現在の竹内は登山活動を続けているが、自身の経験を生かした上で、「未来がよくなるものに貢献したい」という想いから、主に2つの活動に力を入れている。1つは野外学習の分野で子供の教育に関わること、そしてもう一つがネパールでの農業支援だ。
教育面では、日本の大学で学ぶ外国人留学生の学費をサポートするスカラーシップ制度を実施している。竹内自身も学生の面接に参加しており、留学生1人1人について思い入れがある。
「アフガニスタンの若い女性をスカラーシップに選びました。イスラム圏では女性の社会進出はいまだ困難な状況です。彼女には日本で学んだことをベースに自立していきたいという目標があり、それを応援することで、少しでもイスラム圏の女性進出に寄与できればと願っています」
登山家としてネパールと切っても切れない関係にある竹内が、ネパールの人たちの生活向上に関わりたいと力を入れるのが、農業支援だ。
「(首都の)カトマンズ周辺の村では出稼ぎが主な収入ですが、ハードな労働で命を落とす人が多い。そこで村人が出稼ぎに行かず安定した収入を得られるように、現地の気候にあうイチゴの品種を探して栽培しました。完全買取制にして、高級ホテルやレストランに卸すことで土地の発展に寄与する仕組みです」
竹内はネパールの状況をよく知る人間としてアドバイスをおこなっている。
「もともとは、ありふれた農作物として市場に山積みで売られていたイチゴです。その品質と生産量を高め、パッケージや販売ルートの確立により、高級フルーツとして流通させ、農家の収入と生活の質を高めさせていくことが、今の目標です」
竹内に、これまで自分を支えてきたものはなんだったのか尋ねると、「人との出会い。いままで出会った人との出会いが結局すべてだった」と答えた。ひとつひとつのエピソードを、辛抱強く言葉を選んで説明する姿からは、どんな小さなことでも、納得いくまで理解したいという姿勢がうかがえる。そのことを伝えると微笑み、「性分なのかな」と答えた。
竹内洋岳
1971年、東京都生まれ。立正大学客員教授。プロの登山家として、2012年、日本人初、世界で29人目の8000m14峰完登を達成した。株式会社ハニーコミュニケーションズ所属
取材・文/岩崎桃子
浅草生まれのアートディレクター。高校時代からドキュメンタリー制作、モデルなどで活躍。コロンビア大学留学後、外資の金融機関で働く。海外写真家の仕事を手伝ううち、アートの世界にシフト。プロデューサーとして、写真集『edo』をドイツで出版