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元榮太一郎「僕の勝ち方」(1)弁護士ドットコムを起業

社会・政治 投稿日:2020.02.01 16:00FLASH編集部

●「完全無料で100%の安心を」新しい仕組みを作るために“やせ我慢”

 

 2005年1月15日、元榮氏は自宅で、「弁コム」と「オーセンス」それぞれの前身となる、2つの事業を立ち上げた。そして同年の8月31日にwebサービス「弁護士ドットコム」がスタート。ところがサイト運営には、大きな壁が立ちふさがっていた。

 

「弁護士法では、『報酬を目的とする、弁護士業務の仲介をしてはならない』と定められています。これは、『仲介業にあたる、依頼者と弁護士のマッチングでの収益化が望めない』という意味です。さらに、2000年の9月までは弁護士業の広告行為が禁止されており、とにかく業界のハードルが高い状況でした。

 

 そのようななかで『サイト運営にあたり、登録してくださる弁護士さんから、運営原資として実費相当分の費用を受け取るのは合法だろう』という、収支を均衡させる形で適法化する案も持ちあがりました。ですから、最初はその方針でいこうかと考えていたんです。

 

 しかし、『合法であるだけでは不十分だ』と思い直し、まずは皆さんに100%安心して使ってもらえるサービスにしようということで、『弁護士ドットコム』を完全無料のサイトとしてスタートしたんです」

 

 元榮氏を無料化に踏み切らせたのは、「伝統にも寄り添いつつ、日本で初めてのサービスを世の中に提案して社会を変える」という志だった。

 

「“一見さんお断り” という伝統的文化が残る弁護士業界を相手に、“一見さんに門戸を開く” 僕らの事業は、弁護士さんたちにもユーザーにも、温かく応援してもらえるようにするために、『とにかく丁寧に進める必要がある』と感じていました。

 

 伝統ある世界に新しい仕組みを作るには、“わかりやすさ” がなにより大事です。ですから、『やせ我慢でも法律違反の可能性をゼロにし、弁護士さんたちのサイト登録のハードルと、ユーザーの安心感を最優先に考えよう』と決めました。

 

 無料モデルであれば、弁護士法上の法的リスクはゼロになります。そこで、満を持してサイトの一般広告枠の販売以外は、“収益性ゼロ” の状態で出発したんです」

 

「弁護士ドットコム」の始動から1カ月後の2005年10月7日、運命の1日が訪れる。『朝日新聞』『読売新聞』に、同時に弁コムの紹介記事が掲載され、『めざましテレビ』(フジテレビ系)の新聞コーナー、そして「Yahoo!ニュース」のトピックスに取り扱われたのだ。

 

「ユーザーの方々から、ものすごい反響をいただきました。一方で、報道をご覧になったようで、弁護士会から直後にお問い合わせをいただいたんです。

 

『これを契機に、きちんとご理解をいただこう』と思い、日本弁護士連合会(日弁連)と、僕が弁護士として所属する第二東京弁護士会に、ご説明に伺いました。

 

 両会とも、もちろん懸念は、うちのサービスが『弁護士法72条に抵触していないか』ということ。わかりやすさ重視の完全無料サービスですから、『弁護士とユーザーいずれからも報酬が発生しない仕組みにしています』とご説明させていただきました。

 

 加えて、法律で困っているのにつてのない方が、ネットで弁護士とつながる場所の必要性を、『弁護士をもっと身近にしたい』という思いとともにお話ししました」

 

 クリアなサービス設計によって、運営に対する理解を得ることに成功した元榮氏。だが、精神的な重圧は続く。

 

「弁護士法に抵触しないことに加え、『法律で困っている人を助ける』という社会的意義にもご理解はいただけたのですが、弁護士会から審査結果をいただくまでは、本当に毎日、胃がキリキリしっぱなしでした(苦笑)。

 

 さらに僕自身、何をするにも基本的に “過去の判例に拠りどころを求める” いち法律家でもあります。『準拠するルール』をもたないサービスを運営し続けるのは、とてもツラい。まさに、暗中模索です。

 

 創業から2年後の2007年12月になって、ようやく一筋の光明が差します。大阪弁護士会が『インターネット法律相談事業関与規則』という、僕たちのような法律相談サイトに、弁護士さんたちが参加するための、規則とガイドラインを定めてくださったんです。それまでは、自分のなかの法的倫理観だけが頼りでした」

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