新型肺炎が世界中に感染拡大するなかで、アメリカでもトイレットペーパーを大量に買いだめする人が続出している。こうした行動を英語で「パニック・バイイング(panic buying)」と呼ぶ。
2月25日、CDC(疾患予防センター)が「感染拡大に備えるように」との声明を出したことで、関連団体、メディアなどが次々と2週間ぶんの備蓄を呼びかけた。もともと週末にまとめ買いする人が多いなかで迎えた最初の週末だけに、あちこちの店が異様な賑わいを見せた。
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まとめ買いで有名なコストコは開店前から長蛇の列。シリコンバレーでもレジの長さが話題となった。
特に入手困難なものはサージカルマスクとアルコール消毒剤だ。オンラインでも品切れが目立ち、南カリフォルニアや東海岸のボストンでもマスクが売り切れとニュースになっている。
CDCやWHO(世界保健機関)は、マスクは病気になった人がつけるもので、予防効果は薄いとしている。アメリカにはもともとマスクをつけて歩く習慣がないので、いまも街なかでマスク姿はあまり見かけない。それなのにこれほど在庫がないのは、どこかで買いだめされている証拠だろう。
ドラッグストアやスーパーマーケットを回ったが、最も買いだめ被害にあっていたのは、中華系のスーパーだった。店の外に大量に並べていたミネラルウォーターはすっかり消え、店舗内にも水は見当たらない。店員に聞いたところ、全部なくなったと言う。棚も空きスペースが目立った。
全米中に店舗を持つ庶民的なスーパーでは、トイレットペーパーが品薄だった。12個入りなど小さなパックだけが残り、48個や36個入りのものが消えていた。水は持ち歩けるサイズだけが残り、1ガロン(3.78リットル)以上の物はすべて売り切れ。驚いたことに米もほぼなくなっていた。ビネガー(酢)、カップラーメン、シリアル、缶詰、パスタ、スナックなども品薄で、2週間の隔離生活に入ったときに食べたいものが何か伺い知れるようで面白い。
ちなみに日系スーパーではマスクが売り切れだったが、数日中に入荷されるという。「ペーパー類を大量に購入したお客さんがいましたよ」と店員が話していたが、この店ではまだ在庫に余裕があるようだった。また、とあるドラッグストアでは店舗内の商品の半分がないというので調べてみたら、そのチェーン店は経営が変わり、人員の大幅カットで、商品補充に回るスタッフがいないとのことだった。
噂が噂を呼び、テレビで「いま準備すべき物は懐中電灯やラジオ、キャンディ」をあげた専門家がいたが、「それは他の災害だろ」とつっこまれていた。
さまざまな情報が錯誤しているなかで、とあるメディアが準備リストの最後に載せていた言葉が秀逸だった。それは「Keep Calm(冷静に)」だ。(取材・文/白戸京子)