オバマ大統領がこの宣言でノーベル平和賞を受賞したときも、もしかしたら世界が本当に平和になるかもしれないという期待を抱かせた。

 

 だが、今回は任期の最終年で、レームダック(死に体)状態なだけに、「自分はできなかったけど、やれればいいね」程度の演説にしか聞こえなかった。

 

 歴史的訪問を実現したオバマ大統領を批判するつもりはないが、この8年の演説の変化を思うと、やはり「世界市民による世界平和」なんて机上の空論だとしか思えない。とても残念な話ではあるが、それが現実なのだろう。

 


 

(著者略歴)

濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

 1983年生まれ、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本史に学ぶリストラ回避術』『現代日本を操った黒幕たち』ほか多数

 

 

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