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囚人消防士から消火ビジネスまで…「カリフォルニア大火」舞台裏

社会・政治 投稿日:2019.11.10 16:00FLASH編集部

囚人消防士から消火ビジネスまで…「カリフォルニア大火」舞台裏

AP/アフロ

 

 カリフォルニアワインの産地ソノマ地区で起きた大火事は、11月6日夜にようやく鎮火した。2週間で315平方キロを黒焦げにし、20万人近くを避難させた。

 

 今年はロサンゼルスのハイウェイのすぐ脇でも炎が燃え盛り、街がまるで映画のワンシーンのような光景となった。火事が制御不能となるなかで、ニューサム知事は10月27日に州全域に非常事態を宣言。UCLAやUCバークレーは一時休校、スヌーピーミュージアムは休館、ハリウッドセレブのアーノルド・シュワルツェネッガーも避難を余儀なくされた。

 

 

 カリフォルニアの火事は毎年のように起きるが、いったいなぜここまで燃えさかるのか。

 

 カリフォルニアでは、乾季は一面が茶色い枯れ草だらけになる。緑なのは人間が水を撒いているエリアか地中深くまで根を張った木。本来このあたりの山は茶色い禿山だ。

 

 そこそこの長さのある枯れ草が密集して生えているので、いったん火が付けば、あっという間に炎は燃え広がる。そこに乾燥した季節風が「ふいご」のように風を送るのだ。

 

 今年は特にこの風が強く、フェーン現象が加わる山の風下側はきわめて乾燥していた。市内の空港では湿度1%が何度も観測されている。ちなみに東京では最小湿度(その日の最低湿度)25%、実効湿度(木材などの乾燥度)50%で乾燥注意報が発表される。

 

 トランプ大統領は、「毎年カリフォルニアの火事で出費がかさむ」とニューサム知事をツイッターで非難したが、知事は「地球温暖化を信じていない人間から言われる筋合いはない」とツイートし返している。この2人は以前から折り合いが悪い。大統領は下草を刈れと言っているが、その作業は火を消すよりはるかに大変だろう。

 

 カリフォルニアは大規模な停電となったが、火事が原因で停電したわけではない。出火原因と言われるのがイヤで、カリフォルニア全土の電気会社が計画停電したのだ。300万人が影響を受けたと報道されている。計画とは言いながらも実際はかなり無計画で、行政も含め直前まで詳細がわからない。告知なしに停電されてしまった人もいる。

 

 それでもなお、電気設備が原因と推定される火事が起きた。カリフォルニア州最大の電力会社PG&Eは、おととしの山火事の損害賠償が原因で経営破綻している。今後も損害賠償が増えることが予想されるうえ、停電による被害も補償しなくてはならなくなるだろう。

 

 火が燃え盛るなかで、家庭の必需品となったのがマスク。N95規格以上が推奨されている。マスクの真ん中のプラスチック部分にフィルターがあり、そこから呼吸できる。鼻の部分は金具でフィッティングできるようになっており、正しく装着すれば空中の微粒子の95%が防げるという。ホームレスの多いカリフォルニアでは、少なくとも3000個のマスクが彼らに配られた。

 

 ソノマの山火事には、州内506の消防署から応援が駆けつけたほか、他州の159の消防署が消防活動に参加し、ピーク時には5245名の消防士が活動した。

 

 さらに、囚人たちが時給1ドルで消防活動に参加している。カリフォルニアでは1946年からこうした動きがあり、今では州内44カ所の収容所が、消火活動に参加させるプログラムを実施している。およそ2600名の囚人が作業に従事できる資格を持っている。

 

 スキルを身につけたとしても前科者は消防士として採用されないため、出所後のキャリアにはならないが、“Do the right thing.”(いいことをしよう)という掛け声のもと、囚人達が危険な任務を引き受けてくれている。

 

 その一方、プライベートで消防士と契約する人も増加中だ。プライベート消防会社は1980年代から存在し、多くは保険会社のために働いているが、現在は全米に250社ほどあって成長産業になっている。費用は最大で1日3000ドルくらい。昨年はキム・カーダシアンの個人宅で消火活動して、物議を醸した。

 

 カリフォルニアではもうしばらく乾燥した天気が続く予想だ。今回、多くの家庭で、家の保険が10%ほど値上がりした。ここ数年、州内に引っ越してくる人より州外へ越していく人の方が多いのも、物価高や悪化する山火事、電気会社の混乱などが原因だろう。この流れはまだまだ続きそうだ。(取材・文/白戸京子)

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